36 / 108
第一部
ニニ・ココ 004
しおりを挟む「クロスさん!」
身動きの取れない僕とゴーレムとの間に、ニニが滑り込んでくる。
「【シルト】!」
防御魔法が発動し、ゴーレムの殴打を受け止めた。
普通に死を覚悟していたけれど、どうやら助かったようである……仲間がいるってのはこうも心強いものかと、自然と顔が綻ぶ。
「何笑ってるんですか! あなた今死にかけてましたよ!」
「いや、誰かに助けてもらうのもいいもんだなって」
「変に達観しないでください! っていうか早く立ってください! そう長くはもちません!」
「ほんとに申し訳ないんだけど、全身痺れて動けないんだ。僕のことは置いて、ニニだけでも遠くへ逃げてくれ」
彼女の獣人の脚力があれば、ゴーレムが僕に気を取られる一瞬の間に逃げることができるはずだ。
僕はここで死ぬかもしれないけど……この子だけは。
何としても、助けなければ。
「そんなことできるわけないでしょ!」
ニニが叫んだ。
その声は、焦燥感や憤りから生み出されたものではなく。
悲しみを帯びた、悲鳴のようだった。
「私の前では、もう誰も死なせません! 私の仕事は、みなさんを守ることです!」
「でも、このままじゃ二人ともやられちまう……僕のことはいいから、せめてニニは……」
「どうしてそんなにすぐ死のうとするんですか! 他人のことを思って死ぬくらいなら、最後まで自分のことを考えて生きようとしてください!」
ゴーレムの拳が、防御魔法にひびを入れる。
ニニは【シルト】を重ね掛けして何とか防ごうとするが、圧倒的な攻撃力によって壁は破られていく。
「……」
こんな窮地に追い込まれているというのに……ベスはどうしたんだ?
まさか。
彼女もモンスターに襲われて、僕たちに合流するどころじゃないんじゃないのか?
ベスに単独行動をさせ、僕とニニの二人で未踏ダンジョンを探索するなんて……今思えば、愚策にも程がある。
こんなの、ベスの強さに胡坐をかいただけの、無謀な行動じゃないか。
どうして僕は、そんな危険なことを仲間にさせているんだ。
向かうところ敵なしのベスと一緒にいた所為で、感覚が狂っていた?
……いや、そんなのは言い訳だ。
僕の、クロス・レーバンの甘えが招いた結果だろう。
ベスに何と言われようと、三人で一緒に行動すべきだった。
僕の所為で、ベスやニニが死んでしまうかもしれない。
「くそ……」
それなのに、今の僕は身動き一つとれやしない。僕が何とかしなきゃいけないのに、落ちた剣を拾うことすらできない。
もう、無理なのか。
この状況を覆すことなんて、どうやっても……
「諦めないでください、クロスさん!」
不意に。
ニニがそう声を上げる。
「私たちは弱いです! だからこそ誰かと助け合って戦うんです! 今は、私があなたを助けます!」
ニニは、両手で構えていた盾から左手を離し。
魔力を集める。
「これから使う魔法は、私の一族に代々伝わる魔法です……ですが、一度も成功したことはありません。だからもし失敗したら、二人仲良く臨終しましょう、クロスさん」
「それは……すごい告白だな。ほんとは逃げてほしいけど、そこまで言うなら断れないよ」
「こんな可愛い女の子の誘いを断れるわけないですもんね……でも安心してください。今は不思議と、発動できる気がするんです」
彼女は深く息を吸い。
ゴーレムの攻撃を防いでいた防御魔法を自ら消し、左手の魔力に集中する。
「【災厄を退ける盾】‼」
青白い魔力が爆ぜ、魔法が発動した。
ニニの目の前に、十字の紋章が刻まれた盾が顕現する。
そして。
その盾を殴りつけたファントムゴーレムの右腕が、砕け散った。
「この盾はあらゆる攻撃を受け止め、弾き返すことができます! 防御こそ最大の攻撃……それがココ一族の教えです!」
腕を破壊されたゴーレムは怒り狂い、雷の魔法を撃ち出す。
だが、ニニの盾はその雷を受け切り――青い波動を撃ち返した。
「グゴアアアアアアアアアアアア‼」
波動はファントムゴーレムの硬い表皮を貫き、胴体に風穴を開けた。
モンスターの身体が消滅する……どうやら、無事に倒すことに成功したらしい。
張っていた気が緩まったのだろう、ニニはその場にへたり込んだ。
「……ありがとう、ニニ。命の恩人だ」
「いえ、私たちは仲間ですから。お互い様というやつです」
僕たちは互いに目を見て笑い合う。
目の前の脅威は去ったが。
ベスは――まだ姿を現さない。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~
椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。
探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。
このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。
自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。
ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。
しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。
その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。
まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた!
そして、その美少女達とパーティを組むことにも!
パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく!
泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる