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第二部
魅惑の香 002
しおりを挟む門を抜けた先には馬鹿でかい酒場が広がっていた……いや、勢い余って酒場と表現してしまったが、その言葉から受ける野暮ったいイメージは皆無である。
薄暗い室内には頭上から何色もの煌びやかな光が降り注ぎ、鼓膜を揺らす重低音の尖った音楽が鳴り響く。そして、所狭しと溢れた男女が小奇麗な酒を飲みながら踊り騒いでいる……なんて言うか、この場にいる人たちとは友達になれそうにない。
僕らは足早にギルドの受付カウンターに進み、魔導大会に参加したい旨を伝える。
「はい、確かに魔導大会への参加を受け付けました。当日は頑張ってくださいね。お時間があれば、是非当ギルド自慢のナイトクラブをお楽しみください」
係りのお姉さんに促されるが、全く楽しめそうな雰囲気じゃない……ナイトクラブって言うのか、こういう場所。今後の人生で絶対に立ち寄らないことは確かだった。
「テンション低いですねー! 上げていきましょうよー!」
「早速匂いで酔ってんじゃねえよ」
「え? なんですか? 周りの音がうるさくて聞こえません!」
「用は済んだから出るぞ!」
「えー! せっかくだから楽しみましょうよー!」
「僕は嫌だ! 全身鳥肌が立って今にも倒れそうなんだ! ここにいる人たちとは住む世界が違う!」
「なっさけねー! 楽しもうとする前から尻込みしてどうするんですか!」
急にタメ口で馬鹿にされたが……しかしニニの言にも一理ある。
自分の殻を破るためにも、ここは一つ、このナイトクラブとやらを楽しもうと努力すべきかもしれない。
「……わかった! お前の言う通りだ、ニニ! 朝まで騒ごうぜ!」
「そうこなくっちゃ! イエーイ!」
「イエーイ!」
「イエーイ!」
……あれ? 今一個イエーイが多くなかったか?
「お主ら、こんなテンションぶち上げな場所にくるなら先に言えよな!」
「ベ、ベス⁉」
酒と賑やかな音につられ、ベスが杖から出てきたようだ。こいつも大概やかましいのが好きそうだしな。
「まずはべろべろになるまで酒をあおるぞ! それから身体を震わすビートに乗って踊り狂い、誰彼構わずまぐわいあうのじゃ!」
「あうのじゃ、じゃねえ! とんでもねえ遊び方を提案するな!」
お前の品位も落ちるところまで落ちたな!
「まぐわいは嘘じゃが、しかしお主よ。羽目を外すということも覚えねば、短い生涯を棒に振ることになるぞ」
「……わかってるよ。ベス、今夜は無礼講だ。飲みまくるぜ!」
「イエーイ!」
「フー!」
遊び慣れしていなさ過ぎて全く空気に乗り切れていないのは自分でもわかっていた。ただまあ、こうして馬鹿になる時間も必要だろう。
今日は精々、休みを満喫することに……。
「おいおい、ガキがはしゃいでんじゃねえぞ」
開き直って楽しもうとしていた矢先――僕らの隣のカウンターで酒を飲んでいた男が絡んできた。
見るからに冒険者といった風体だ……しばらくエジルさんやジンダイさんの世紀末な感じを見慣れていたけど、この男のガラの悪さも中々である。
「おい兄ちゃん、そんな小せえガキを二人も連れてこられちゃ、せっかくのパーティーが興ざめだろうが。早く出ていきな」
「誰がガキじゃと? お前こそ、無駄に年だけ取った木偶ではないか?」
「お、おいベス」
なんでこいつはいつも、売られた喧嘩をすぐに買うんだ。千五百年生きてるのに忍耐力が十歳児並じゃないか。
「なんだとクソガキが! 俺のギルドで舐めた口きくとどうなるか、教えてやろうか!」
「ほーう、教えられるもんなら教えてみるがよい。ただし……」
言って、ベスは人見知りの幼児がそうするように、僕の後ろに隠れた。
「こやつが相手じゃ!」
「なんで⁉」
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