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第一部
死神の左手 002
しおりを挟む「【黒の虚空】!」
「【亡霊葬】!」
ベスの漆黒の魔力と、ヒーコックの深緑の魔力がぶつかり合う。
激しい閃光――次いで凄まじい衝撃波が広がる。
「口だけじゃないところを見せてくれよ、エルフ!」
ヒーコックは宙に浮かび、上空から無数の魔力弾を放ってきた。広範囲に及ぶ無差別な攻撃は、僕やニニにも牙を剥く。
「【シールド】!」
ニニはすかさず盾を構え、防御魔法を展開するが……その堅牢なはずの魔力の盾は、数発の弾を受けただけで破壊されてしまった。
「ニニ!」
僕は【レイズ】で身体機能を強化し、魔法に晒される彼女の元へ駆けつける。そしてニニの小さな体を担ぎ上げ、ヒーコックから距離を取るように走り出した。
「ちょ、クロスさん⁉ 降ろしてください!」
「馬鹿! ベスとあいつの戦いは異次元過ぎる! 巻き込まれたら死んじまうぞ!」
「で、でも、ベスさんは万全ではないですし、私が助けないと……」
僕はベスたちから離れた位置――エジルさんが「死神の左手」の冒険者たちと戦闘をしている場所までやってきた。
「お前はエジルさんを助けてやってくれ。さすがのあの人でも多勢に無勢だ、ニニの力が必要になる」
それに、ベスたちの近くにいるよりもエジルさんの傍にいた方が危険は少ないはずだ……それ程までに、あの二人の魔力は常軌を逸している。
「それはわかりましたけど、クロスさんはどうするんですか?」
「僕は、ベスと一緒に戦うよ。ニニも言っていた通り、あいつの体調は万全じゃない……なら、僕が助けないと」
僕程度の力じゃ何の役にも立たないのはわかっている……でも、ベスとは死ぬまで一緒だと決めたんだ。
なら僕は、あいつの隣にいなければいけない。
「私のことは危険だからと戦いから遠ざけたのに、自分一人で死地に赴くんですか……そういうの、今時流行らないと思いますよ」
「流行には疎いんだ。田舎出身だからな」
「……止めても無駄でしょうから、一つだけ。クロスさん、絶対に死なないでくださいね」
「ああ。お前も、エジルさんのことを守ってあげてくれ」
僕とニニは、互いに別の方向へ走り出す。
◇
ベスとヒーコックとの戦闘から目を離したのは、どんなに多く見積もっても五分程度だった。その間に、僕はニニをエジルさんのところへ連れていき、再びこの場に舞い戻ったのだが。
ベスが――流血していた。
彼女が負傷し、血を流しているのを見るのは、これが初めてだ。
「ベ、ベス!」
「……お主、なぜ戻ってきた」
ベスは肩で息をしながら、目元に垂れてきた血を拭う。ここまで疲労困憊の様子を見せるのも、また初めてのことだった。
「どうした、もう終わりか? 俺にエルフの怖さを教えてくれるんじゃなかったのか?」
対して、空中から降りてきたヒーコックには、全く疲労の跡は見えない……ここまでの差がつく程、ベスは弱っている?
それともこれが――闇ギルドのマスターの実力なのか。
国が秘密裏に処理をしようとするなんて、考えてみれば相当な事態である……僕らはとんでもない集団を敵に回しているんじゃないか?
「なけなしの魔力を振り絞ったようだが、そんな搾りカス同然の力じゃ俺は倒せねえよ……さて、じゃあそろそろ、楽しい楽しい虐殺タイムといこうか」
ヒーコックは下を出しながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
僕は――剣を構えた。
「……それ以上、ベスに近づくな」
「格好よく戻ってきたつもりか知らないが、膝が震えてるぞ、ガキ」
奴の言う通り、僕の足は自分でも笑ってしまう程震えていて、とてもじゃないがヒーローの登場みたいにはいかなかった。
闇ギルドのマスター……ヒーコックは躊躇なく人を殺すとわかっているからこそ、本能からくる恐怖に抗えない。
だが、恐怖は所詮感情だ。いくら感じても、それで死ぬことなんかない。
乗り越えろ、クロス。
「……そこのエルフをつけがてらお前のことも見させてもらったが、俺に万が一にも勝てる可能性はねえよ。大人しくそこをどけ」
「……どかない。どくもんか。ベスを殺したいなら、まず僕を殺すんだな」
「それができねえから頼んでるんだろうが」
ヒーコックは内心の苛立ちを隠すことなくそう吐き捨てる……できない? できないって、僕を殺すことが?
一体どうして……いや、そのことについて考える前に、先に処理しておく疑問があるだろ。あまりに突然襲われたから、確かめる余裕もなかったけれど。
僕は、知らなければならない。
「……シリーは、どこにいる」
「天使の涙」を抜け、闇ギルド「死神の左手」に入団した元勇者――シリー・ハート。
僕の幼馴染である彼女が、この襲撃に関わっていないはずがない。
その可能性を排除するのは、あまりに楽観的と言わざるを得ないだろう。
間違いなく。
シリーがこの事態を引き起こしたと考えるのが、自然じゃないか――!
「久しぶりね、クロス」
僕の疑問に答えるように。
堕ちた勇者が――姿を現した。
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