恋風

高千穂ゆずる

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想いは滔々と、滔々と(終)

(終)

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「もういい? だめ?」
 真っ白な世界にちょこんと立ち、首を傾いで雪也を見上げている。その様を眺め、雪也が困ったように笑う。
「まだ、だめ?」
 亮が下唇をきゅっと噛む。まだ傍に言ってはだめなのかと切れ切れに問う。
 雪也の唇が僅かに動き、亮の身体はすぐさまそれに反応した。跳ね上げるように面を上げ、自分を見下ろす双眸を期待を込めてじっとみつめる。
 歯軋りするように、お願いと呟いた。
 雪也の手が、燕に刺された箇所をゆっくりとなぞる。
「俺にはもう治せないよ?」
「治す必要はないから」
 傷などどうでもいい。今は雪也の傍に行くことしか考えられない。後は、雪也の許しをもらうだけ。
 雪也の視線が横に逸れる。戸惑っているようにも見えた。
「もう、誰もぼくを傷つけることはできない。ここは……そういうところなのでしょう? だから安心して。雪也さんも、ぼくを傷つけることはできないんだから」
雪也は眩しそうに目を細め、脂下がったように口元を緩ませる。初めて見る表情だった。改めてこちらを向いた彼は「おいで」と言いながら両手を広げて見せた。
亮は甘えるように飛びついた。ふわりと全身を包み込む雪也の香りを胸いっぱいに吸い込む。自分を支配する雪也の存在を確かめるように身体をすり寄せた。
 耳元で、切なく自分を呼んでくれる雪也が愛しくて恋しくて堪らなくなる。
「もっと、強く──。酷くしていいから。もっと強く抱き締めて。二度と離れてしまわないように」
 懇願するように呟いた。
 その言葉に応えるように雪也の顔が近づいてくる。柔らかな唇が恐る恐る触れてくる。
亮の頬に温かいものが零れ落ちてきて、それが雪也の涙だとわかると亮の頬も涙で濡れた。
 互いに欲するものが闇の中にしかないと喘いだ二人の口づけは、静かに合わさっていった。
 
                                             了
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