37 / 108
第一部
懐古
しおりを挟む「いやーすまんすまん。遅くなってしまった」
A級モンスターのファントムゴーレムを退けてから数分後――そんな気の抜けたセリフと共に、ベスが僕らの前に降り立った。
「ベス! 心配してたんだぞ! 大丈夫だったのか!」
「少しばかりモンスターどもを倒すのに手間取ってしまっての……すまない」
「いや、無事だったんならいいんだけど……」
やっぱり、ベスもモンスターに襲われていたらしい。これで彼女が僕らのピンチに駆けつけられなかった理由はわかった。
問題は、どうしてベスが苦戦したのかということ。
「なあ、ベス……」
「ところで猫耳娘、そなたに言っておきたいことがある……ずっともしやと思っていたのじゃが、今お主から流れている魔力で確信した」
「な、何でしょうか……?」
「儂は、お主の先祖と旅をしたことがある」
僕の疑問は、ベスの衝撃的な発言によって搔き消された。
「わ、私の先祖?」
「そうじゃ。あれは大体、三百年くらい前かのぉ……お主と似た容姿をした獣人の女と、共に旅をしたことがある。奴の名前はミミ・ココ……お主同様、盾を媒介にした魔法を得意としておった」
「ミミ・ココ……」
「応募書類でお主を見た時、もしやこれは儂の知るあの猫耳娘とつながりがあるのではと思ったのじゃが、ビンゴじゃったな。その魔力は間違いなく、ミミと同質じゃ」
ベスは自信たっぷりに頷く。
彼女の話が事実なら、奇跡的な偶然だ……三百年も前に旅をしていた仲間の子孫と、こうして再びパーティーを組むことになるなんて。
「……三百年前って言うと、ニニのひいひいひいひいお祖母ちゃんくらいか? まあ、直接血がつながっているとは限らないけど」
「ここまで同質の魔力じゃ、恐らく直系の子孫じゃろう。それに、所作の一つ一つがすこぶるミミに似ておる……血とは不思議なものじゃの」
「なんだか、実感がわきませんけれど……私のご先祖とベスさんが仲間だったというのは、運命を感じてしまいますね」
突然のことでニニも戸惑っていたが、しかし嬉しそうな表情を浮かべた。
運命、か。
千五百年も生きていれば、こうした縁もあるのだろう。僕には、途方もなさ過ぎて想像できないけれど。
「ミミとは長く旅をした……酔っぱらった儂があやつの猫耳を齧って、よく怒られたもんじゃ」
「一番に思い出すエピソードじゃないだろ、それ」
「じゃがあやつも次第に満更ではない顔をしてきての。耳が感じるらしい」
「子孫の前でなんて話をするんだ」
ご先祖様の性感帯の話とか、聞かせるんじゃねえ。
……でもまあ、ベスは以前、友と呼べる存在は十人しか覚えていないと言っていた。
その内の一人がニニの先祖なのだとしたら、いい関係を築いていたということだろう。
「あやつは最高の盾使いじゃった。儂らの窮地を幾度も救い、その防御魔法はどんな攻撃をも寄せ付けない鉄壁の守りじゃった……お主を仲間に引き入れたのは、単に昔を懐かしんだからではない。いずれはミミのような才気あふれる冒険者になるじゃろうと、期待してのことじゃ」
「……ありがとうございます。私の一族をそこまで評価してくれるなんて、感謝しかありません」
ベスの激励を聞いたニニは、何とも言えない顔で返事をした。
嬉しさと哀しさが入り混じったような。
そんな顔で。
「今回の戦闘でも、よくこやつを守り抜いてくれた。儂の方こそ、お主の活躍に敬意を表したい」
どこまでも上から目線ではあるが、ベスもニニに対して感謝の意を述べる。
戦闘……そうだ。
「……さっき聞きそびれたけど、ベスはどうして今回苦戦したんだ? もしかして、S級モンスターでも出てきたとか」
「……その話は、また改めてするとしよう」
彼女にしては珍しく、煮え切らない態度でそう呟いた。
やっぱり、ベスの身に何かが起きたらしい……まだ付き合い自体は短いけれど、何となく察することができる。
「……そっか。わかった」
だが僕は、深く追求しなかった。
彼女が改めて話すと言っているなら、それを信じるのが仲間であると。
そう思ったから。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる