公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ

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第一部

原因と対策

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「んん……ん……? いやー、参った参った。まさか空腹で意識を失ってしまうとは……我ながら大胆じゃの」


 ベスが意識不明になった後。

 全速力でソリアの市街地に戻り、何度か世話になった医者のところへベスを連れて行ったが……やはりエルフは専門外らしく、手の施しようはないと言われた。

 彼女を病院のベッドに寝かせて一時間。
 今までの人生で一番長く、そして苦しい一時間だったけれど。

 僕らの心配を余所に、ベスはいきなり目を覚まし――笑いながら冒頭のセリフを口にしたのだった。


「……」


「? ここはどこじゃ? それにお主ら、やけに辛気臭い顔をしとるの」


「……ベス」


「なんじゃ改まって」


 僕は半身を起こした彼女を、思いっきり抱きしめる。

 良かった……本当に……。


「おいおい、急にどうした。いつから甘えん坊になったんじゃ、お主は。可愛いやつめ」


 ベスが頭を撫でてくる……これじゃ、どっちが倒れたんだかわからないな。

 僕は抱いていた腕を離し、仕切り直すように自分の頬を叩いた。


「ん? もう抱きつかんでもいいのか? 儂はいつでもウェルカムじゃぞ」


「いや、やっぱり傍から見た絵面が犯罪染みていて、どうにも落ち着かないから遠慮するよ」


「まあ確かに、儂は見た目可憐な十歳児じゃからの。少女に抱きつく青年というのは、バッシングの対象じゃろうて」


「……」


 普通に会話ができているってことは、そこまで深刻な事態ではない……のかな?

 正直、まだ判断ができないところではある。


「お主は抱きつかんでええのか、ニニ。絵面的にも全く問題ないし、むしろ特定の層には需要があると思うぞ」


「私たちがわざわざ供給してあげる必要もないでしょう……それに、クロスさんが私の分まで抱きついてくれましたから」


「なんじゃ。儂の胸に飛び込んできたら、どさまぎに耳を噛んでやろうと思ったのに」


「どさまぎなんて、今日日誰も言っていませんよ……とにかく、無事でよかったです」


 ニニとも軽口を叩き合っているし……もう身体は大丈夫なのか?

 だとしたら。

 一体何が原因で、ベスは意識を失った?

 彼女はキョロキョロと周囲を見回し、得心がいったように頷く。


「なるほど、ここが病院というやつか。少し倒れた程度で大げさなと、昔の儂なら言っておったろうが……驚かせてしまってすまない。それと、儂を見捨てずにいてくれて感謝しておる」


「見捨てるなんて、そんなことするはずないだろ」


「頭ではわかっているつもりじゃがな。何せ仲間に裏切られたことのある身じゃ、その体験が嫌らしくも心のどこかに染みついているようじゃ」


「仲間に裏切られた……?」


 ベスの言い回しに引っかかったニニが疑問符を浮かべる。


「おっと、お主には言っておらんかったの……まあ、そこら辺の事情は近いうちに話そう。今は、儂の身体について語るべきじゃな」


 言って、ベスは自分の右手を見つめた。

 そして意を決したように、真っすぐな瞳で僕を見つめる。


「今の儂の身体からは、。さっきは、あまりの空腹に耐えかねて倒れてしまったが……正直、こんなことは千五百年の人生の中で一度もなかったので、儂も対応を見誤ってしまったのじゃ」


 自分の置かれている状況を、ベスは淡々と語る。


「儂らエルフは魔力を原動力として生きておる。こうして話すのも呼吸をするのも体を動かすのも、全ての行動に魔力を消費する……故に、その源が枯渇すれば、死ぬのじゃ」


「し、死ぬのじゃって……」


「無論、今はそこまで切羽詰まっているわけではない。じゃが、既に魔力消費の多い魔法は使えなくなっておる……その所為で、ダンジョンではお主らを危険な目に合わせてしまった。すまない」


「いや、それはいいんだけど……」


 そんなことよりも、死ぬ、だって?

 人間も魔法を使い過ぎれば魔力切れという症状が起きるが、もちろん死には至らない……エルフとは根本的に、体の構造が違うらしい。


「普通、エルフは生きるのに必要な魔力と魔法に必要な魔力とをわけて使うんじゃが……二百年封印されとった所為で、その辺のコントロールを間違えたようじゃ」


「……よくわからないけど、要は活動エネルギーとして残しておかなきゃいけない魔力を余分に使っちゃったから、意識を失ったってことか?」


「概ねその理解で正しい。より感覚的に言えば、腹が減り過ぎた。お主らじゃって、何も食わねば生きていけんし倒れもするじゃろ」


 ここのところずっと、ダンジョンを攻略するたびに空腹だ空腹だと言っていたけれど……あれは魔力が切れそうというサインだったのか。

 ……倒れてしまった原因はわかった。

 でも、その

 簡単に考えるなら、魔法を使い過ぎてしまったということなのだろうけれど……そんな単純な理由なのか?


「その顔、どうして儂が魔力切れになったのか、そっちの方が気になっているという感じじゃの」


「……相変わらず察しがいいな」


「そこの部分こそ、お主らに話しておきたかったことじゃ」


 ベスは本題に入るとばかりに、ベッドに座り直して姿勢を正す。


「儂らエルフは外部から魔力を吸収する。その主な方法は、魔石を食うことじゃ」


「魔石……あれを食べるのか?」


 冒険者がダンジョンから持ち帰る資源の一つで、この国の根幹を支える重要な魔法資源……魔力の塊が硬質化し、石という形を成した魔石は、人の生きるありとあらゆる場所で使われている。例えば電気を生み出したり火を起こしたり、風呂の湯を沸かす魔法でさえも、魔石によって発動しているのだ。


「左様。まあ、普通にお主らが食べるような食事にも微量な魔力は含まれておるから、それだけを食らっていても生きるのに支障はない。じゃが、強大な魔力を吸収するには魔石が手っ取り早いんじゃ」


「えっと……じゃあ、ここ最近は魔石を食べれていなかったってことか? その所為で、魔力の吸収が追いつかなかったとか」


「否。充分な量の魔石を食べ、なんなら寝ているお主から少し魔力を吸収したたりもした」


「蚊じゃないんだから勝手に吸うなよ……え、そもそもどうやって魔石を手に入れてたの? あれ、小さなものでも結構高価だけど」


「……まあその、ダンジョンを攻略している時に少し、の」


 片目を閉じてウィンクしているが、それ、普通に規則違反なんじゃ……。

 まあでも、資源をダンジョン外へ持ち出すことが禁止されているだけだから、その場で食べる分にはいいのか?


「じゃがその食事も空しく、儂は魔力を溜めることができんかった……いや、違うな。正確には、二百年前に比べて魔力の吸収効率が格段に落ちてしまったんじゃ」


「二百年前に比べててことは……つまり、封印されている間に身体に異常をきたしたってことだよな?」


「恐らく。いくら魔石を食っても、魔力の溜まり方がすこぶる悪い。それに気づかぬふりをして魔法を使いまくっとったから、そりゃぶっ倒れもするわ」


「……」


 なるほど、これで謎はほとんど解けた。
 なら問題は、その身体の異常を治すことができるのかどうかにある。


「儂も初めての経験じゃからの、この状態が治るのか治らんのか、全く予想もつかん……そこでじゃ、ここからが重要な話なのじゃが、お主」


 言って。

 ベスは、事態の解決方法を提示する。


「儂は、

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