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第二部
動き始めた時間 004
しおりを挟む「竜の闘魂」ソリア支部は市街地から離れた山の中に居を構えている為、徒歩で向かうとそれなりに時間が掛かる。
大通りを抜けた後、僕とウェインさんは少し歩くペースを上げ、ギルドへの道を急いだ。
「ところでレーバンさん。エリザベスさんとはどこで知り合ったんですか?」
舗装された道路を外れ、森の中を進み始めて数分――思い出したかのように、ウェインさんが尋ねてきた。
ベスとの出会い……あいつの力を目の当たりにしたことがある人物なら、気になるのも当然だろう。
「知り合った、と言うか、あいつが封印されていたのを僕が解いたって感じなんです」
「エリザベスさん、どこかに封じられていたんですか?」
「二百年前、仲間に裏切られてダンジョンの奥に封印されたんです。そこに僕がたまたま潜ったのが、出会いのきっかけですかね」
以前ベスの出自を怪しんだカイさんにも同じ話をしたし、ウェインさんにしても問題はないはずだ。ベスのことを思って慎重を期すなら話すべきじゃないが、正直目の前のお姉さんに対する警戒心はゆるゆるになっている。
いつの間にか懐柔された。
今なら何でも話してしまいそうだ。
「裏切られて封印、ですか……」
ウェインさんは顎に手を当て、何かが引っ掛かっていることをアピールしてくる。
「……あの、どうしたんですか? 今の話に気になるところでも?」
「気になると言えば気になりますね。ですが、ご本人が聞いていない以上、掘り下げるのもよろしくないかと思いまして」
「そういうの、あんまり気にしない奴ですよ、こいつは。むしろ、隠し事をされる方を嫌がるタイプです」
「……そうですか。でしたら一つ疑問を。エリザベスさんは、どうして封印されたのでしょうか」
彼女が真剣なトーンで口にした問いに、しかし僕は首を捻ってしまう。
「えっと……それは、あいつが昔の仲間に裏切られたからで……」
「ああ、言葉が足りませんでしたね。どうして、エリザベスさんは裏切られたんでしょうか」
「……」
ベスが裏切られた理由?
聞いた気もするが、ええっと……。
「……確か、強大過ぎるあいつの力を邪魔に思ったから、みたいな理由だった気が……」
「邪魔に思ったというのは、何に対してでしょうか」
「何に対して……」
「エリザベスさんを封印、それも二百年もの間封印するとなれば、相当な魔力が必要になります。そこまでして彼女を排除したのは、一体なぜなんでしょう。当時のお仲間は何を企み、彼女を邪魔ものだと判断したんでしょう」
ウェインさんの疑問は、考えてみれば当然のものだった。
でも――僕は知らない。
あいつが仲間に裏切られた、その理由を知らない。
「パーティーを抜ければ関係性を絶てるのに、わざわざ封印した理由は何でしょう。エリザベスさんの強大な力を利用せず、封じ込めたのはなぜでしょう」
「……」
「まあ二百年も前のことですし、今更気にしても仕方のないことでしょうが……彼女のパートナーであるあなたは、知っておく必要があるかもしれませんね。エリザベスさんがどうして裏切られたのか。それとも……いえ、これは蛇足ですね」
それ以上喋ることはなく、ウェインさんはこの話題を終わらせる。
「……」
彼女が最後に言い淀んだ言葉……みなまで言われずとも、伝えたいことはわかった。これは確かに、本人が聞いていないところで話していたらよろしくない類の話題だった。
ウェインさんが言いたかったのは。
ベスが裏切られたのは――あいつに責任があるんじゃないかということ。
昔の仲間はあいつを裏切ったのではなく、正義のために封印をしたのではないかということ。
「……」
僕は首を捻り、背負った杖に目をやる。
ウェインさんの疑問は真っ当なもので、責める気なんて起きなかった。
けれど。
僕だけは、無条件でベスのことを信じると――そう決めている。
そこに理由なんてものは、これっぽっちも存在しなかった。
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