恋風

高千穂ゆずる

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思いの果て

(6)

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 病院の別棟の二階に、自室があるのだと言って亮は喬一を案内した。今は医療従事の補佐役として扱われているので、こうして個室を与えてもらっているのだと説明する。
 隣が雪也の部屋だと聞いた喬一のこめかみが僅かに痙攣したが、口元を攣らせながらどうにとか誤魔化す。邪推すればきりがないのだから、程々にしなければこれから先が持ちそうにない。
「隣が雪也さんの部屋だから、迂闊に忍びこれないみたい」
 亮はお茶を用意する片手間に、世間話のように言う。
 喬一は座る場所を探して部屋を見回してみたが、ベッドくらいしかなく、仕方なくそこに腰掛けた。亮はティーカップをベッドの横に据えてある、背の低い整理ダンスの上に置き、喬一の足の間に強引に座ると、ぎゅうってして、と甘えた声を出した。
 喬一は口元を緩めながらそれに従い、抱き締めてやると、ここへ来た本来の目的を告げた。
「この病院で患者が慰み者になっているっていう噂を聞いたんだ。新聞記者がそれを調べてる」
「――それは本当のことだよ」
 亮の声が一瞬沈む。
「誤解がないように言うけど、このことには雪也さんは一切関係していないから」
 弁解するように早口で捲し立てた。
「わかってるよ。アニキは亮にだけ固執しているから……。女なんざ何とも思っちゃいないんだろう」
「責任者の雪也さんが黙認しているから、他の人たちが好き勝手するんだ」
 喬一は考えを纏め始めていた。亮の無事な姿も見られたし、新聞記者が言っていたことも事実だった。今日は一旦戻ってから今後のことを検討して──などと考えていると、喬一の袖口を握り締めた亮が泣きそうな顔で見上げていた。
「もう帰るの? まだ時間はあるよ?」
 あまりのいじらしさに喬一はくらりと眩暈がする。
「あの時だって……ぼくを置いてすぐに帰ったじゃないか」
 喬一の胸が痛む。前回の話を持ち出されては堪らない。後悔することばかりをしでかした嫌な日だ。
「今日は面会時間が終わるまで傍に居てよ」
 大きな瞳に涙を溜めて、唇を震わせながら懇願されては帰るに帰られない。新聞記者への電話は明日改めてすればいい。喬一は帰るのを取り止めた。
 喬一が一緒に居てくれることがよほど嬉しいらしく、亮が顔を胸に押しつけるように埋めると、愛しそうにその肩を抱いた。
 呼吸を合わせたみたいに二人は視線を絡ませ、自然と唇が互いのそれへと吸い寄せられていく。
「喬一さん、あのね。酷くしてもいいから……いっぱい愛してね」
 亮の甘ったるい声が可愛い台詞を吐く。喬一は食むようにその唇を覆い、吸い上げると、亮も甘い吐息を吐きながら急くようにそれに応えた。
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