上 下
12 / 30

12

しおりを挟む
「――ええ、最近は労働環境も色々言われますからね」

 懇親会会場は立食形式で中々に広い会場だった。流石に敬久さんとは会場では別行動となり、久しぶりに会った教授とその教授に連れられて来たキラキラした目をした学生達と談笑――とまではいかないが、中々シビアな話で盛り上がっていた。

(就職活動ってオレは思い出すだけで、胃が裏返るような気分がするのに、この学生達は今からそれを味わうのか……)

 エントリーシートやら履歴書やら、今はPCで作成するのかもしれないが事務作業だけでもけっこうな量になる上に、自分でスケジュール管理をして面接やら説明会に足を運ぶというのは学生には中々荷が重いことだと感じる。

(しかも断わられることもあるし、一次面接で通っても二次面接だ入社試験だのを今からこのキラキラした目の学生達が経験するのか……今のこの時間だけでも出来る限りの応援はしよう)

 この出版社希望の学生達の中には、もしかしたら将来一緒に働く人材がいるかもしれない。

(オレは入社した当初は営業にいて、最初から希望通りの部署に入れなかったこととか話した方が良いのだろうか? いや、ネガキャンになる可能性があるな……若い芽を摘みたくないから塩梅が難しい)

 学生達も遠慮がちに尋ねてくるが、けっこうしっかりとした下調べをしているようだった。オレが学生だった時はこんなにちゃんとしていただろうかと妙なノスタルジーを感じた。

(普段、大学生くらいの年代と話す機会が無いから新鮮に感じるな)

 オレは様子見しながらしばらくの間質問に答えていると教授が「此木君も色々な人と話して来るかい?」と言ってくれたので、質疑応答の時間は一段落した。学生達は会釈をして去って行き、教授とオレがその場に残された。

「今日は規模が普段より大き目ですから、色々な業種の人が来ているんですよ」

 オレが現役学生だった時から白髪が増えている以外あまり変わっていない教授はにこやかに言った。

「講堂ではなくて、ホテルの宴会場で開催するなんて珍しいですね」
「ええ、最近はずっとこういった催しは大学のホールを使っていたんですが、学生側から要望が積もりに積もっていたらしくて……」
「ああ、そういったことなのですか」

 オレの卒業した大学はまあまあ歴史があるせいか、ホールなどの建物はだいぶ年季が入っている。オレが在学していた頃から改修工事などが行われていないのならば、あのホールで華やかな懇親会などを行っても盛り上がりには欠けそうだ。

「学生の方はきっと喜んでいるんじゃないでしょうか。私も昔参加した懇親会は運良くホテルが会場で――今となっては良い思い出ですし」

 オレは敬久さんを思い浮かべながらそう言った。

「ありましたねえ。懐かしい。今日みたいに柊山君も来ていて此木君を紹介しましたね」

 教授は懐かしそうに言うと会場を見渡し、敬久さんが学生や年かさのスーツ姿の男性や女性達数人に囲まれている姿を見つけると「相変わらず柊山君はモテていますね」と楽しそうに言った。

「卒業生も普通に彼のファンみたいですね」
「柊山先生は顔出しもしていますし、社交的ですから」

 教授はうんうんと頷きながら「それに柊山君は格好良いですし」と言った。

(確かに敬久さんは格好良い。細身でスラッとしていて立ち振る舞いに余裕があるし、整っていて穏やかな顔立ちだけれど目は意外と鋭くてキリッとしていて、そこがギャップで……)

 危うく教授相手に惚気そうになり「担当編集としては喜ばしい限りです」と当たり障りのない返事をした。

「あの時に出会った二人が今は一緒に仕事をしているのは縁を感じますねえ」

 教授が何気なく言った言葉にオレは「全くです」と心の底から同意した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

アキノワルツ ~親友へ決死の告白をした高校生男子・真島くんのその後~

カノカヤオ
BL
『ナツノヒカリ~親友への片思いをこじらせる高校生男子・真島くんのひと夏の物語~』続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/114322914/596749084 「灰谷、オレ、オマエが好きだ。好きなんだ。どうしようもなく、好きで好きでたまらないんだ」 長年の思いをやっとのことで口にした真島。 今までと変わらないようで、でも少しだけ違う微妙な距離感になった真島と灰谷。 バイト先の後輩・友樹はやたらと真島になついてきて……。 二人の悪友・中田と佐藤にもそれぞれ変化が訪れる……。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

処理中です...