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第一部
改めて初仕事 002
しおりを挟む「【火炎斬り】!」
未踏ダンジョンの探索を始めて一時間。
僕とベスは、未だ一階層目の森の中をうろついていた。
「ほらほら、ボケっとするな。後ろからもう一体くるぞ」
「っ! 【火炎斬り】!」
今僕が戦っているのは、C級モンスターのレッドスライム。
以前戦ったグリーンスライムと同じく、魔力による攻撃でしかダメージを与えられない種族だ。
正直、僕レベルでも問題なく倒せる相手……なのにどうしてこんなに疲れているのかといえば、ベスが戦っていないからである。
「お、あと五匹じゃぞ。ちなみにデーモン種がすぐ近くまできておるから、急いだ方が賢明じゃ」
黒い翼を生やし、頭上から僕を焦らせる彼女がどうして手を貸してくれないのかと言えば……どうやら、僕に強くなってもらいたいらしい。
ダンジョンに入ってすぐ、出現モンスターがC級だとわかった途端――ベスは上空へと飛び去ってしまった。
曰く、「この程度ならお主一人で何とかせい。丁度いい修行じゃ」とのこと。
僕自身も己の弱さに思うところはあったので了承したけど……これ、かなりきつい……。
元々僕は完全攻略されたダンジョンに潜るのが仕事で、モンスターとはほとんど戦ったことがないのだ。
シリーたちと組んでいた時は、敵の攻撃を受けるだけで精一杯で倒してはいなかったし……こうして自分一人で戦うのがこんなにキツイとは思ってもみなかった。
「なっさけないのー、もうバテておるではないか。こりゃ、修行のし甲斐がありそうじゃ」
「そいつはどうも……」
「というか、さっきから同じ魔法しか使わんのぉ。他にないんかい。見てて飽きるぞ」
「僕は、お前を楽しませるために戦ってるわけじゃない……」
だが、彼女の言うことはもっともだった。
僕が使える魔法は、二つしかないのだから。
運動能力を上げる身体強化魔法――【レイズ】。
剣に炎属性の魔力を付与する攻撃魔法――【火炎斬り】。
この二つが僕の全てである。
「魔法の習得には、その者に元来備わっている才能が大きく関わってくる。如何に魔力を思い通りに操るか、操った魔力を魔法に変換できるか……それらの要素は、才能ありきじゃ」
「僕には才能がないって言いたいんだろ。わかってるよ、そんなこと」
「うむ。お主には魔法を新たに生み出す才能は備わっていないようじゃ……じゃが、そういう奴は大抵、魔法を伸ばす才能がある」
「伸ばす……? どういう意味だ?」
「多芸に秀でるか一芸を極めるか、ということじゃ。お主は多彩な魔法を習得するのではなく、一つの魔法を磨くことに集中した方がよいじゃろうな……ほれ、右、くるぞ」
ベスに促され、右から迫ってきていたレッドスライムを炎で断ち切る。
これで五対……とりあえず、スライムの群れは片づけた。
「魔法を強化するために必要なのは、まず数をこなすことじゃ。【火炎斬り】と【レイズ】を、使って使って使いまくれ。そうすることで、コツが見えてくる」
「コツって……急に曖昧だな」
「魔法自体が酷く曖昧な存在じゃからの、どうしても各々の感覚頼みになってしまうのじゃ……まあそう難しく考えるな、気づいたらできるようになる。大人のキスと同じじゃな」
「例え下手すぎるだろ。全くピンとこないぞ」
「それはお主がまだ大人のキスを知らんからじゃろ」
「なっ⁉ しっ、知ってるさ!」
「ほーう。ではどんな感じなのじゃ? 唇の当て方は? 舌の這わせ方は? 目は閉じるのか開けるのか、呼吸は鼻でするのか口でするのか、言ってみい」
「くっ……! 卑怯だぞ! そんなの、人によってやり方は変わるじゃないか!」
「ならお主独自のキスを実践してもらおうか。こう見えて儂も年齢通りの経験をしておるからの、千五百年もののキスが味わえるぞ」
「それは何か古そうでやだな」
スケールが遺跡レベルなんだよ。
古いことに価値があるワインだって、さすがに千年を越えたら敬遠されるだろう。
「まあ、大人のキスは冗談として……お主、恋愛経験はあるのか? 十八歳といえば、周りの友達は孫くらいおるじゃろ」
「長生きし過ぎて二桁の計算ガバガバになってんじゃねえか。ホラーだろ、十八で孫がいたら」
「あ、そもそも友達がおらんか。これは痛いところをついてしまって申し訳ない」
「気を遣うことで相手を傷つけるっていう、対話で一番嫌われるテクニックを使うな。いるよ、友達くらい。僕をどれだけ寂しい奴だと思ってるんだ」
「何人じゃ? 友達」
「え? えっと……」
ベスは仲間だからカウントしていいとして……村にいた頃のパーティーメンバーの三人とは、何だかんだ話してたから数に入れていいだろう……シリーは、ちょっと微妙だけど昔遊んだことがあるから半分くらいは友達のはず……。
「四・五人だ!」
「……お主、人間を少数で数えるのか? 割とドン引きなんじゃが。それに数も少な過ぎて重ねて引いたぞ」
千五百年生きているエルフに二度もドン引かれた。
心外だ。
「そんなに言うなら、ベスはどうなんだよ。友達、何人いるんだ?」
「現在進行形ではお主しかおらんよ。みな死んでおる」
「……」
「その、露骨に地雷ふんじゃったーみたいな顔をやめい。友が死ぬことなど、とっくの昔に慣れたわ……それに、エルフの友であればまだ生きている可能性はあるしの。どこにおるかは知らんが」
友が死ぬことに慣れる……か。
できれば、自分が死ぬまで味わいたくない感覚だ。
「死んだ者たちをカウントしてよいとしても、正直忘れてしまったの。今でも確実に覚えている者だけに限れば……十人か。他は記憶もおぼろげじゃ」
「そっか……」
その十人は、ベスの人生に大きな影響を与えた十人なんだろう。
僕は千年後、その一人になれているだろうか。
「……そうこうしている内に、デーモン種がきそうじゃな。まだやれるか?」
「ああ。もちろんだぜ」
僕は剣を構え直す。
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