31 / 108
第一部
新メンバー 002
しおりを挟む「ベス! どうしてこの子を選んだんだ!」
大声が出た。
市長室にいる間、カイさんとベスの話を黙って聞いていた所為で、音量の調節が上手くいかなかったらしい。
「な、なんじゃいきなり……儂、何か怒られるようなことでもしたか?」
「あ、いやごめん……ちょっと喉の使い方を忘れて」
「少し喋ってなかっただけで忘れるとか、普段どんだけ会話してないんじゃ。友達がおらんにも程があるじゃろ」
「なぜ僕の交友関係の薄弱さに話が逸れる」
「お主と知り合ってからしばらく経つが、儂以外の誰かとまともに話してるのを見たことないぞ。大丈夫? 相談のろうか?」
「普通の口調で心配するな。マジみたいじゃないか」
「いや、おおマジなんじゃって。お主、この街に友と呼べる存在はいるのか?」
「それは……いないけど……」
でも、僕は元々友人を多く持ちたいタイプではないのだ。
全然気にしてない(涙)。
「それを言うなら、お前だって友達いないだろうが」
「儂にはお主がいればそれで充分じゃ」
「えっと、その……」
「なに本気で照れておるんじゃ、たわけ……千五百年も生きれば、人付き合いの仕方も落ち着いてくる。多くの関係を持とうと意味がない、己の両手で支えられるだけの人数と付き合うのが、最善なのじゃと気づいたまでよ」
妙に含蓄があるのは、やはり彼女の長い人生経験の裏打ちがあるからなのか。
それとも、仲間に裏切られたことがあるからなのか。
「ま、これも丁度いい機会じゃと思ってパーティーメンバーを増やすのも悪くない。お主にもいい刺激になるじゃろ」
「……さいですか」
ベスがいいと言うのなら、僕に止める気はない。
ただ、数ある応募者の中からどうしてこの子を選んだのかは、わからないままだけれど。
僕は一枚の書類に目を落とす。
そこには、ベスが興味を持った冒険者の素性が書かれていた。
名前は、ニニ・ココ。
その十五歳の少女は――人間ではない。
獣人の女の子だった。
◇
昼過ぎ。
うつらうつらと寝ぼけていた僕は、ノックの音で意識をはっきりさせる。
この部屋――探索係の部署を訪ねてくる人はそう多くない。三人いるという先輩たちとは全くタイミングが合わず顔も見たことがないし、頻繁にここを訪れるのは執務から逃げてきたカイさんくらいだ。
だが、あの人はノックなんて上品なことはしない。
「失礼します。ニニ・ココと申します」
若い少女の声色……間違いない、先程まで目を通していた書類に書かれた人物だ。
特別公務メンバーに応募してきた、獣人の少女。
「はい、どうぞ」
快く招き入れたものの、しかしその後何をすればいいのか皆目見当もついていない。カイさんはとりあえず面接っぽいことをすればいいと言っていたけれど……ええい、当たって砕けろ。
僕はそれっぽい雰囲気を出すために、急いで机の上を片付けて椅子にふんぞり返る(完全にカイさんの影響を受けてしまった)。
直後、ゆっくりと扉が開いた。
「初めまして。『竜の闘魂』ソリア支部所属、ニニ・ココと申します。役職は『盾使い』です。今日はよろしくお願いします」
はきはきと喋る彼女の頭部に――猫耳。
桃色の頭髪から、にょきっと猫耳が突き出している。
顔はまだ幼く身長もさほど高くないが、服の上からでもわかる体のしなやかさや手足の長さが、独特の雰囲気を醸し出していた。
初めて見る……これが獣人。
獣の特徴と人間の特徴が入り混じった、混合種。
エール王国の東の地域に多く住んでいると言われるが、この辺りでは滅多に見かけることはない……必然、僕は好奇の目を向けてしまった。
「……あの、ここ、未踏ダンジョン探索係であってますか?」
「あ、ああ、あってるあってる。大正解だよ」
いけない、出会い頭に観察し過ぎて不審がられてしまった。
ここはクールにいこう……第一印象は大事だからな。
「こちらこそ初めまして。僕は探索係のクロス・レーバンだよ。よろしくね」
「はあ……よろしくお願いします」
めちゃめちゃ警戒されている。
普通にショックだ。
「ん……来客かの」
ここからどうやって僕の信頼を取り戻そうかと思案していると、部屋の隅から寝ぼけた声が聞こえてくる。
どうやら、完全に昼寝をかましていたベスが起床したらしい。
「……? おお、マジで猫耳じゃの! いやー、久しぶりに獣人を見たかったんじゃが、相変わらずめんこい容姿じゃのぉ。どうじゃ、儂の言っておった通りじゃろうが。お主なら絶対に気に入ると思ったんじゃ、猫耳」
開口一番、とんでもないセクハラ親父だった。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる