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 先にサンドイッチを食べ終わったオレが敬久さんを携帯電話のカメラで撮っていると、彼は「食べ終わってから撮ってよ」と苦笑した。

「自然な敬久さんを記録したいんです」
「……僕も後で君を撮るからね」
「ふふ、沢山撮り合いましょう」

 敬久さんはカメラを持って来ていると言っていたので散歩中に撮り合うのも楽しそうだ。オレの携帯電話にも彼との思い出が沢山記録されている。二人の思い出が見える形で増えて行くことがとても嬉しい。

「写真があると何をしていたか色々思い出せて良いですよね」
「そうだね。忘れたくなくても、月日が経つとどうしても細部まで覚えていられないから」

 食べ終わったサンドイッチの包みを畳みながら敬久さんはそう言った。オレは相槌を打とうとしたが彼の口元にサンドイッチのソースが跳ねていたのに気づき、紙ナプキンを取り出した。

「敬久さん、口元にソースが」

 オレが紙ナプキンで口元をスッと拭うと、照れくさそうに目を細めた。

「……ありがとうございます」
「どういたしまして!」

 笑って言うと敬久さんはしばらくオレを見つめ、切なそうにため息をついてから「誕生日のことなんだけどさ」と切り出した。 

「遥君が毎日会える距離にいて教えてくれたら、自分の誕生日を忘れないと思うんだ」
「え、あ……うぅ、そ、そうなんですか?」

 不意に真面目な声色になった敬久さんがオレの手を取り、囁くように言った。

「君といるといつも幸せだけれど。昨日は本当にいつも以上に君が傍にいてくれて、僕を愛して……想ってくれていて良かったって思ったんだ」

 他愛ない話で談笑していたのに、突然のこの感じは心臓に悪い。指を絡めてギュッと手を握られ胸が騒がしくなった。

「遥君もいい加減聞き飽きているかもしれないけれど、僕達そろそろ一緒に暮らさない?」
「……敬久さん」

 確かにいつも様子を窺うようにそれとなく同棲について聞かれていた。オレはいつも覚悟が決まらなくて煮え切らない返事をし、彼はその度に笑って話を切り上げてくれた。

(……今、一緒に暮らしたら浮かれちゃうかもしれないって先延ばしに先延ばしを重ねていたけれど、敬久さん側からしたら、毎回尋ねるのも勇気がいることだよな)

 いつか一緒に暮らしていくことは考えていたけれど、どこか夢のようにも感じていた。このまま決断を先延ばしにしていけば、俺は敬久さんに同棲を匂わせているだけの思わせぶりな男になってしまう。

(く……オレはまた、いつかのように敬久さんに思わせぶりな態度を取ってしまった! 今からでも挽回出来るだろうか)

 敬久さんが誕生日を忘れないように、ずっと彼の傍にいたい。

(いつか……決断しないといけない日が来ると思っていた。それが、きっと今日だったんだ)

 オレは浮かれて失敗してしまうかもしれないけれど、その時はひとつひとつ問題に向き合って対処して行くしかない。

(オレ達なら何か起こったとしても二人で話し合って……支え合って……これからも、ずっと、ずっと、一緒に生きて行ける!)

 オレは敬久さんを見つめ返し、指を絡められた手にもう一方の手を重ね、深呼吸してから自身のありのままの気持ちを彼に伝えた。

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