公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ

文字の大きさ
上 下
68 / 108
第二部

賭け

しおりを挟む


 売られた喧嘩は必ず買うベスの所為で、僕は屈強な男に睨みつけられている。
 当の本人は僕の背中に隠れ、楽しそうにクククッと笑っていた……こいつ、許さねえからな!


「ほう……兄ちゃん、ガキの躾が足りてねえつけを払ってもらおうか」


「いやあのー、できれば穏便に済ませて頂ければなーなんて――ぐぅっ⁉」


 腹を殴られた。
 問答無用とはこのことか……くそ、いってえ。


「どうした、やり返さないのか?」


「……この一発で許してもらえないですかね?」


「そいつはできねえ相談だな!」


 男の拳が再び飛んでくる。すんでのところで躱したが、すぐさま放たれた右脚の蹴りに対応できず、クリーンヒットしてしまった。


「お前、弱過ぎじゃねえか? 躾のし甲斐がねえじゃねえかよ」


「……」


 いや、そもそも何で躾けられなきゃいけないんだよ。

 僕を盾にしたベスに対する怒りが沸々と込み上げてきた、その時。


「すまなかった、もうよしてくれ」


 ベスが――謝った。

 売られた喧嘩を買った上で、彼女が謝るなんて――そんなこと、天地がひっくり返っても有り得ない。


「ああ? 今更謝ったって遅い……」


「いやー、ほんと調子に乗っておった。お前がそんなに強いとは思っておらんかった。見事な拳と蹴りじゃ、とてもじゃないが儂らでは太刀打ちできん」


「お、おう。わかりゃいいんだよわかりゃ」


 ……今度は褒め始めた?

 一体こいつ、何をしてるんだ?


「……じゃが、このままこやつが負けを認めるとも思えん。そこで、どうじゃ? このギルドが主催する魔導大会とやらで決着をつけるというのは?」


「魔導大会でだと?」


「そうじゃ。お前も出場するのだろう? もしこの勝負、こやつの意地の勝負に乗ってくれるというのなら――G


 ベスの言葉を理解するのに数秒かかったが……え、こいつ、五百万を賭けるって言ったの?


「もちろん、万万が一こやつに負ければ、その時はきっちり五百万G払ってもらうが……まさかこの賭けから逃げたりしないよな?」


「逃げるだと? はっ、馬鹿言ってんじゃねえ! お前らこそ、しっかり五百万用意できるんだろうな!」


「無論じゃ。こやつの実家は金持ちじゃから安心せい」


「……いいだろう、その賭けに乗ってやる。俺の名前はマルコだ。魔導大会、楽しみにしてるぜ」


「こやつはクロスじゃ。お前の鼻っ柱を折るのを楽しみにしていると言っておる」


 そんなことは一言も。
 本当に一言も、言っていない。





「お前、何て賭けをしてるんだよ!」


 マルコと名乗った男から逃げるように酒場を後にした僕は、杖に戻りやがった頭のおかしいエルフを問い詰める。


「じゃからー、勝てばいいじゃろって。そうすれば何も問題はあるまいよ」


「勝ち負けの話じゃなくて、そもそもどうしてあんな馬鹿なことを言い出したのかって訊いてんだ!」


「この前言ったじゃろ、儂にも金を稼ぐ算段があると」


 確かに言っていたけど、まさかその算段が今回の賭けってことか?

 嘘だよね?


「昔、金が入り用な時によく使った手じゃ。わざと喧嘩を吹っ掛けて一度負け、その上で意地のために再戦してくれと申し込む……金を賭けることで、相手に勝負を受けるメリットを提示しての。そしてボコボコにするのじゃ」


「お前、そんなガバガバな計画であんなに自信たっぷりだったのかよ……」


 信じられない……千五百年生きたエルフと十八年しか生きていない人間のスケールの違いなのかわからないけれど、彼女の理屈が全く理解できなかった。


「安心してください、クロスさん。今回ばかりは、さすがの私もベスさんの行動を擁護できません」


 見かねたニニが、肩を落とした僕に同調してくれる。


「見ろ、ベス。ニニなんて、お前の作戦が馬鹿馬鹿し過ぎて酔いまで覚めてるじゃないか」


「何がそんなに受け入れ難いんじゃ。何のリスクもなく五百万手に入るんじゃぞ?」


「僕が殴る蹴るの暴行を受けたことは、じゃあこの際スルーでもいいよ……負けたらどうするんだ」


「なんじゃって?」


「だから、もし僕が魔導大会でマルコって人に負けたらどうするんだよ。正直僕、腕っぷしでは完敗だぜ」


 それに、大会で何を競うのかすらわかっていないのだ。詳しくは当日発表があるとのことで、何をするかは今のところ未知数なのである。


「お主には儂がついておるじゃろ。この杖の中からサポートしてやる」


「それは心強いけど……ってことは、お前は大会自体には参加しないのか?」


「これでもまだ本調子には程遠いからの。それでも、一度試した時のように杖を媒介にしての魔法なら無理なく発動できる」


 その魔法を使うには魔石が必要で、結果金もかかるということなのだが……こいつは本当にわかっているのだろうか。


「魔導大会で優勝すれば、あの男から五百万手に入って魔石も大量にゲットできるんじゃ。余裕でペイできるじゃろ」


 あまりにも楽観的すぎる発言だが、これがベスなのだと言われればそんな気もする。

 元々優勝するつもりでここまできたんだし……やるしかないか。これから先、彼女と主に過ごしていればこんな状況は山ほど待ち受けているのだろうし。

 いい加減、僕も腹を括るべきである。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

処理中です...