84 / 108
第二部
動き始めた時間 004
しおりを挟む「竜の闘魂」ソリア支部は市街地から離れた山の中に居を構えている為、徒歩で向かうとそれなりに時間が掛かる。
大通りを抜けた後、僕とウェインさんは少し歩くペースを上げ、ギルドへの道を急いだ。
「ところでレーバンさん。エリザベスさんとはどこで知り合ったんですか?」
舗装された道路を外れ、森の中を進み始めて数分――思い出したかのように、ウェインさんが尋ねてきた。
ベスとの出会い……あいつの力を目の当たりにしたことがある人物なら、気になるのも当然だろう。
「知り合った、と言うか、あいつが封印されていたのを僕が解いたって感じなんです」
「エリザベスさん、どこかに封じられていたんですか?」
「二百年前、仲間に裏切られてダンジョンの奥に封印されたんです。そこに僕がたまたま潜ったのが、出会いのきっかけですかね」
以前ベスの出自を怪しんだカイさんにも同じ話をしたし、ウェインさんにしても問題はないはずだ。ベスのことを思って慎重を期すなら話すべきじゃないが、正直目の前のお姉さんに対する警戒心はゆるゆるになっている。
いつの間にか懐柔された。
今なら何でも話してしまいそうだ。
「裏切られて封印、ですか……」
ウェインさんは顎に手を当て、何かが引っ掛かっていることをアピールしてくる。
「……あの、どうしたんですか? 今の話に気になるところでも?」
「気になると言えば気になりますね。ですが、ご本人が聞いていない以上、掘り下げるのもよろしくないかと思いまして」
「そういうの、あんまり気にしない奴ですよ、こいつは。むしろ、隠し事をされる方を嫌がるタイプです」
「……そうですか。でしたら一つ疑問を。エリザベスさんは、どうして封印されたのでしょうか」
彼女が真剣なトーンで口にした問いに、しかし僕は首を捻ってしまう。
「えっと……それは、あいつが昔の仲間に裏切られたからで……」
「ああ、言葉が足りませんでしたね。どうして、エリザベスさんは裏切られたんでしょうか」
「……」
ベスが裏切られた理由?
聞いた気もするが、ええっと……。
「……確か、強大過ぎるあいつの力を邪魔に思ったから、みたいな理由だった気が……」
「邪魔に思ったというのは、何に対してでしょうか」
「何に対して……」
「エリザベスさんを封印、それも二百年もの間封印するとなれば、相当な魔力が必要になります。そこまでして彼女を排除したのは、一体なぜなんでしょう。当時のお仲間は何を企み、彼女を邪魔ものだと判断したんでしょう」
ウェインさんの疑問は、考えてみれば当然のものだった。
でも――僕は知らない。
あいつが仲間に裏切られた、その理由を知らない。
「パーティーを抜ければ関係性を絶てるのに、わざわざ封印した理由は何でしょう。エリザベスさんの強大な力を利用せず、封じ込めたのはなぜでしょう」
「……」
「まあ二百年も前のことですし、今更気にしても仕方のないことでしょうが……彼女のパートナーであるあなたは、知っておく必要があるかもしれませんね。エリザベスさんがどうして裏切られたのか。それとも……いえ、これは蛇足ですね」
それ以上喋ることはなく、ウェインさんはこの話題を終わらせる。
「……」
彼女が最後に言い淀んだ言葉……みなまで言われずとも、伝えたいことはわかった。これは確かに、本人が聞いていないところで話していたらよろしくない類の話題だった。
ウェインさんが言いたかったのは。
ベスが裏切られたのは――あいつに責任があるんじゃないかということ。
昔の仲間はあいつを裏切ったのではなく、正義のために封印をしたのではないかということ。
「……」
僕は首を捻り、背負った杖に目をやる。
ウェインさんの疑問は真っ当なもので、責める気なんて起きなかった。
けれど。
僕だけは、無条件でベスのことを信じると――そう決めている。
そこに理由なんてものは、これっぽっちも存在しなかった。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
辺境に住む元Cランク冒険者である俺の義理の娘達は、剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を持っているのに何歳になっても甘えてくる
マーラッシュ
ファンタジー
俺はユクト29歳元Cランクの冒険者だ。
魔物によって滅ぼされた村から拾い育てた娘達は15歳になり女神様から剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を頂いたが⋯⋯しかしどこを間違えたのか皆父親の俺を溺愛するようになり好きあらばスキンシップを取ってくる。
どうしてこうなった?
朝食時三女トアの場合
「今日もパパの為に愛情を込めてご飯を作ったから⋯⋯ダメダメ自分で食べないで。トアが食べさせてあげるね⋯⋯あ~ん」
浴室にて次女ミリアの場合
「今日もお仕事お疲れ様。 別に娘なんだから一緒にお風呂に入るのおかしくないよね? ボクがパパの背中を流してあげるよ」
就寝時ベットにて長女セレナの場合
「パパ⋯⋯今日一緒に寝てもいい? 嫌だなんて言わないですよね⋯⋯パパと寝るのは娘の特権ですから。これからもよろしくお願いします」
何故こうなってしまったのか!?
これは15歳のユクトが3人の乳幼児を拾い育て、大きくなっても娘達から甘えられ、戸惑いながらも暮らしていく物語です。
☆第15回ファンタジー小説大賞に参加しています!【投票する】から応援いただけると更新の励みになります。
*他サイトにも掲載しています。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる