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第二部

魔導大会 002

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 エリーゼさんは、最後に、と口を開く。


「このダンジョンは特殊な魔法空間をしていて、第一階層がとても広くなってます~。具体的には、ダンジョン三十階層分の面積があります~。みなさんが一斉にモンスターを倒し始めてもお互いが邪魔にならないと思うので、喧嘩はしないようにしてください~」


 さらっと言ったが、三十階層分の広さがあるって規格外過ぎないか? まあこれ程の人数が一度に潜るとなればある程度の広さが必要とは言え、それにしたって巨大である。

 これじゃあ、モンスターを見つけるのも一苦労だ……それを含めて競い合わせたいのだろうけど。


「開始は十分後になります~。みなさん死なないように頑張ってくださいね~」


 思っているかはともかくとして、エリーゼさんは一応激励の言葉を述べていた。終始ゆるゆるな雰囲気で、まあ好きな人は好きそうなタイプである。


「あの女、ぽっと出の解説キャラの癖に個性を出そうと必死でしたね」


「口が悪過ぎるだろ!」


「口調でなんとか差別化を図ろうという魂胆が見え透いてます。私だって、できることなら語尾に『にゃ』を付けてしゃべりたいですよ」


「お前、爪痕残そうと必死だな……」


 そこまで頑張る理由を知りたい……メインヒロイン手当だろうか。


「にしても、あと十分か。何して過ごそうかね」


「別に今更できることもないんじゃないですか? 大人しく、私の今後の身の振り方について議論しましょうよ」


「それは僕たちが決められるようなことじゃないからな」


 危うくグレーな領域の話に足を突っ込みかけた――その時。

 後ろから、ガシッと肩を掴まれる。


「よお、兄ちゃん。逃げずによく来たな」


 僕の右肩を破壊せんばかりの握力で握っているのは、誰あろう――この前ベスが喧嘩を売った、あの男だった。

 名前は……確かマルコだったっけ。


「あ、お久しぶりです……」


「今日の賭け、俺かお前のポイントが低い方の負けってことでいいよなぁ? 負けたらきっちり五百万、払ってもらうぜ」


 正直、すっかり忘れていた……僕はベスの仕掛けた作戦(?)の所為で、この人と賭けをしてなければならないのだった。


「大会が終わった後にとんずらこかれても面白くねえから、今ここでみんなに知っといてもらうか」


「み、みんなっていうのは、誰でしょうか?」


「おい、おめーら‼」


 突然、マルコさんが大声で叫び出す。その声につられて、周りにいた冒険者たちが一斉に僕らに注目し出した。


「俺は『魅惑の香__スイートパルム__#』のマルコだ! 俺は今日の大会で、この兄ちゃんと賭けをすることにした! 負けた方が勝った方に五百万G! どうだ、おもしれえだろ!」


 彼の言葉に、みな一様に盛り上がり出す……まずい、これだけの人数に証人になられたら、本当に逃げるのなんて不可能じゃないか。


「あちゃー、えらいことになりましたね、クロスさん。まあ頑張ってください」


 ニニは他人事のように呟く。もし僕が負けたらお前にも働いてもらうからな、薄情者!


「他に俺と勝負したいって奴はいるか! 五百万とは言わねえ、十万から賭けに乗ってやるぜ!」


 マルコさんは相当腕に自信があるのだろう、盛り上がりにかこつけて周りを焚きつけ出す。さすが冒険者と言った感じだ、何でもあり。


「おらおら、誰かいねえのか! とんだ腰抜けの集まりだな!」


「何だとおら! やってやろうじゃねえか、十万だ!」


「俺は二十万だ!」


 煽られた男たちが次々に手をあげる……あの人、もし負けたらどうするんだ。
 何も考えていない馬鹿なのか、それとも本当に強い人なのか――


「すみません」


 冒険者たちの野太い声に混じって、凛とした女性の声が響く。

 人だかりを割って進んできたのは、青い髪をした二十代後半くらいの女の人――彼女はマルコさんに近づき、綺麗な青い瞳で彼を捉えた。


「何だい、嬢ちゃん。あんたも賭けに参加したいのか?」


「いえ。魔導大会は代々、冒険者の腕を試す神聖なもの……それを賭け事の場にしていいはずがありません。即刻やめてください」


「はっ! こんな大会はただのお遊びだろうがよ! 何マジな顔してやがんだ!」


「もう一度だけ言います。即刻やめてください」


 自分よりも大きな男相手に一歩も怯まず、彼女は毅然とした態度を崩さない。


「おい、嬢ちゃん。あんまり調子に乗ってるようだと痛い目みることになるせ? 大会が始まっちまえば、不幸な事故だって起きるかもしれねえしなぁ?」


「脅しているつもりなら無意味です。むしろその言葉をそっくりそのままお返しします」


 それだけ言って、青い髪の女性は踵を返すようにこの場を去っていった。

 去り行く彼女の背を、ニニが睨みつける。


「あの女、相当できる奴みたいですね。どうやらこれは、早いところ芽を摘んだ方がよさそうです」


「……悪役かよ」

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