公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ

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第一部

急変

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 闇ギルド。

 国の管理下にある正規ギルドと違い、違法に組織されたギルド。その多くはただの犯罪集団で、徴税を逃れてダンジョン資源を売買したり、薬物の斡旋や誘拐をしたりなど、とにかく金のために動いているそうだ。

 だが中には、国家転覆を謀る者たちや壮大な理念を掲げている者たちもいるらしい。

 ニニの村を襲ったという男は――恐らく後者なのだろう。


「村を出た私は、男を追ってギルドからギルドへと渡り歩きました。田舎で得られる情報には、限りがありますから」


「……それで、今は『竜の闘魂ドラゴンガッツ』にいるってわけか」


「はい。ですが、この国で三本の指に入る巨大ギルドでさえ、闇ギルドについて詳しく把握していません……上層部になれば違うでしょうけれど、私に知ることはできませんでした」


「だから、国の持つ情報に目を付けたんだな」


 特別公務メンバーになれば、場面によっては公務員と同等の扱いを受けることができる。その立場を利用し、国やソリアが持つ闇ギルドの情報にアクセスしようとしたのだろう。


「その通りです。ギルドの一員として自由に動きつつ、役人の権限も一部手に入れることができる……特別公務メンバーの募集は、私にとって渡りに船でした」


「……じゃあ、どうして今までは応募してなかったんだ?」


「それは単純に、存在を知らなかったからです。ベスさんやクロスさんの活躍のお陰で明るみに出ただけで、ギルドのみんなもそんな募集があることすら知りませんでしたよ」


「……」


 仕事しろよ、広報係。

 もしかして、ただの宣伝不足で人手が足りないんじゃないのか? ……でもまあ、カイさんはそういう小手先の宣伝は嫌いそうだし、仕方ないのかもしれない。


「若いのにいろいろと大変じゃのう……そうか、ミミの子孫の村がなくなってしまったのか」


 ずっと黙っていたベスが、静かに呟いた。

 昔の仲間が脈々と築いてきた歴史が途絶えたことに、何か思うところがあるのかもしれない。


「……ニニは、どうしてその話を僕たちにしてくれたんだ? 思い出すのだって、辛いだろうに」


「……確かに、話すだけでも辛いですね。現に、これまで他人に語ったことはありません。ですが、お二人には聞いてもらいたかったのです。私のご先祖と旅をしていたベスさんと、その仲間のクロスさん……そんな人たちに隠しておくことは、できません」


 それにと、ニニは続ける。


「正直、自分一人で背負い続けるのに疲れていたんです。誰かに頼りたかったけど、信用できる相手はいない……でも、さっきの戦いで確信したんです。あの時、ご先祖から代々伝わる魔法を使えたのは、きっとクロスさんを守るという使命があるからだと。だから、私はお二人を信頼します……私を、助けてもらえないでしょうか」


 彼女の言葉に身が引き締まる。
 信頼には、応えなければならない。


「……僕も、できる限りの協力をするよ。闇ギルドについて、集められる情報を集めてみる」


「ありがとうございます……お二人には迷惑を掛けませんから」


「僕たちはもう仲間なんだから、お互いに迷惑をかけあってもいいんだ。だろ? ベス」


 僕は後ろを振り返り、ベスを視界に捉える。


 ふらっと。


 彼女の小さな体が――前のめりに倒れた。


「っ! ベス!」


 咄嗟に受け止め、倒れないように体重を支える。

 ベスは呼びかけに応えることなく、目を閉じたままだった。

 意識はなく、顔は苦悶の表情で歪んでいる。


「く、クロスさん! ベスさんが……」


「わかってる! ニニ、急いで街に戻るぞ!」


 どうして突然? ……いや、予兆ならあったじゃないか。

 ベスの身に何かあるとわかっていたのに……彼女が話すまで待とうと、気にしないようにしてしまった。

 それは信頼じゃない――放置だ。
 ベスのSOSサインを、見逃した。

 僕は一体、何度間違えれば気が済むんだよ……!


「【レイズ】‼」


 意識のないベスを背中に背負い、身体強化魔法をフルパワーで発動する。街に戻って医者に診せるのが最善だろうけど……しかし、エルフを扱ってくれるだろうか。

 考えていてもしょうがない――今は走れ。

 僕は、お前を失うわけにはいかないんだ。

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