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第一部
改めて初仕事 001
しおりを挟むベスをカイさんに紹介した二週間後。
彼女は、晴れて特別公務メンバーとして僕とパーティーを組むことを許可された。
ちなみに、ベスの採用試験の結果が出るまでの間、僕はジンダイさんとエジルさんの二人と未踏ダンジョンの探索をしていたが……その時の話はしたくない。
酒と暴力にまみれた二週間だった、とだけ言っておこう。
まあ、期せずして彼らと親しくなれたのだけは、よかったのかもしれない。
「モンスターを倒しても素材を回収してはならんじゃと? しかも魔石まで見逃せというのか⁉ 自由にやらせろ暴れさせろ!」
そんなこんなで、ベスと二人、初めての探索に赴くことになったのだが……この調子で、朝から文句ばかりだ。
自由奔放に暮らしていたであろう彼女にとって、規則に縛られながらの行動は辛いものがあるらしい。
「公務員ってのはそういうもんなんだよ、諦めろ」
「一つ提案なんじゃが、今からでも役人を辞めてどこかのギルドに入らんか? ほれ、ジンダイのところなんかがあるじゃろ」
「それについては話しただろ。僕は公務員のままでなきゃ、ダンジョンには潜らない」
冒険はするが、しかし公務員の立場は失いたくない。
それが、僕が再びダンジョンを潜るために自分の中にした線引きだった。
僕に興味を持ってくれたベスの期待には応えつつ、安定した暮らしも送ることができる……二つの考えを折衷した形だ。
だからもし、あの場でカイさんを説得できなければ、僕はベスと一緒にいなかったかもしれない。一緒にいるためには、安定を捨ててギルドに入るしかないが……どちらにしても、何かを諦める必要があった。
できれば両方、手放したくない。
「欲張りな奴じゃのう……じゃが結局、安定を手にした上で冒険もできるのじゃから、お主の思惑通りと言ったところか」
「本当に思惑通りになるかは、しばらくしないとわからないけどな……魂に見合う野心ってやつが見つかるかもわからないし」
「まあ本来、能動的に探すようなもんでもないからの。じゃが、何もしないでいるよりはマシじゃろうて。儂もお主を焚きつけた手前、しばらくは協力してやってもいい……具体的には三百年くらい」
「僕、人生何回やり直せばいいんだよ」
三百年はさすがに無理だけれど。
せっかくなら……僕の野心が見つかるまで一緒にいてほしいと思ってしまうのも、欲張りなのだろうか。
「……そう言えば、ベスにはその野心ってやつがあるのか?」
「儂か? そうじゃのぉ……昔はあったかもしれんが、忘れてしまったわい」
「……」
「今は、ただ全力で生を楽しみたい気持ちしかないの。そういう意味では、野心とは程遠い刹那的な快楽しか求めておらんのかもしれんが……まあ二百年も封印されておったし? 小休止みたいなもんじゃ」
大事なものを忘れるのが怖いと、ベスは言っていた。
どれだけ大切に思っていても、千年後には忘れるかもしれない恐怖……人間の僕には、それを理解することはできないけれど。
「儂らはまだ、互いに話していないことが山盛りてんこ盛りじゃ……ダンジョンに潜っている時にでも、語り合うとしよう。今日からは正式に、背中を預け合う仲間同士なんじゃからの」
「……そうだな。チーム裏切られた者同士ってやつだな」
「ふむ。であるならば、より互いを信じあえるじゃろ」
僕たちは、今日探索予定のダンジョンの入り口に辿り着く。
ソリアの市街地から二時間弱……昨日発生したばかりの、出来立てほやほやのダンジョンだ。
「さて、では早速潜るとするか。記念すべき儂の初仕事じゃ、いっちょ気合入れるかの!」
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