公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ

文字の大きさ
上 下
77 / 108
第二部

犠牲

しおりを挟む


「どうして急に……他のモンスターは影も形もなかったのに……」


 僕は目の前の現実を受け入れられず、そんな情けない言葉をこぼす。


「お主ら、立ち止まるな! あやつはこちらを狙ってきておる!」


 超巨大なゴーレムに圧倒されてしまった僕とニニとは違い、ベスは的確に撤退の指示を出してくれた……そうだ、今さっきニニに向けて岩石が投げられたばかりじゃないか。こんなところで動揺している時間はない。


「ニニ、走れるか!」


「は、はい! 何とか!」


 普通なら腰を抜かしてもおかしくない間一髪を潜り抜けてなお、彼女は軽快に走り出す。さすがは獣人だ、ピンチにおいてもその身体能力は変わらない。

 僕は自身に【レイズ】の魔法を掛け(久しぶりの登場だ)、ニニの後を追う。


「出口の魔法陣まで突っ走りますよ! ――うわっ⁉」


 調子を取り戻して全速力で駆ける彼女の前方に、再び巨大な岩が投擲された。あの巨体からここまで正確なコントロール……何か手を打たなければ、いずれあの攻撃に直撃してしまう。


「やっぱり、僕がゴーレムの注意を引きつけて……」


「ならん! あれはお主らでは絶対に歯が立たぬ相手じゃ!」


 僕の提案は一瞬のうちに却下された。杖の中にいてもわかる程、ベスの声は緊迫している。


「図体のでかさは単純に強さに直結する! 例えニニの反射魔法を使ったとしても、あの岩人形には傷一つつけられん!」


「じゃどうすんだよ! このまま走ってても、いつか岩に潰されちまうぞ!」


「あともう少し走るんじゃ! そうすれば儂が何とかする!」


 彼女の鬼気迫る叫びに押された僕は、黙って走り続けるしかなかった。

 ベスが何とかする……なんなんだ、この胸騒ぎは。

 まるで――自分を見ているような。

 誰かを守るためなら命を捨てることを厭わないクロス・レーバンを見ているような――そんなモヤモヤした気分。

 こいつは、何をやろうとしてる?


「っ! クロスさん!」


 突然ニニがユーターンし、僕目掛けて突進してきた。彼女の小さな身体に押し飛ばされ、二人してゴロゴロと地面を転がっていく。


 直後、元いた場所に大量の岩の雨が降り注いだ。


「あ、ありがとう、ニニ」


「あいつ、攻撃の仕方を変えてきました! マジでやばいですよ!」


 持ち前の鼻の良さで僕のことを助けてくれた彼女は、背中に据えた盾に手を伸ばそうとする。広範囲への魔法攻撃に切り替えたゴーレムから逃げるのは不可能と考え、防御に出るつもりらしい。

 だが。


「ダメじゃ! お主の防御魔法でも数秒ともたん! 今は儂を信じて走ってくれ!」


 再び、ベスが制止した。

 ここまで必死になって止めるということは、本当にあのゴーレムには敵わないと察しているのだろう。

 ニニは一瞬迷ったように動きを止めたが、言われた通りに走り始めた。


「でも、ベスさん! このままじゃジリ貧ですよ! 魔法陣に辿り着く前にやられちゃいます!」


「大丈夫じゃ! あとほんの少し、進んでくれればよい!」


 頭上から次々と降り注ぐ岩石の雨を何とか躱しながら、僕たちはベスの言葉を信じて突き進むしかなかった。

 こんな綱渡りの逃走、あと数分も持ちはしないだろう……外へ通じる魔法陣までは、どんなに少なく見積もっても二十分はかかる。

 でも、今はベスを信じるしか――


「よし! 止まれ!」


 急な命令に反応が遅れたが、確かにベスが止まれと言った。周りは相変わらず木々に覆われているばかりで、起死回生につながりそうなものは何もない……一体、どうしようっていうんだ。


「一度しか言わん! 儂はこれから外に出て、あのゴーレムと儂に反応して出現するモンスター共を食い止める! お主らは、儂の作る翼で魔法陣まで飛ぶのじゃ!」


 言うが早いか、ベスが杖から飛び出してきた。

 喰魔に潜っている間は、絶対に杖から出ないと決めていた彼女が……事ここに至っては仕方ないという判断なのだろうが、しかし。

 さっきの言葉は。

 自分を犠牲にして、僕たちを助けるってことか?


「これに捕まれ! ここからならギリギリ魔法陣まで翼がもつはずじゃ!」


 言って、ベスは


「っ! お、おい! そんなことして大丈夫なのかよ!」


「いいから早く掴め!」


 彼女に睨まれ、僕はたじろぎながら引きちぎられた右手を掴む。

 すると、激しく流血している切断面から魔力が溢れ――漆黒の翼が生えてきた。


「決して後ろを振り返るなよ! 右腕の魔力が足りなくなれば、魔法陣まで飛距離が稼げん!」


「何でこんなこと……お前も一緒に飛べばいいだろ!」


「儂も一緒に飛んだら、誰があのゴーレムの魔法を防ぐのじゃ! 湧き出すモンスターからの攻撃を、誰が捌くというんじゃ! いいから儂に任せろ!」


 ベスの背中にも黒い翼が生え、僕らは同時に空へと飛び立つ。

 だが、彼女は巨大なゴーレムと相対し。

 僕らは――反対を向いていた。


「ベ、ベス!」


「安心しろ、お主。儂はお主と違って、命を粗末にしようとはせん。豪華客船に乗った気でいろとは言ったが、儂が沈むとは言っておらんぞ」


 翼が大きく羽ばたき、僕らを魔法陣へと連れていこうとする直前。

 ベスは――優しくそう言った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元勇者の俺と元魔王のカノジョがダンジョンでカップル配信をしてみた結果。

九条蓮@㊗再重版㊗書籍発売中
ファンタジー
異世界から帰還した元勇者・冴木蒼真(さえきそうま)は、刺激欲しさにダンジョン配信を始める。 異世界での無敵スキル〈破壊不可(アンブレイカブル)〉を元の世界に引き継いでいた蒼真だったが、ただノーダメなだけで見栄えが悪く、配信者としての知名度はゼロ。 人気のある配信者達は実力ではなく派手な技や外見だけでファンを獲得しており、蒼真はそんな〝偽者〟ばかりが評価される世界に虚しさを募らせていた。 もうダンジョン配信なんて辞めてしまおう──そう思っていた矢先、蒼真のクラスにひとりの美少女転校生が現れる。 「わたくし、魔王ですのよ」 そう自己紹介したこの玲瓏妖艶な美少女こそ、まさしく蒼真が異世界で倒した元魔王。 元魔王の彼女は風祭果凛(かざまつりかりん)と名乗り、どういうわけか蒼真の家に居候し始める。そして、とあるカップルのダンジョン配信を見て、こう言った。 「蒼真様とカップル配信がしてみたいですわ!」 果凛のこの一言で生まれた元勇者と元魔王によるダンジョン配信チャンネル『そまりんカップル』。 無敵×最強カップルによる〝本物〟の配信はネット内でたちまち大バズりし、徐々にその存在を世界へと知らしめていく。 これは、元勇者と元魔王がカップル配信者となってダンジョンを攻略していく成り上がりラブコメ配信譚──二人の未来を知るのは、視聴者(読者)のみ。 ※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

処理中です...