公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ

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第一部

異動願い

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 探索にいった未踏ダンジョンは、喰魔じきまのダンジョンという特殊なものでした。

 そんな報告を上司に、しかも組織のトップにしなければならない僕の気持ちを、十文字以内で答えよ。


「はあ? 何を言っているんだい、君は。喰魔のダンジョンだって?」


 正解は、「今すぐ帰りたい」だ。

 初仕事を終えた翌日、僕は役所へと出勤して報告書をまとめ、カイさんに提出した……三人いるという部署の先輩たちは探索先から戻っておらず、またしても僕一人だけの出勤である。


「冒険者の魔力に応じて出現モンスターの強さや数が変わる特殊なダンジョン……らしいです」


「らしいって、誰に聞いたんだね」


「まあその、いろいろと伝手にあたりまして」


 正確には千五百年以上生きているエルフに聞いたのだけれど……ベスは正式なパーティーメンバーではないため、彼女と一緒にダンジョンに潜ったことを明かすわけにはいかないのだ。


「まあ、『天使の涙エンジェルラック』の勇者パーティーも壊滅寸前になったようだし、確かに一筋縄ではいかないダンジョンのようだが……それにしても、喰魔か。まさか、あれがうちの管轄に生成されるとはね」


「……ご存じなんですか? あのダンジョンのことを」


「これでも私は、エール王国で三番目に栄えている都市のトップだからね……知識としては知っていたよ。まあほとんど噂半分と言うか、伝承みたいなものだがね」


「伝承……ですか」


「三百年以上前、世界各地に突然変異を遂げたダンジョンが出現したという伝承さ……公式な記録には残っていないが、しかしその存在を真っ向から否定はできない。なにせ、ダンジョンやダンジョンコアについて、詳しいことは何もわかっていないのだから」


 カイさんの言う通りだ。

 僕たち人類は、ダンジョンのことをほとんど理解していない。

 いつから存在したのか。
 何故そこに生まれるのか。

 新しいダンジョンは日々世界各地に誕生し、冒険者たちがそれを攻略する……当たり前のように回っているこの国のシステムだが、その根幹を誰一人として正確に把握できていないのが現状なのだ。


「だからこそ、喰魔などというクソみたいなダンジョンもなのだろう・・・・・全く、せめて王都やベザスの管轄にできてくれればよかったものを」


「……一応、もう一度探索に行った方がいいでしょうか? 三階層までしか潜れていないので、もしかしたら僕の勘違いかも……」


「駄目だ。もしそこが喰魔のダンジョンではなくとも、A級モンスターが一度に五十体以上も出現するとなれば、難易度はS級と同等か、それ以上だ。そんな場所に探索係を派遣するわけにはいかない」


「そしたら、あそこはS級判定にしてギルドに任せるということですか?」


「……いや、そのダンジョンはSS判定にする。私から王都に掛け合おう」


 SS級ダンジョン。

 攻略可能性一パーセント未満と言われているS級の更に上。

 事実上のと同義の難易度……この国には、他に二つのSS級ダンジョンが存在するが、喰魔のダンジョンは三つ目として名を連ねることになるようだ。


「初仕事の探索先がSS級とは……君の業運は大したものだね。あやかりたいよ」


「どう考えても不運側にメーター振り切ってますけどね……」


「何もないよりは振り切っている方がマシだろう……まあそんなことより、クロスくん」


 カイさんは報告書から目を上げ、僕の顔をまっすぐ見つめてくる。


「本当にご苦労様だった。勇者パーティーが完全壊滅しなかったのも、君の働きのお陰だ。感謝している」


「……公務員は、国民に奉仕するのが仕事ですから」


「だとしても、君が彼女たちの命を救ったのは事実だ。今回の功績は、充分に査定に反映させてもらうよ」


「はあ、それは素直にありがたいですね」


「……それでだ。かように、未踏ダンジョンの探索は危険に満ちた仕事ではあるが……嫌気が差してしまったりはしてないかな?」


「……ははっ」


 僕の口から乾いた笑いがこぼれる。

 難易度不明のダンジョンに潜る危険性。
 不測の事態ばかり起きる不確実性。

 安定を心から願う僕にとって、この仕事はあまりにも向いていない。


「すみません、カイさん。できれば、他の部署に異動させてもらえませんか?」


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