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第二部

一時休憩 001

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 ラウドさん率いる「破滅龍カタスドラッヘ」の目撃情報を頼りに、僕たちは一路王都ランダルを目指していた……のだが、ウェインさんの提案で途中下車することになった。

 曰く、


『王都には、元勇者シリーの熱狂的な信者がいます。彼女の死後も活動を続けているらしく、最善を期すなら王都に近づかない方がいいでしょう。それにあそこは物価も高いですからね……近くの宿場町に拠点を構えた方がいいと思います』


 とのことだ。

 最善を期すとは、つまりシリーを殺した張本人であるベスやその仲間が王都に入り、その信者とやらにボコボコにされる可能性を潰すということなのだろう。こちらとしても無用なトラブルは避けたいし、敢えて王都に行きたいとも思わないので、ウェインさんの提案に乗ることにした。

 個人的には、物価が高いという方がネックではある。
 ケチではない、倹約家なだけだ。


「では、私は一旦『天使の涙エンジェルラック』に戻って情報を仕入れてきますね」


 そう言い残し、ウェインさんは僕たちと別れて一人王都へと向かった。


「あの人も忙しないですよねー。いつか過労死しそうですよね」


「縁起でもないこと言うな」


 彼女を見送った後、僕とニニは丁度いい宿を探して宿場町を練り歩く。

 さすがに王都の近くというだけあって、それなりに値段の張りそうな宿屋ばかりだ。雨風が凌げれば何でもいい僕からしてみれば、もっとボロくて安いところで充分だが……今回はウェインさんも一緒に宿泊するので、いい塩梅の宿を見繕わないといけないのだ。


「部屋はいくつ借りますか? って言うかそもそも、どのくらい滞在することになるんですかね」


「んー……滞在期間についちゃ、僕もはっきりわからないな。ラウドさんが出没してるっていうダンジョンの情報を集めて、不意打ちをする計画を立ててとなると、最低でも二、三日は掛かるんじゃないのか?」


「二、三日で世間を騒がす闇ギルドを潰せるって考えると、逆に私たち凄すぎません?」


 言われてみればその通りだ。

 我ながら甘々な試算だったかもしれない……無意識の内に、味方にベスがいるというだけで何とかなる気がしていたのだろう。

 あいつに頼りっぱなしではいけないと何度も身に染みた癖に、懲りない男だ。

 反省。


「そもそも、この少数精鋭でラウドさんたちを倒せるんですかね? もちろん、ベスさんの力があれば充分実現可能だとは思いますけれど、心許ない感は否めませんよ」


「それは大丈夫だよ。何でもカイさんが話を付けてくれて、王都周辺の軍が力を貸してくれるんだって……ただ、僕たちとは別行動になるみたいだけどな」


「別行動ですか」


「ああ。僕たちはあくまでラウドさんを倒すことを第一目標にして、その他の構成員を掃討するのが軍の役目ってことらしいぜ」


「何ともまあ、損な役回りですね」


 ニニは目を伏せながら言う。

 まあ確かに、三大ギルドの元マスター一人を相手にする方が、有象無象の冒険者を複数相手にするより断然きついだろう。

 とは言うものの、ラウドさんと直接戦うのは、やはりベスになるだろうし……僕らはあいつの邪魔にならないよう、周囲の敵を足止めする係になりそうだ。


「どういう形で戦闘をするかはダンジョンの地形にもよるし、そこら辺はおいおい詰めていこう。兎にも角にも、まずは宿だな……ちなみにさっきの質問のもう片方に答えると、部屋は二つでいいんじゃないか? 僕とベスとニニで一つ、それとウェインさんの分」


「いや、何をさらっと話の流れで相部屋にしようとしてるんですか」


 気づかれたか、耳ざとい奴だ。


「あなたと相部屋なんて絶対に嫌です。無理です。普通に考えてあり得ないでしょう」


「そこまで言われるとこっちも傷つくな……でも、使える予算には限りがあるんだから、節約できるところはしていかないといけないだろ」


「そこはケチるところじゃありません。そこをケチれば、私の貞操が危うくなります」


「心配しなくても、誰もお前のことなんか襲わねえよ」


「言うに事欠いて『お前のことなんか』ですか。クロスさん、サイテー」


 ニニはぷいっとそっぽを向き、スタスタと歩いていってしまった。

 ううむ、少し言い方がまずかったかな?

 僕はただ、ニニと親睦を深めたかっただけなのに……その意味で、いやらしい気持ちなんて一つもないということをアピールしたかっただけなのだが、どうやら失敗したらしい。

 反省することが多い日だ。

 けれど、反省してばかりでは芸がない。

 しっかりと次に活かしてこそ、真に失敗を乗り越えたと言えるんじゃないだろうか。

 僕も男だ、変に言い訳をしたり逃げたりせずに、この問題と向き合おう。

 男らしく、堂々と。


「えい」


 スカートを捲った。

 ペロンと。

 可愛い猫のイラストが描かれたパンツである。


「何しくさってんですかこの変態‼」


 見事な後ろ回し蹴りが炸裂し、僕はド派手に地面に倒れた。

 顔面をもろに蹴り抜かれ、鈍い痛みで意識が朦朧としている。

 だが、敢えて言わせてもらおう……。

 我が生涯に一片の悔いなしと!


「どうして蹴り倒されたのに満足げな表情をしてるんですか!」


「男は人生の目標を成し遂げた時、こういう顔になるのさ」


「スカート捲りが目標なら、あなたの人生しょうもなさ過ぎるでしょう!」


「おいおい、自分のパンツの価値を低く見積もり過ぎてやしないか? 世の男はみんな、お前のパンツを狙ってるんだぜ」


「そんな世界なら滅ぶべきです! いえ、私が滅ぼします!」


 こうやって世界征服を企むラスボスが生まれるんだろうか。
 だとしたらしょうもない。


「まあその、お前はきちんと魅力的な女の子だというのを伝えたかったというか、決してニニのことを無下に扱っているわけではないというか」


「……その手段がスカート捲りとか、相変わらず変な人ですね」


 言いながらニニが右手を差し出してくれたので、僕はその手を取って立ち上がる。


「ま、クロスさんがサイテーなのは今に始まったことじゃないですし、本当に嫌なら一緒にいませんよ」


「つまり、僕と相部屋でいいってことか?」


「それは死んでも嫌です」

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