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第一部
楽しいお買い物 002
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数十分に及ぶ押し問答の末、ベスにシンプルな形の杖を買わせることに成功した。彼女が杖に封印されている間は僕がそれを携帯しなければならない以上、派手なデザインをしたものを選ばせるわけにはいかないのだ。
棘があるとかな。
購入した杖は、持ち手側に近い先端がぐるっと渦巻き状になっていて、その真ん中に魔石を嵌めることができるタイプのもので、今回求めていた条件に当てはまる。
「あー、テンション上がらんのぉ……これ完っ全に老人が持つ感じの杖じゃって」
「お前にピッタリじゃないか」
「誰が老婆じゃぶち殺すぞ」
「口悪っ」
武具屋を後にした僕たちは、奥まった路地に移動する……もちろん、これから年端のいかぬ少女に対して如何わしいことをするからではない。
ベスが封印魔法を発動するためにだ。
「封印魔法を大っぴらに使うのは禁止されておらんのじゃろ? なぜこんな、犯罪者御用達の路地裏に隠れる必要がある」
「まあ、万が一ってこともあるからな。事情を知らない善意の第三者に、怪しげな魔法を使っている連中がいるって通報でもされたら困るだろ?」
「事情を知らない善意の第三者は、むしろ今のこの状況を見て通報しそうじゃがの」
確かにその通りだった。
何なら既に通報されているかもしれない。
「ま、お主を犯罪者にするわけにもいかんし、さっさと始めようかの」
言って、ベスは買いたてほやほやの杖を天高く掲げた。
黒い魔力が渦を巻き――彼女の体を包む。
「……なあ、これ本当に安全なのか? 試したことないんだろ?」
「理論上は可能じゃ。もし失敗したとしても、儂の肉体が粉微塵になって吹き飛ぶだけじゃ」
「大問題じゃねえか!」
「嘘じゃ。まあ、右腕と左脚くらいは持って行かれるかもしれん。等価交換というやつじゃ」
「いつから錬金術師になったんだお前は!」
「儂は鋼の義手義足を身につけ、フルメタルエルフになる」
「僕はそれにどう突っ込めばいいんだよ!」
無理だよ、世界観的に。
すれすれを試そうとするな。
「ではいくぞ」
ベスを包んでいる魔力が濃さを増し、次第に小さく収縮していく。
もう完全に彼女の姿は見えなくなった……後はもう、成功を祈ることしかできない。
「……」
数秒――何もできずに黒い渦を見守っていると。
突然、魔力が弾けた。
「っ! ベス!」
カラン、と、杖が地面に落下する。
そこにベスの姿はない。
……成功、したのか?
まさか本当に、粉微塵になって吹き飛んでしまったんじゃないだろうな……
「何をしている。早く杖を取らんか、たわけ」
焦る僕の耳に、高慢な声が聞こえてきた。
「ベス! 大丈夫なのか!」
「うむ。無事成功したようじゃ……今は魔力が不足しておるから無理じゃが、しばらく経てば杖からも出てこられるじゃろう」
「……よかった」
「よくない。早く杖を取れと言っておろうが。お主と距離が遠い所為で、めちゃめちゃ声を張っとるんじゃぞ」
「え、これテレパシー的に心に直接語り掛けてるんじゃないの?」
「やろうと思えばできるが、そんな無駄な魔力は使わん。お主と初めて会話した時も、壁の裏から大声で叫んどった。全然気づかないんじゃもん、お主」
「そんな裏話聞きたくない」
そもそも、あの時は頭に直接話しかけてきてただろ。
とにかく――僕は無事封印が成功した杖を拾い上げる。
この中に、ベスがいるのか……なんだか不思議な感覚だな。
「例えばこれ、ぽっきり折れたらどうなるんだ? 粉々に砕いたり、火をつけたりしたらどうなる?」
「急に怖いこと言うなよ、お主。普通に死ぬぞ、儂が。だから全力で大事にしろよ」
どうやら、杖が破壊された時点で中にいるベスも死んでしまうらしい。
杖を持つ手にも、自然と力が入る。
「あひんっ⁉」
「ちょ、おまっ、変な声出すなよ!」
「お主が変なところを触るからじゃろうが! たわけ!」
「ほーう、変なところってのはどこのことかなー。つつつつつー」
「指で撫でるな! あひゅんっ⁉」
「ここがいいんだろここがぁ!」
人気のない路地裏で杖を愛撫して喜んでいる青年を見つけたら、誰だって通報するだろう。
僕だってそうする。
棘があるとかな。
購入した杖は、持ち手側に近い先端がぐるっと渦巻き状になっていて、その真ん中に魔石を嵌めることができるタイプのもので、今回求めていた条件に当てはまる。
「あー、テンション上がらんのぉ……これ完っ全に老人が持つ感じの杖じゃって」
「お前にピッタリじゃないか」
「誰が老婆じゃぶち殺すぞ」
「口悪っ」
武具屋を後にした僕たちは、奥まった路地に移動する……もちろん、これから年端のいかぬ少女に対して如何わしいことをするからではない。
ベスが封印魔法を発動するためにだ。
「封印魔法を大っぴらに使うのは禁止されておらんのじゃろ? なぜこんな、犯罪者御用達の路地裏に隠れる必要がある」
「まあ、万が一ってこともあるからな。事情を知らない善意の第三者に、怪しげな魔法を使っている連中がいるって通報でもされたら困るだろ?」
「事情を知らない善意の第三者は、むしろ今のこの状況を見て通報しそうじゃがの」
確かにその通りだった。
何なら既に通報されているかもしれない。
「ま、お主を犯罪者にするわけにもいかんし、さっさと始めようかの」
言って、ベスは買いたてほやほやの杖を天高く掲げた。
黒い魔力が渦を巻き――彼女の体を包む。
「……なあ、これ本当に安全なのか? 試したことないんだろ?」
「理論上は可能じゃ。もし失敗したとしても、儂の肉体が粉微塵になって吹き飛ぶだけじゃ」
「大問題じゃねえか!」
「嘘じゃ。まあ、右腕と左脚くらいは持って行かれるかもしれん。等価交換というやつじゃ」
「いつから錬金術師になったんだお前は!」
「儂は鋼の義手義足を身につけ、フルメタルエルフになる」
「僕はそれにどう突っ込めばいいんだよ!」
無理だよ、世界観的に。
すれすれを試そうとするな。
「ではいくぞ」
ベスを包んでいる魔力が濃さを増し、次第に小さく収縮していく。
もう完全に彼女の姿は見えなくなった……後はもう、成功を祈ることしかできない。
「……」
数秒――何もできずに黒い渦を見守っていると。
突然、魔力が弾けた。
「っ! ベス!」
カラン、と、杖が地面に落下する。
そこにベスの姿はない。
……成功、したのか?
まさか本当に、粉微塵になって吹き飛んでしまったんじゃないだろうな……
「何をしている。早く杖を取らんか、たわけ」
焦る僕の耳に、高慢な声が聞こえてきた。
「ベス! 大丈夫なのか!」
「うむ。無事成功したようじゃ……今は魔力が不足しておるから無理じゃが、しばらく経てば杖からも出てこられるじゃろう」
「……よかった」
「よくない。早く杖を取れと言っておろうが。お主と距離が遠い所為で、めちゃめちゃ声を張っとるんじゃぞ」
「え、これテレパシー的に心に直接語り掛けてるんじゃないの?」
「やろうと思えばできるが、そんな無駄な魔力は使わん。お主と初めて会話した時も、壁の裏から大声で叫んどった。全然気づかないんじゃもん、お主」
「そんな裏話聞きたくない」
そもそも、あの時は頭に直接話しかけてきてただろ。
とにかく――僕は無事封印が成功した杖を拾い上げる。
この中に、ベスがいるのか……なんだか不思議な感覚だな。
「例えばこれ、ぽっきり折れたらどうなるんだ? 粉々に砕いたり、火をつけたりしたらどうなる?」
「急に怖いこと言うなよ、お主。普通に死ぬぞ、儂が。だから全力で大事にしろよ」
どうやら、杖が破壊された時点で中にいるベスも死んでしまうらしい。
杖を持つ手にも、自然と力が入る。
「あひんっ⁉」
「ちょ、おまっ、変な声出すなよ!」
「お主が変なところを触るからじゃろうが! たわけ!」
「ほーう、変なところってのはどこのことかなー。つつつつつー」
「指で撫でるな! あひゅんっ⁉」
「ここがいいんだろここがぁ!」
人気のない路地裏で杖を愛撫して喜んでいる青年を見つけたら、誰だって通報するだろう。
僕だってそうする。
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