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第二部
掃討作戦 002
しおりを挟む「時にクロスさん、役所で進めているという『破滅龍』対策というのは、どういったものなんでしょうか」
役所の備品で勝手にお茶を入れて勝手にくつろぎ始めたニニが、一息つきながら質問してくる。猫耳をパタパタさせて随分リラックスしている様子だが、さっきまで金欠に喘いでなかったっけ?
切り替えの早い奴だ。
「……具体的に何をやっているかまではわからないよ。ただ、ジンダイさんやウェインさんに協力を仰ぐらしい……ラウドさんの実力に対抗しようとしたら、あの人たちレベルの強さが必要なんだろうな」
両者とも三大ギルドのサブマスターを務めているので、その実力に疑問を持つ者はいない……ただそれでも、元ギルドマスターであるラウドさんを止めるには些か力不足である。
まあもちろん、僕が言えたことじゃ全然ないんだけれど。
「そう言えば、ニニはラウドさんと話したことくらいはあるのか?」
「まさか。『竜の闘魂』程の巨大ギルドともなれば、マスターと顔を合わせるのですら一苦労ですよ。ソリア支部にはジンダイさんがいてくれたので、あの人とはお話もしましたけれど、他の支部からすればサブマスターに会うことすら難しいんですから」
「やっぱり、規模が大きいとスケールが違うな」
僕が公務員になる前に所属していたギルドは、それはそれは田舎の小さなギルドだったので、マスターとも普通に駄弁っていたものだ。仲良くはなかったが。
「でも、そうは言ってもラウドさんはうちの象徴でしたから……あの方が抜けたことで、『竜の闘魂』への忠誠心を失うメンバーも多いと思います。逆に、彼に心酔していたメンバーは闇ギルドについていったかもしれませんけどね」
「……ジンダイさんが象徴の代わりを担うことはできないのか? 多分、あの人がマスターになってギルドを再建するんだろ?」
「ジンダイさんは上に立つのに興味がない人ですからね。彼の強さに惚れているメンバー……ソリア支部にいたみんななら無条件でついていくと思いますけれど、他の支部にいた人たちがどう思うかはわかりません」
「まあ、強くなることにしか興味がないような人だもんな……」
彼とはまだ浅い付き合いだが、良い意味でストイック、悪い意味で柔軟性がない思考をしている人だと身に染みている。
ラウドさんも、ジンダイさんのことを馬鹿で真面目過ぎると評していたし、意外とトップに立つ人物ではないのかもしれない。
「私の知る中だとエジルさんがリーダーの資質ありですが、まああの人がジンダイさんの上に立ちたがるわけはないでしょうし、難しいところですね」
ニニはお茶を啜りながら、他人事みたいに呟く。
随分危機感のない奴だ、金欠なのに。
「うちの支部に仕事が回ってこなくなったのも、ラウドさんの策略だったわけですよ。要は、私たちは干されてたんです。ジンダイさんやエジルさんといった実力のある冒険者と、その強さに賛同するメンバー……いざとなれば平気でマスターに喧嘩を売るような荒くれ者の集まりでしたからね。ラウドさんは、自身が闇ギルド設立のために動いていることを悟られないように、段々と私たちを除け者にしていったんです」
「そう聞くと、確かに小ずるい人だな」
ずるく、ずる賢い。
単なる魔法の力だけではなく、知性も兼ね備えている相手……だからこそ、伝説のマスターにまで上り詰めたと言えば、納得せざるを得ない。
「なあ、ニニ」
「何ですか?」
「僕とベスは『破滅龍』掃討作戦に協力することにしたんだけど……お前はどうする?」
用意周到なラウドさんのことだ、既に選りすぐりの仲間を集めているに違いない……それに加えて、彼が闇ギルドを作ったことが知れ渡れば、自ら志願してメンバーになりたがる冒険者も出てくるだろう。
以前戦った『死神の左手』とは、恐らく規模も実力も段違いなはずだ。あいつらだって国家機密レベルの闇ギルドとしてマークされていたが、ラウドさん一人でそれを越える脅威であることは言うまでもない。
あまりにも――危険過ぎる。
「愚問ですね、クロスさん」
僕の心配を知ってか知らずか、ニニは落ち着いた表情で首を横に振った。
「私は何が何でもその作戦に加わりますよ。うちのギルドを滅茶苦茶にした張本人を、黙って見過ごせるはずないじゃないですか」
言って。
彼女は、折れていた猫耳をピンと逆立てる。
「私は結構、怒っているんですよ」
例え相手が元マスターだとしても、容赦はしないと。
ニニの瞳が――雄弁に語っていた。
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