14 / 108
第一部
発見
しおりを挟む三階層目の地形も今までと同様、背の高い木々に覆われた森林だった。
この広大な森の中からシリーたちを探すなんて、僕一人なら不可能に近かっただろう。だが、こちらにはベスがいてくれる。
彼女の探知魔法があれば、かなり楽にシリーを探し出せるはずだ。
「そう言えば、お主はどうして一人で潜っておるのじゃ。一階層でドラゴン乗りとすれ違ったが、あいつらが今の仲間か?」
「あー、そういうわけじゃなくて……僕、公務員になったんだ。未踏ダンジョン探索係っていう仕事を任されて、他のギルドを監督しにきたって感じかな」
「未踏ダンジョン探索係ぃ? 聞き慣れん仕事じゃの」
「ダンジョンの危険度を判定して、難易度を決める仕事だよ。僕らが定めた難易度を基に、ギルドは攻略先を決めるんだ」
「ほー、回りくどい役割あるもんじゃの。探索などせず、最初から攻略してしまえばよいのに」
「それも一理あるけど……今回みたいにモンスターの強さが変則的なダンジョンとかは、しっかり情報を集めてから挑まないと危険だからな」
「その情報集めを、国に奉仕するお主らがやっている、と……少なくとも、二百年前にはそんなことをしてくれる役人はおらんかったの。冒険者と役人は、仲が悪かったものじゃわい」
昔を懐かしむでもなく、ベスは淡々と言った。
二百年前か……確かエール王国が興ったのがもう少し前だったから、彼女もこの国で冒険する時には役所に世話になったのだろうか。
そんな昔から、役所なんてものがあったのかは知らないけれど。
歴史に興味はないのだ。
「そしたらお主、もうダンジョンは攻略せんのか? その探索係とやらは情報集めが仕事なのじゃろ?」
「まあ、そうなるかな。元々、冒険者には向いてなかったみたいだし……それに僕にとって一番大事なのは、安定した生活だから」
冒険者なんていう職業は、安定とは真逆の位置にある。
意図せずダンジョンに直接関わる部署になってしまったが、できればデスクワークとかがしたいのだ。
「安定、の……裏切られた元仲間を助けにいくのが安定なら、この二百年で言葉の意味が変わってしまったらしい」
「……これはその、たまたまというか、成り行きというか」
「よいよい。人間とは矛盾を抱える生き物じゃからな。暴力を否定する輩が、人助けのために拳を振るうようなものじゃ……みなそれぞれの矛盾のバランスを取り、都合よく世界を見ているんじゃよ」
「……」
この見た目で含蓄のありそうなことを言うから、脳の不具合が起きてしまう。
十歳児らしく話すか外見を変えるかしてほしい。
「それで、お主の役職はなんなのじゃ? 腰の剣を見るに、前衛ではあるのだろう」
「……戦士だよ」
「戦士? 聞かぬ名じゃな……儂が封印されている間に、いろいろと変更があったようじゃの」
「役職とか前衛とかって考え方は、昔から共通なんだな。なんだか感慨深いぜ」
「そうか? 千五百年以上生きてきた儂がら言わせてもらえば、人間など昔も今も大して変わらん。そこに何の情緒もない」
「さいですか……」
「儂の役職の呼び名は、時代ごとにコロコロ変わっていったもんじゃが……封印される直前は、ダークサイドとか、そんなんじゃったかの? どうでもよくて忘れてしまったが」
「それ本当に役職か? 思いっきり人類の敵みたいな名前だけど」
現在で言うところの、闇魔術師ってとこか。
勇者と同じく高位の役職で、後衛における最大火力を誇るとかなんとか。
……勇者、ね。
一体、シリーたちは何階層まで潜っているのだろうか……探索が目的だから、さすがに五階層までで留まっていてほしいのだけれど……。
「……止まれ」
不意に、先を行くベスの動きが止まる。
彼女の横長の耳が、ぴくぴくと震えた。
「急にどうしたんだよ」
「聞こえんか。まあ人間なら仕方ないが……どうやらあっちの方で戦闘が起きているようじゃ」
「……全く聞こえない」
「今探知魔法の範囲を一方向に絞った……なるほど、お主の探している者どもは、この先におるぞ」
どうやら、無事にシリーたちを見つけてくれたようだ。
非常にありがたいが、しかし戦闘中というのが気にかかる。もし僕の時のようにA級モンスターの群れに囲まれていたら、いくら勇者パーティーと言えど危険だ。
「ありがとう、ベス。あいつらが戦ってるなら、早く合流しよう」
「……そうじゃな、急いだほうがいい」
探知を終えたらしいベスが、ゆっくりとこちらに振り向く。
その表情は、事態の深刻さを物語っていた。
「どうやら、あのパーティーは壊滅寸前のようじゃ」
0
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む
大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。
一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる