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第二部
変わらぬ日々
しおりを挟む僕が未踏ダンジョン探索係になってから、気づけば半年程が経っていた……安定を望む僕がやっと手に入れた公務員という職は、しかし予想より遥かにデンジャラスなものだった。
この間なんて、国家機密レベルの闇ギルド――「死神の左手」と丁々発止やり合ったのだから、安定などとは程遠い日々を過ごしている。
まあそもそも、僕ことクロス・レーバンは、あの戦いで何もしなかったのだけれど。
いや、何もしなかったという表現は些か適当さを欠く物言いだったので訂正しよう……僕はあの戦いで、何もできなかった。
幼馴染で元勇者のシリー・ハートを、助けることができなかった。
ただ、この言い回しも見方によっては酷く傲慢な考えなのだろう――僕みたいな下位役職程度の力しか持たない冒険者が、誰かを助けるなんて土台無理な話なのである。
だから、後悔なら自分の非力さに対してするべきなのだ。
結局。
僕は、エリザベスがいないと何もできない落ちこぼれなのである。あの紫の髪と紫紺の瞳を携えた、千五百年もの時を生きたエルフ――彼女がいなければ、僕はダンジョンに潜ることすらできない。
でも、ベスはこんな僕と一緒にいてくれると言っていて。
僕もその言葉に、甘えているけれど。
心のどこかで、頭の片隅で、会話の端々で――思ってしまうのだ。
ベスはいつか、僕の前からいなくなってしまうのではないかと。
そんなことを彼女の前で口にすれば、たわけたことを言うなと一蹴されてしまうだろう。儂らは死ぬまで共に過ごすのだと、大それたセリフで安心させてくれるのだろう。
けれど。
僕はどうしても――考えずにはいられない。
ベスは本当に、僕と一緒にいて幸せなのかを。
僕が生きる数十年の人生において、彼女との出会いは運命と言って差支えのない一大イベントだったけれど……ベスにとっては、そうじゃないかもしれない。
千五百年以上生きている彼女の人生の中で、僕はどれだけ重要な存在になれているのだろうか。
なんて。
思春期の子どもが初めて恋愛をした時に考えるような、相手にとって自分は運命の人なのかという、痛々しくも初々しい、見ている方は目も覆いたくなる甘ったれた悩みを垂れ流すのはやめよう。
僕もいい加減、強くならなければ……肉体的にも、精神的にも。
だから女々しい話は終わりにして、さっさと目を開けることにしよう。
楽しい楽しい、出勤時間である。
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