92 / 108
第二部
掃討作戦 002
しおりを挟む「時にクロスさん、役所で進めているという『破滅龍』対策というのは、どういったものなんでしょうか」
役所の備品で勝手にお茶を入れて勝手にくつろぎ始めたニニが、一息つきながら質問してくる。猫耳をパタパタさせて随分リラックスしている様子だが、さっきまで金欠に喘いでなかったっけ?
切り替えの早い奴だ。
「……具体的に何をやっているかまではわからないよ。ただ、ジンダイさんやウェインさんに協力を仰ぐらしい……ラウドさんの実力に対抗しようとしたら、あの人たちレベルの強さが必要なんだろうな」
両者とも三大ギルドのサブマスターを務めているので、その実力に疑問を持つ者はいない……ただそれでも、元ギルドマスターであるラウドさんを止めるには些か力不足である。
まあもちろん、僕が言えたことじゃ全然ないんだけれど。
「そう言えば、ニニはラウドさんと話したことくらいはあるのか?」
「まさか。『竜の闘魂』程の巨大ギルドともなれば、マスターと顔を合わせるのですら一苦労ですよ。ソリア支部にはジンダイさんがいてくれたので、あの人とはお話もしましたけれど、他の支部からすればサブマスターに会うことすら難しいんですから」
「やっぱり、規模が大きいとスケールが違うな」
僕が公務員になる前に所属していたギルドは、それはそれは田舎の小さなギルドだったので、マスターとも普通に駄弁っていたものだ。仲良くはなかったが。
「でも、そうは言ってもラウドさんはうちの象徴でしたから……あの方が抜けたことで、『竜の闘魂』への忠誠心を失うメンバーも多いと思います。逆に、彼に心酔していたメンバーは闇ギルドについていったかもしれませんけどね」
「……ジンダイさんが象徴の代わりを担うことはできないのか? 多分、あの人がマスターになってギルドを再建するんだろ?」
「ジンダイさんは上に立つのに興味がない人ですからね。彼の強さに惚れているメンバー……ソリア支部にいたみんななら無条件でついていくと思いますけれど、他の支部にいた人たちがどう思うかはわかりません」
「まあ、強くなることにしか興味がないような人だもんな……」
彼とはまだ浅い付き合いだが、良い意味でストイック、悪い意味で柔軟性がない思考をしている人だと身に染みている。
ラウドさんも、ジンダイさんのことを馬鹿で真面目過ぎると評していたし、意外とトップに立つ人物ではないのかもしれない。
「私の知る中だとエジルさんがリーダーの資質ありですが、まああの人がジンダイさんの上に立ちたがるわけはないでしょうし、難しいところですね」
ニニはお茶を啜りながら、他人事みたいに呟く。
随分危機感のない奴だ、金欠なのに。
「うちの支部に仕事が回ってこなくなったのも、ラウドさんの策略だったわけですよ。要は、私たちは干されてたんです。ジンダイさんやエジルさんといった実力のある冒険者と、その強さに賛同するメンバー……いざとなれば平気でマスターに喧嘩を売るような荒くれ者の集まりでしたからね。ラウドさんは、自身が闇ギルド設立のために動いていることを悟られないように、段々と私たちを除け者にしていったんです」
「そう聞くと、確かに小ずるい人だな」
ずるく、ずる賢い。
単なる魔法の力だけではなく、知性も兼ね備えている相手……だからこそ、伝説のマスターにまで上り詰めたと言えば、納得せざるを得ない。
「なあ、ニニ」
「何ですか?」
「僕とベスは『破滅龍』掃討作戦に協力することにしたんだけど……お前はどうする?」
用意周到なラウドさんのことだ、既に選りすぐりの仲間を集めているに違いない……それに加えて、彼が闇ギルドを作ったことが知れ渡れば、自ら志願してメンバーになりたがる冒険者も出てくるだろう。
以前戦った『死神の左手』とは、恐らく規模も実力も段違いなはずだ。あいつらだって国家機密レベルの闇ギルドとしてマークされていたが、ラウドさん一人でそれを越える脅威であることは言うまでもない。
あまりにも――危険過ぎる。
「愚問ですね、クロスさん」
僕の心配を知ってか知らずか、ニニは落ち着いた表情で首を横に振った。
「私は何が何でもその作戦に加わりますよ。うちのギルドを滅茶苦茶にした張本人を、黙って見過ごせるはずないじゃないですか」
言って。
彼女は、折れていた猫耳をピンと逆立てる。
「私は結構、怒っているんですよ」
例え相手が元マスターだとしても、容赦はしないと。
ニニの瞳が――雄弁に語っていた。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~
平尾正和/ほーち
ファンタジー
引きこもりニート山岡勝介は、しょーもないバチ当たり行為が原因で異世界に飛ばされ、その世界を救うことを義務付けられる。罰として異世界勇者的な人外チートはないものの、死んだらステータスを維持したままスタート地点(セーブポイント)からやり直しとなる”死に戻り”と、異世界の住人には使えないステータス機能、成長チートとも呼べる成長補正を駆使し、世界を救うため、ポンコツ貧乳エルフとともにマイペースで冒険する。
※『死に戻り』と『成長チート』で異世界救済 ~バチ当たりヒキニートの異世界冒険譚~から改題しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる