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第二部
覚悟はできている
しおりを挟む翌日早朝。
僕らは早々に身支度を済ませ、ウェインさんに先導されてとある山の中に向かっていた。
そこにはA級ダンジョンがあり、彼女がサブマスターを務めている「天使の涙」の冒険者ですら容易には近づけないそうだ。
だが、三大ギルドのマスターレベルともなれば、A級であろうと問題なく攻略できるのだろう。ラウドさんが今日出没すると予想されているのは、まさにその危険なダンジョンなのである。
「『破滅龍』の行動パターンと目撃情報を元に計算し、あそこに潜るだろうと予想を立てました……確率は八割強でしょうか」
森の中の道なき道を進みながら、前を行くウェインさんが説明する。
「現時点での彼らの構成人数は、恐らく五十人前後と思われます。この短期間で勢力を伸ばしたのか、はたまた最初から頭数を揃えていたのかはわかりませんが、闇ギルドにしてはかなりの数です。そして、ラウドさんの性格からして全員が実力者であると考えられます」
あの人は強さを求めて闇ギルドを立ち上げたくらいだ、仲間にも相応の力を求めるに違いない。こちらからすれば迷惑な話である。
「作戦は昨日話した通りです……私と軍の方々で連携して、ラウドさん以外の敵に対処。クロスさんとニニさんはエリザベスさんの周りを警戒して、ラウドさんと戦う彼女に邪魔が入らないようにしてください」
彼女が提案したのは、僕が予想していたのとほぼ同じ作戦だった。
結局、ラウドさんを倒すことができるのはベスくらいのもの……他の誰が共闘したところで、あいつの助けにはならない。一兆と一兆一を比べても、その差が有意でないのと似たようなものだ。
なら、せめてベスが集中して戦えるようにサポートをするのが、僕たちの大事な役割である。
「おい、青髪」
背中の杖から、実に眠たそうな声が聞こえてきた。
青髪というのは、ベスがウェインさんを呼ぶときの言い方である。まだ名前を覚えてはいないらしい。
「なんでしょう、エリザベスさん」
そんな失礼極まりない呼ばれ方をされても、彼女は顔色一つ変えることなく対応していた。大人だ。
「正直、儂は昨日のお前の話をほとんど聞いておらんかったんじゃ……直前までこの馬鹿な男とくだらない言い争いをしていた所為で、すこぶる眠くての。じゃから、今改めてその作戦とやらを聞いたのじゃが、もっといい案があるぞ」
「……いい案、ですか」
「そうじゃ。お前が軍と連携して~とか、そんな七面倒臭いことをやらんでもよい。儂が全員倒す」
「ぜ、全員?」
さすがのウェインさんも、今の発言には驚きの声をあげるしかなかったようだ。
僕の代わりにいいリアクションをしてくれた。
「五十人前後じゃろ? 余裕じゃ、余裕。あのラウドとかいうのが五十人いるなら話は別じゃが、そこまでの強者は揃っておらんのじゃろ?」
「それは、そうだと思いますが……でも……」
現状を理解していないような気軽さでとんでもない提案をするベスに対し、ウェインさんは戸惑いの色を隠せない。
けれど、僕はわかる。
わかってしまう。
ベスがしっかりと現実を見ていて――その上でさっきの発言をしているのだと。
「儂に任せろ。今回は、最初から殺す気でいく。その許可も出ておるし、その覚悟もできておる……そうじゃろ、お主」
ベスは僕に向けて問いかける。
お前には、人を殺す覚悟ができているだろうと問いかける。
「……ああ。もちろんだ」
できれば殺したくなんてない。
だが――僕は決めたんだ。
大切なものを守るためには、自分以外の何かを犠牲にする覚悟を持つと。
「破滅龍」を野放しにしていれば、きっと近いうちに僕の大切なものが傷つく。
それを防ぐためなら、僕は彼らを殺し……彼らの命を犠牲にする。
そして、その責任を負うのだ。
覚悟は――できている。
「最前線には儂が出る。お前らは、倒し損ねた者たちを片付けてくれればそれでよい」
「……わかりました。軍にはそのように伝えておきます」
ベスに強く言い切られ、ウェインさんは渋々納得したようだった。こいつの魔法を間近で見たことがある彼女にしてみれば、強気な態度に出られたら肯定するしかないのだろう。
ラウドさんは確かに脅威だが。
ベスが負けることは、有り得ない。
そう信じさせられてしまう実力を、こいつは持っているのだから。
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