上 下
81 / 108
第二部

動き始めた時間 001

しおりを挟む


 喰魔のダンジョンを攻略しに行った翌日。

 すごすごと敗走することになった僕は、そのあらましについて報告書をまとめ、カイさんに提出するために市長室のドアを叩いていた。

 正直、自分の失態を報告するのは気が引けるし、ソリアのトップである市長に直接伝えるなんて、気が乗らないどころの話ではない。まあ部署の先輩方、つまるところ直属の上司は未だに行方不明なので、命令系統的にはカイさんに報告するしかないのだろうけれど。

 それに――喰魔を攻略してくれと頼んできたのは、彼女だった。

 ならばやっぱり、僕には伝える義務がある。


「……というわけで、今回の攻略は失敗に終わりました。ベスが言うには、最終防衛機が発動している喰魔のダンジョンに潜るのは、相当に困難だそうです」


「……」


 僕からの報告を、カイさんは黙って聞いてる。立派な執務机に両肘をつき、こめかみをぐりぐりと押さえている様子からして、まあ喜んでいないのは確かだった。

 昨日の出来事を一通り伝え終えたところで、彼女は椅子の背もたれに全体重を預け、天井を見つめ出す。


「……それで、今後攻略はできそうなのかい」


「ベスによれば、あいつの魔力が全盛期まで戻れば不可能ではないと言っていました」


「……そこまで回復するにはどれくらい時間がかかる」


「わかりません。魔力が尽きかけるのは初めての経験らしいので、目途は立っていないそうです。それこそ、可能性の話をすれば年単位で時間が掛かることもあると」


「……そうか」


 カイさんは天井を見つめたまま動かない。

 今回の成果が不満なのか、それともこれからの先行きを憂いているのか……まあ両方だろう。

 僕たち特別公務パーティーに期待してSS級ダンジョンの攻略を許可した彼女からすれば、とんだ肩透かしを食らった気分になるのも無理はない。


「……部下を気遣って教えておくが、私は君たちに落胆しているのではないよ」


 ふと、カイさんがそんなことを口走った。


「むしろその逆……君やエリザベスくん、それにニニくんには、よくぞ無事に帰ってきたと賛辞を贈りたい」


「えっと……ありがとうございます。そしたら、何を気にしているんですか?」


「君たちに落胆したのではなく、喰魔のダンジョンに憤りを覚えたのだよ……そこまで規格外の力を持つダンジョンが管轄内にあるというのは、非常に面倒臭い」


 言い終わった後、彼女が小さく舌打ちをしたのを聞き逃さなかった。どうやら相当ご立腹のようである。


「エリザベスくんの魔力の問題が解決するまでは、静観するしかないか……いや、ご苦労だったね」


「僕は別に、何もしていないので」


「そう謙遜しなくていいよ。あのエリザベスくんを動かすことができる時点で、君は大分活躍しているのだからね」


「はあ……」


 まるでベスが兵器か何かみたいな言い方だが、そう表現したくなるのもわかってしまう……あいつの力は強大過ぎて、とてもじゃないが一個人の枠に収まるような器ではない。それこそ、いつぞやカイさんが懸念していたように、他国にその存在が狙われる可能性だってある。

 もしもベスの魔力が全盛期に戻ったら……一体何が起こるのか、想像すらできない。


「しばらくは未踏ダンジョンの探索に専念してくれたまえ。時期が来たら、再び喰魔の攻略に取り掛かるとしよう。話は以上だ」


 カイさんはそう締めくくり、この話題を終わらせた。

 彼女にしては珍しく、随分早く話を切り上げたことに違和感を覚える。まあ、言っても市長だからな。予定が詰まって忙しいはずだし、僕如き一般職員に構っている暇なんてないのだろう。


「悪いが、もうすぐ客人が訪ねてくることになっていてね」


 予想通り、この後予定があるらしい。ならば僕の取るべき行動は一つ、軽く会釈をして急いで踵を返すことだ。

 しかし、僕が一連の流れを実行するため頭を下げようとした瞬間――市長室の扉が開いてしまった。どうやら客人は早目に到着したようだ。


「……あら、レーバンさん?」


 背後から、どことなく聞き覚えのある声。

 振り返ると、そこには美しい青い髪をした女性――「天使の涙エンジェルラック」のサブマスター、ウェイン・ノットさんが立っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~

椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。 探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。 このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。 自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。 ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。 しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。 その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。 まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた! そして、その美少女達とパーティを組むことにも! パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく! 泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...