上 下
98 / 108
第二部

覚悟はできている

しおりを挟む

 翌日早朝。

 僕らは早々に身支度を済ませ、ウェインさんに先導されてとある山の中に向かっていた。

 そこにはA級ダンジョンがあり、彼女がサブマスターを務めている「天使の涙エンジェルラック」の冒険者ですら容易には近づけないそうだ。

 だが、三大ギルドのマスターレベルともなれば、A級であろうと問題なく攻略できるのだろう。ラウドさんが今日出没すると予想されているのは、まさにその危険なダンジョンなのである。


「『破滅龍カタスドラッヘ』の行動パターンと目撃情報を元に計算し、あそこに潜るだろうと予想を立てました……確率は八割強でしょうか」


 森の中の道なき道を進みながら、前を行くウェインさんが説明する。


「現時点での彼らの構成人数は、恐らく五十人前後と思われます。この短期間で勢力を伸ばしたのか、はたまた最初から頭数を揃えていたのかはわかりませんが、闇ギルドにしてはかなりの数です。そして、ラウドさんの性格からして全員が実力者であると考えられます」


 あの人は強さを求めて闇ギルドを立ち上げたくらいだ、仲間にも相応の力を求めるに違いない。こちらからすれば迷惑な話である。


「作戦は昨日話した通りです……私と軍の方々で連携して、ラウドさん以外の敵に対処。クロスさんとニニさんはエリザベスさんの周りを警戒して、ラウドさんと戦う彼女に邪魔が入らないようにしてください」


 彼女が提案したのは、僕が予想していたのとほぼ同じ作戦だった。

 結局、ラウドさんを倒すことができるのはベスくらいのもの……他の誰が共闘したところで、あいつの助けにはならない。一兆と一兆一を比べても、その差が有意でないのと似たようなものだ。

 なら、せめてベスが集中して戦えるようにサポートをするのが、僕たちの大事な役割である。


「おい、青髪」


 背中の杖から、実に眠たそうな声が聞こえてきた。

 青髪というのは、ベスがウェインさんを呼ぶときの言い方である。まだ名前を覚えてはいないらしい。


「なんでしょう、エリザベスさん」


 そんな失礼極まりない呼ばれ方をされても、彼女は顔色一つ変えることなく対応していた。大人だ。


「正直、儂は昨日のお前の話をほとんど聞いておらんかったんじゃ……直前までこの馬鹿な男とくだらない言い争いをしていた所為で、すこぶる眠くての。じゃから、今改めてその作戦とやらを聞いたのじゃが、もっといい案があるぞ」


「……いい案、ですか」


「そうじゃ。お前が軍と連携して~とか、そんな七面倒臭いことをやらんでもよい。儂が全員倒す」


「ぜ、全員?」


 さすがのウェインさんも、今の発言には驚きの声をあげるしかなかったようだ。

 僕の代わりにいいリアクションをしてくれた。


「五十人前後じゃろ? 余裕じゃ、余裕。あのラウドとかいうのが五十人いるなら話は別じゃが、そこまでの強者は揃っておらんのじゃろ?」


「それは、そうだと思いますが……でも……」


 現状を理解していないような気軽さでとんでもない提案をするベスに対し、ウェインさんは戸惑いの色を隠せない。

 けれど、僕はわかる。
 わかってしまう。

 ベスがしっかりと現実を見ていて――その上でさっきの発言をしているのだと。


「儂に任せろ。今回は、。その許可も出ておるし、その覚悟もできておる……そうじゃろ、お主」


 ベスは僕に向けて問いかける。

 お前には、人を殺す覚悟ができているだろうと問いかける。


「……ああ。もちろんだ」


 できれば殺したくなんてない。

 だが――僕は決めたんだ。

 大切なものを守るためには、自分以外の何かを犠牲にする覚悟を持つと。

 「破滅龍」を野放しにしていれば、きっと近いうちに僕の大切なものが傷つく。

 それを防ぐためなら、僕は彼らを殺し……彼らの命を犠牲にする。

 そして、その責任を負うのだ。

 覚悟は――できている。


「最前線には儂が出る。お前らは、倒し損ねた者たちを片付けてくれればそれでよい」


「……わかりました。軍にはそのように伝えておきます」


 ベスに強く言い切られ、ウェインさんは渋々納得したようだった。こいつの魔法を間近で見たことがある彼女にしてみれば、強気な態度に出られたら肯定するしかないのだろう。

 ラウドさんは確かに脅威だが。

 ベスが負けることは、有り得ない。

 そう信じさせられてしまう実力を、こいつは持っているのだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~

さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。 衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。 そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。 燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。 果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈ ※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...