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第二部
喰魔対策 001
しおりを挟む市長室ではしゃぎ倒したニニは少しだけカイさんに怒られ(メッ! くらい)、市長室で酒盛りを始めたカイさんは秘書の人にこっぴどく怒られた(擬音では描写できないくらい)。
とりあえず役所を出た僕たちは、ふらふらと大通りを歩く。
なぜ仕事もせず外をほっぽり歩いているのかと言えば、お祝いの延長としてカイさんに午後休をもらったからだ。嬉しいけど制度がガバガバ過ぎて心配にもなる。
「うう……」
「大丈夫か、ニニ」
酔いから覚め途中のニニは、苦しそうなうめき声を上げていた。このまま動くのは辛いだろうし、どこか店にでも入るか。
いつもの僕なら、「甘ったれるな! 自力で歩け!」とスパルタを発揮するのだけれど(発揮しない)、今日ばかりは事情が違う。
なにせ、僕の懐は今温まりに温まっているからだ。勲章の代わりに国から頂き奉った百万Gがあれば、休憩のために喫茶店に寄るなんて楽勝である。
「お冷を一つと、オレンジジュースを一つ……日替わりパンセットって、パンいくつ入ってますか? 三つ? じゃあそれもお願いします」
適当に見繕った店に入り、僕は飲み物と軽食を注文する。
ニニと僕の分、計二人分を注文し終えたところでふと前を見ると、椅子にベスが座っていた。
「すまんが酒も追加じゃ。樽で」
「お前、当たり前みたいにすっと出てくるなよ、心臓に悪い……すみません、今の注文はキャンセルで」
「お主、何勝手に儂の潤いを奪おうとしておるんじゃ。やるか?」
「喧嘩っ早いにも程があるだろ」
やらないよ。
潤いなら無料の水で済ませてくれ。
「……そう言えば、喰魔のダンジョンを攻略する考えがあるっていってたけど、どんな考えなんだ? 聞かせてくれよ」
「その前に、我々とあのダンジョンとの因縁を、こやつに話しておくべきじゃろう」
「それもそうだな……ニニ、起きてるか?」
「あ、はい……お気になさらず続けてください……」
めちゃめちゃ二日酔いだった。
僕は頭の回らないであろうニニのために、ゆっくりしたペースで過去の話をする。とは言っても、語っていてあまり気持ちのいい話ではないので、かなりかいつまんだが。
「……なるほどですね。シリーさん……クロスさんの幼馴染さんは、そのダンジョンで仲間を守れず、闇に落ちてしまったんでしょうか」
「誰が何と言おうと、あの件でこやつが悪いことなど一つもない。仲間を裏切ったあやつに、因果が巡ってきたというだけじゃ」
ベスのフォローは正直ありがたかった。未だに僕は、自分の所為でシリーが闇ギルドの一員になったのではないかと思っていたから。
「そもそも、シリーさんがクロスさんを裏切って、ダンジョンの最深部に置き去りにしたんでしたっけ? お亡くなりになった人を悪くは言いたくありませんが、酷いことをするものですね。冒険者パーティーを全否定じゃないですか」
「まあそのお陰で、僕はベスと出会えたんだし……悪いことばっかり考えても仕方ないからな。良い面だけを見て、笑い話に変えようぜ」
「じゃあこれからあなたのことを、裏切られ者と呼びますね! やーい、裏切られ者!」
「笑い者にしていいとは言ってないぞ!」
店員さんが運んできてくれたドリンクと軽食をつまみながら、僕たちは話を続ける。オレンジジュースを飲んだニニは元気になったようで、ニコニコ笑顔が眩しい。
「それで話は戻りますけれど……その難攻不落な喰魔のダンジョンを攻略する術が、ベスさんにはあると言うんですね?」
「うむ。しかもこの案は、これから先お主らと冒険をする上でも役立つ、画期的で秀逸な方策じゃ」
「無駄にハードルを上げますねー。大丈夫ですか? そんなに大きなことを言ってしまって」
「ハードルは上を跳ぶためでもなく下をくぐるためでもなく、競うためにあるものじゃ。儂はわざと期待を高めることによって、自分と競っておるのじゃよ」
「それ、普通に首を絞めてるだけですよね」
「黙れ。猫耳ちぎるぞ」
そんな物騒なことを言いながら、ベスは机に立てかけてあった杖を手に取る。そしてそれを、聖剣が如く天に掲げた。
「画期的で秀逸な案とは……儂がこの杖に封印された状態で、魔法を使うというものじゃ」
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