公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ

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第二部

一時休憩 002

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 僕らは宿場町を一通り練り歩き、手頃な宿を見つけて部屋を取った。

 ニニの我儘の所為で三部屋取ることになったのは不服だが(向こうからしたら僕に不満がある)、まあ各々が自分のスペースでゆっくり休むというのも大事だろう。

 僕らはこの先、強大な敵と戦わなければならないのだから。


「じゃ、夜ご飯までは自由行動ってことでいいか?」


「それはいいですけど、クロスさん。絶対に私の部屋に入ってこないでくださいね」


「ああ、絶対入らないよ」


「フリにしか聞こえませんが、マジで来たらぶっ飛ばしますよ」


 バタンと、ニニが勢いよく木製のドアを閉める。

 思い返せば、観光都市オーグに遠征した時も、ニニは自分の部屋に僕を招き入れてくれなかった。思春期の女子故の恥ずかしさなのか、はたまた僕が嫌いなのか。後者だったら大問題である。

 まあ、あいつのところへは隙を見て邪魔するとして(おい)……僕は一つ隣のドアを開けた。

 部屋の中は広すぎず狭すぎず、ベッドが一つにテーブルと椅子、それから軽い収納スペースがある。僕が今住んでいる公務員用の宿舎とほとんど変わらない。違うのは丁寧に清掃が行き渡っているという点だけだが、そこが大分重要かもしれない。


「さてと……」


 背中の杖を机の端に立てかけ、グッと背筋を伸ばす。ベスは当分起きないだろうし、僕も一人の時間を満喫することに――


「おい、お主」


 満喫できなかった。


「……どうしたんだよ、ベス。こんな時間に起きるの、久しぶりじゃないか」


 窓の外に目をやれば、まだまだ陽は天高く昇っている。彼女は最近、僕が寝る前に一度起きてその後一日中眠るという生活をしているので、昼間に目覚めているのは久しぶりだ。


「儂は起きたい時に起き、眠りたい時に眠るだけじゃ……今は起きたくなった」


「そうか。で、何か僕に用があるのか?」


「用がないと話しかけてはいけんとは、お主も偉くなったもんじゃの」


「そんなことはないけど……」


 ……あれ?

 何だか、杖の中から聞こえる声に、それとなく怒りが含まれているような?


「なあ、もしかして機嫌が悪かったりするのか?」


「はっ。女子に向かってそんなことをドストレートに訊くたわけがおるとはの。デリカシーのデの字もない男じゃ、全く」


「それは自覚してるよ。僕とお前の間に、そういう気遣いはいらないと思っただけで……」


「親しき中にも礼儀ありっちゅう諺を知らんのか」


 正論を言われた。


「……確かにそうだな、悪かったよ」


「お主が謝るべきはもっと別のところにある」


 謝るべきこと……どうやらベスが怒っているのは間違いないが、しかし本当に心当たりがない。

 知らぬ間にこいつを傷つけていたのだとしたら、僕は自分を許せなくなってしまう。


「ごめん、ベス。僕にはどうも心当たりがないんだけれど……お前を怒らせたなら、きちんと謝るよ。だから、一体どうして怒っているのか教えてもらっていいか?」


「はっ。見当もついておらんという顔じゃの。そんな調子じゃから、あんなことをしでかすんじゃろうが」


「……僕はお前に、何をしてしまったんだ?」


「儂にではない。ニニにじゃ」


 ニニだって?

 それこそ、仲睦まじく楽しいお喋りをしていただけのはず……けれど、ベスがここまで怒り心頭ということは、何かをやってしまったのだろう。

 ……駄目だ、わからない。これじゃあ、リーダー失格だ。


「思いつかんという顔じゃな。いいじゃろう、教えてやる」


 半ば呆れ混じりの溜息を吐いてから、彼女は口を開き。

 僕の罪を告げる。


「……何を当たり前みたいにスカート捲っとんじゃ、お主は」


「ぐう⁉」


 ぐうの音も出ない正論をかまされた……かまされたけど、そこ⁉

 それで怒ってたの? あんなに長くフッておいて?

 普通に、物語の核心に迫る重要な話だと思っていたのに……まさかスカート捲りについてとは、拍子抜けもいいところだ。

 いやまあ、拍子抜けする権利は僕にないのだけれど。


「いたいけな少女の衣類を引っぺがして下着を覗くなんて、恥ずかしいとは思わんのか」


「正面切って言われると、非常に返答に困るな」


「あやつが猫柄のパンツを履いておったからよかったものの、もし際どい紐パンなんぞを履いておったらどうするつもりだったんじゃ」


「ぐ……」


 確かに、それはいろいろとまずい。
 十五歳の少女の紐パン……犯罪の香りしかしないじゃないか。


「まさか、僕はそんな危ない綱渡りをしていたのか……つまりスカートを捲るまでは、あいつの下着は子どもパンツかもしれないし大人パンツかもしれないという、二つの状態が共存しているわけだな」


「なんじゃそのシュレディンガーの猫。猫耳とかけて上手いこと言おうとするなよ」


 世界一くだらない思考実験だった。


「まあ冗談はやめよう……確かに、スカート捲りは子どもっぽ過ぎたよな。それにもしもの話をするなら、あいつが下着を履いていなかったら一大事だ。その時点で僕たちの冒険は終了だぜ」


「ほんとに気を付けろよ、お主。ただでさえ規制が厳しい世の中なんじゃから、自分で自分の首を絞めるなよ」


 随分グレーな会話をしている。
 こういうのはニニの専売特許なのだが、あいつがこの場にいたらグレーじゃ済まなかっただろう。


「しかしお主よ。儂は違うところでも怒っておるのじゃ」


「他に何か、スカート捲りに関してお前が怒ることがあるってのか?」


「そういうセクハラ行為を、どうして儂にしてこん」


 堂々と尋ねられた。

 あまりにドンと構えられ過ぎて、一瞬何を訊かれているのかわからなかったくらいだ。


「儂のローブなんて、構造上捲りたい放題じゃろうが」


「忘れてるかもしれないけど、お前、全裸になったことあるからな?」


 しかも二回も。


「じゃから、問題はそこなんじゃよ。儂が全裸になったのは第一部の話じゃろうが。この第二部に何が足りんかと言えば、それは儂の全裸に他ならないわけじゃな」


「他ならないわけあるか!」


 脱ぎたがりの露出狂じゃねえか!

 どうやらこいつは、仏の顔も三度までという諺を知らないらしい。見た目幼女のロリエルフが三回も全裸になったら、いよいよ終わりだ。

 第二部終了だ。


「儂はいつでもウェルカムじゃ。脱ぐ準備はできておる!」


「どうしてそのツルペタボディで自信満々なんだよ」


 謎は深まるばかりだった。

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