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第一部

死神の左手 001

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 国家機密になっている闇ギルド、「死神の左手トートゴッシュ」のマスターが、どうしてこんなところに?

 いや、彼は言っていた……ベスを殺すためにここまで来たんだと。

 なぜ、彼女が闇ギルドに狙われる?


「儂を殺すじゃと? 冗談はそのふざけた顔だけにしておけよ、ガキが」


 邪悪な魔力を隠そうともしないヒーコックを前に、ベスは一歩も引かない態度で応戦する。


「ガキ、ね。噂通り高慢なエルフだ……だが、今のお前にその態度に見合った実力が出せるのかな?」


「……何が言いたい」


「ここ何日か、。魔力が底を尽きかけてるのを、知らないとでも思うか?」


 エジルさんやベスが感じた嫌な魔力……やはり、こいつのものだったのか。
 ベスをターゲットにした彼は、用意周到に事を運んでいたらしい。


「……ふん。こそこそと女々しい奴じゃ。己が力に自信のない雑魚が、儂に勝てるとでも思っておるのか」


「自信がないわけじゃねえ、勝てる戦しかしたくないだけさ……俺たち『死神の左手』のモットーは、楽しく愉快に虐殺することだからなぁ。殺すのは、女と子どもと老人からってのも、個人的に気に入ってるスローガンだ」


 ヒーコックの言葉に――ゾクッと背筋が凍る。

 あれは、人を殺すことを何とも思っていない人間の目だ。

 「死神の左手」……国が存在を隠し、秘密裏に処理をしようとしているギルド。その本質は、恐らく


「ふん。人殺しを楽しむ下卑た輩を、儂は腐る程見てきた……そやつらの末路は、言わずともわかるだろう」


「くくっ、それがお前の武勇伝か? いいねえ、その余裕に満ちた表情がどう歪んでいくのか、想像するだけで興奮してくる」


「笑えん類の変態が……お前は、儂やこやつらを殺すなんて馬鹿を言ったんじゃ、自分が死ぬことになっても恨むなよ」


「魔力もろくに残っていないくせに、言うことだけは一丁前だな。お前みたいに死に損なったエルフに引導を渡してやるんだから、むしろ感謝してほしいくらいだぜ」


 二人の挑発は続く。

 緊迫した空気の所為で、僕とニニはその場から動くことができない……下手にアクションを起こせば、ベスの邪魔になってしまう。


「エルフを殺すのは初めてだからな……今日はいい記念日になりそうだ。いや待て、駄目だ。今日は初めて正規ギルドのクズどもを皆殺しにした日だから、重複しちまう」


「……御託は終わったか? いいから早くかかってこいよ。儂直々に、その思い上がった鼻っ柱をへし折ってやろう」


「そうだな、始めよう……野郎ども、狩りの時間だ! 【亡霊交響曲ファントム・ムジカ】!」


 ヒーコックが魔法を発動する。彼の背後に髑髏を模した魔法陣が出現し――そこから、数十人もの人間が飛び出してきた。

 雄たけびを上げて僕らに向かってくる男たちの右手には、死神の紋章。

 移動魔法でギルドの仲間を連れてきたってのか……あれだけの人数を一度に移動させるなんて、一体どれだけの魔力量があるっていうんだ。

 闇ギルドのマスターという肩書は、こけおどしじゃない……!


「死神だか何だか知らねえが、調子こいてんじゃねえぞおらぁ!」


 今まで黙っていたエジルさんが、いきなり大きく跳躍する。そして槍を大きく振り回し、空中に巨大な魔法陣を生み出した。


「【水龍爆砲アクア・プロジオン】‼」


 魔法陣から流れ出した水流がドラゴンの頭部を形作り、「死神の左手」のメンバーへ向けて青い魔力の塊を撃ち出す。

 その塊は男たちの中心に着弾し――爆発した。


「有象無象どもが、ベスの姉御に近づくんじゃねえ!」


 エジルさんの本気の一撃――たった一発の魔法で、闇ギルドの精鋭たちに格の違いを見せつける。

 やっぱり、彼は強い。


「ベスの姉御、そのうぜー銀髪は任せました! お前らの相手は、『竜の闘魂ドラゴンガッツ』の一番槍、このエジル様だ! かかってきやがれ!」


 エジルさんは再び水龍魔法を発動し、「死神の左手」のメンバーたちを引きつけ、この場から離れていく。

 ベスとヒーコックの戦いの邪魔にならないよう、それに多分、僕やニニに危険が及ばないよう、一人で敵の相手をする気だ。


「うむ。感謝するぞ、エジル」


 言って。

 ベスは、魔法陣を展開した。


「ヒーコックとやら……確かに儂は全くの本調子ではないが、人間相手に後れを取ると本気で思ったのか?」


 空間が歪みだし。

 ベスの周りが――黒く染まる。


「身をもって知るがいい……エルフの恐ろしさをな」

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