上 下
29 / 108
第一部

名案

しおりを挟む

 結果から端的に申し上げると。

 ベスは、B級ダンジョンを半日もせずに完全攻略してしまった。

 ……自分で言っていて、何の冗談かと思うけれど。

 しかし、事実だ。

 B級ダンジョンといえば、勇者シリーのパーティーですら攻略に一週間かかり(あの時は僕もいたから遅くなったかもしれないけど)、それが平均と言われている所用期間である。

 それを――半日。

 僅か十二時間足らずで、ベスは完全に蹂躙してみせた。

『まあ、肩慣らしには丁度良かったの』

 ダンジョンを出ての第一声は、そんな気の抜けるようなものだった。

『何だか昔より腹が減りやすくなった気もする……歳を取ったということかの』

 なんて、千五百年生きているにしては俗っぽいことも言っていた。

 とにかく僕は、探索で起きた事実を報告書に纏めなければならない。
 例えそれが、どんなに荒唐無稽に思える内容だとしても。





「……」


 初めて会った日から、カイさんには驚かされたり驚かせたりしているけれど……どうやら今目を落としている報告書が、ここ最近で一番の衝撃であろうことが窺えた。

 数分の沈黙の後、彼女は重い口を開く。


「……B級ダンジョンを半日で攻略したと、しかも完全攻略したとこの書面からは読み取れるが……事実かい?」


「はい。事実です」


「……君が同僚でなければ、はいそうですかと信じたりはしないが……うむ……」


「えっと、一応そこに書いてあるとおり、モンスターを討伐したのはエリザベスです。僕は十数体倒した程度で、残りは全て彼女がやりました」


「別に、君が弱いからとこの結果を疑っているわけではないよ。エリザベスくんが疑っているんだ……ちなみに、この『疑う』は『目を疑う』という意味の方だがね」


 はぁと、カイさんは一際大きい溜息をついた。

 そして、綺麗に整っている髪をクシャクシャと掻き毟る。


「ここに書いてあることが事実なら、彼女はに置かれてしまう……喰魔のダンジョンの次は規格外のエルフとは、お祓いにいった方がいいかもしれんな」


「まずい立場、ですか」


「うむ。強大な力は往々にして人目を引くものだ。彼女の存在が世に広がってしまえば、多くのギルドがその力を欲するだろう……最悪の場合、他国から危険因子とみなされて命を狙われるかもしれない」


「命って……それは大袈裟なんじゃないですか?」


「大袈裟なことが起きているんだよ、クロスくん。B級ダンジョンを半日で完全攻略するなんて、ほとんど革命と言って差し支えない偉業だ。そして革命を起こした者の末路は、破滅と決まっている」


 ベスは僕のことを破滅型の人間だと言っていたけれど、彼女の運命もまた安泰なものではないらしい。

 カイさんは顎に手を当てながら目を閉じ、何かを思案する……しばらくして、パッと大きく目を見開いた。


「後ろ向きに考えるのはやめるとしよう。エリザベスくんがエール王国こちら側についているという状況を、最大限に活かすべきだね」


「……どういう意味ですか?」


 僕の問いかけに対し、カイさんはにやりと唇を歪める。


「君とエリザベスくんにはこれから、積極的にダンジョンを。もちろん危ない橋を渡る必要はないが、攻略可能と判断すれば行動に移してくれ」


「探索よりも攻略を優先しろと、そういうことですか」


「その通りだ。未踏ダンジョンにという我々の特権を利用して、ギルドの連中より先にダンジョンを攻略する……それができれば、ギルドと国との力関係に風穴を開けることができるかもしれない」


 言って、彼女は拳に力を入れる。

 確かに探索係が未踏ダンジョンを攻略してしまえば、ギルドの出る幕はほとんどなくなる……国よりも力を持ってしまった彼らの権力を削ぐには、理想的な方法だ。


「でも、僕とベスだけでそこまでの影響を与えられるとは思えませんけど……」


「何事もやってみなければわからない。例えば君たちが立て続けに功績を挙げれば、ギルドを辞めて未踏ダンジョン探索係になりたいと考える冒険者も出てくるのではないかね?」


「それは……ちょっと希望的観測過ぎる気もしますけどね」


「なんだい、君は太鼓持ちというやつができない男か。ここは私の名案をよいしょするところだろう」


「よっ、さすがエール王国一の市長っ!」


「絶望的に他人を持ち上げるのが下手だね」


 言われた通りにしたのに、お気に召さなかったらしい。

 まあ、彼女の名案(?)が実現するとは到底思っていない身からすれば、適当な受け答えになるのも仕方がないだろう。

 しかし。

 カイさんの思惑は、違った形で結果を出すことになる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

遺跡に置き去りにされた奴隷、最強SSS級冒険者へ至る

柚木
ファンタジー
 幼い頃から奴隷として伯爵家に仕える、心優しい青年レイン。神獣の世話や、毒味役、与えられる日々の仕事を懸命にこなしていた。  ある時、伯爵家の息子と護衛の冒険者と共に遺跡へ魔物討伐に出掛ける。  そこで待ち受ける裏切り、絶望ーー。遺跡へ置き去りにされたレインが死に物狂いで辿り着いたのは、古びた洋館だった。  虐げられ無力だった青年が美しくも残酷な世界で最強の頂へ登る、異世界ダークファンタジー。  ※最強は20話以降・それまで胸糞、鬱注意  !6月3日に新四章の差し込みと、以降のお話の微修正のため工事を行いました。ご迷惑をお掛け致しました。おおよそのあらすじに変更はありません。  

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

処理中です...