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 敬久さんと存分に愛し合った後、オレはしばらく起き上がれずに頭がぼんやりとしてしまっていた。敬久さんはそんなオレの体を拭き、ガウンを着させ、布団までかけてくれた。

(あ、あれ、オレ、何回イッた……? 覚えていないくらいに気持ち良くしてもらってないか……?)

 彼を慰めるのが目的だったはずが、自分の方が慰められたような気がする。

「……敬久さん」
「ん? どうしたの?」

 敬久さんは下着にワイシャツを羽織っただけの状態でオレの傍らに座り、お茶を飲んでいた。

(乱れた格好の敬久さんは普段の感じと違っていて素敵だ……)

 ぽーっと見惚れていると「遥君?」と首を傾げられたのでガバっと起き上がった。

「すみません。見惚れてしまって」
「見惚れる所あったかなあ」

 敬久さんはクスクスと笑ってオレを引き寄せた。

「体は辛くなっていない?」
「はい……何て言うか……ずっとお腹の中が気持ち良くて、すごくて……敬久さんはやっぱり、上手ですよね」
「上手って……うん、ありがとう」

 オレがモゴモゴとそう呟くと敬久さんは気まずそうにお茶を啜った。

「……オレももっと頑張ります」
「遥君は十分頑張っているし、今日も色々考えてくれてすごく嬉しかったよ」
「でも、オレ、もっともっと……あなたを慰めたかったんです!」
「いや……すごく慰めてもらえたし、楽しかったよ」

 敬久さんは「本当に頑張り屋だね」と頭をポンポンと撫でてくれた。

「楽しかったなら良かったです……また、ああいうのしましょうね?」

 オレはベッドのサイドボードに置かれたネクタイをチラリと見た。
 
「……また、あんなことを君にさせて良いの? 本当に?」
「あんなことってオレが言い出したことですし。それにオレ達もうあと何ヶ月かで……こ、恋人になって2年じゃないですか?」
「うん、そうだね」
「いつか倦怠期を迎えたりするかもしれませんし、今までしたことない色々なことを試すのも、良いんじゃないかなって……」

 オレが消え入りそうな声で呟くと敬久さんはゴホゴホとむせた。

「だ、大丈夫ですか!?」
「……うん、お茶でむせただけだから」

 むせたせいか頬が赤くなっている。敬久さんはペットボトルの蓋を閉め、サイドボードに置いて息をついた。

「遥君はそういうことも考えてくれているんだね」
「この先も、ずっとずっと一緒にいるなら、あなたの心も……体も、全部オレが満たしたくて」
「そっかあ。今でも君にすごく愛されている自覚があるんだけど……これ以上があるんだ」

 敬久さんは口元を押さえて「幸せ過ぎておかしくならないかな」とボソリと呟いた。

「ありがとう。遥君」

 返事代わりにギュッと腕に抱きつくと敬久さんもオレの肩を抱いてくれた。

「今日出来なかった夜景デートはいつ行こうか?」
「またデートしてくれるんですか? 嬉しいです!」
「今日は僕が拗ねて台無しにしたからね」
「違いますよ。今日は、何だか……お互い、どうにもならないタイミングがあるって言うか……」

 何と言って良いのか分からないのでしどろもどろになりながら話を続けた。

「こういう、どうにもならない時は……何とか、問題を一つ一つ対処していくしかないですし」

 今日と言う日が無かったことにならなかったのは嬉しいけれど、アクシデントさえ無ければもっと良かったのは事実だ。ただ、今日のアクシデントを起こらないようにするためには、オレが過去に戻って大学生時代からやり直さなければならない。それは無理な話だ。

「オレも敬久さんも喧嘩して発散ってタイプじゃないですから……何かあった時は今日みたいに二人で話し合いたいなって、思います」
「僕は……自分の中で完結させる所があるから、君とちゃんと話し合うよ」
「お互いに……有耶無耶にして、わだかまりみたいになるのは……オレ、嫌なんです」
「うん、分かった」

 敬久さんはオレの左手を取り、指輪を撫でながら頷いた。

「夜景デートはまた今度行けたら嬉しいです! 今月は敬久さんの誕生日もありますし、イベントが重なっちゃいますから……」

 10月の24日は敬久さんの誕生日だ。プレゼントはもう用意してあるが、今月は忙しそうなので去年のように当日にプレゼントを渡しに行き、別日にちゃんとお祝いがしたい。

 敬久さんは「誕生日」と呟き、きょとんとしてからハッとした表情になった。

「本当だ。僕、今月が誕生日だね」
「……忘れてたんですか?」
「うーん、日付は覚えていたんだけど、何だかもっと先のような気分でいたかな」
「忘れちゃダメですよ」

 オレは敬久さんの肩口にグリグリと頭を擦り付けた。

「ごめん。次回からはちゃんとスケジュールに自分の誕生日を入れておくよ」

 敬久さんはオレの頭を撫で「それも何だかなあ」と呟いた。

「……じゃあオレが一ヶ月前から予定を聞くようにします」
「君の手を煩わせるのもなあ……あ、遥君の誕生日は覚えているからね?」
「う、嬉しいですけど、自分の誕生日も大事にしてください」
「うん、ごめんね」

 オレの額に唇を落とし、困った風に微笑んだ。


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