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第一部
違和感
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「おかしい」
二階層に下りてきてから、ベスはずっと腕を組んで不機嫌な顔をしている。
そしてしきりに、おかしいおかしいと呟いていた。
「……だから、一体何がおかしいんだよ」
「おかしいものはおかしいのじゃ。何かはわからん」
こんな風に要領を得ない会話を何度も繰り返す。
……ちなみに、彼女の見た目があまりに幼すぎるので(顔も身長も十歳児相応だ)、話す時はどうしてもタメ口になってしまう。千年以上生きている相手に失礼だとは思うが、しかし特段気にしている風でもないので、こちらも気にしないことにした。
「……なあ、あのダンジョンを出た後ふらふらしてたって言ってたけど、寝泊まりはどうしてたんだ? その見た目だと、気軽に宿にも泊まれないだろうし」
「普通に野宿じゃが……何じゃその質問。今訊くことか」
「いやその、何となく気になって……」
「気になっているのは他のことではないのか? 変に遠慮していると、いざ戦闘になった時もその気遣いの所為で正しい判断ができなくなるぞ」
彼女の言にも一理ある。
かと言って、正面切って質問しづらいこともあるわけで……。
「大方、どうして儂が封印されていたのかとか、そんなところじゃろ」
「……聞かせてくれるのか」
「えー、どーしよーかのー。誰にも言わないなら教えちゃおうかのー」
「好きな子を聞かれた思春期の女子か」
「儂も裏切られたのじゃ、仲間にな」
当たり前のようにさらっと、ベスは言った。
うっかり聞き逃してしまうそうな程あっさりしていたが、確かに。
裏切られたと、そう聞こえた。
「正直、二百年もの間封印されていたら、そこら辺の事情はどうでもよくなった。最初の数年は怒っていた気もするが、今となっては至極どうでもいい」
「そういうものなのか」
「そいうものじゃ……それを言ったら、絶賛裏切られたてほやほやのお主が怒っていない方が、儂からすれば不思議じゃよ」
「……まあ、全員共倒れするよりかは、僕一人を置き去りにするのはいい判断だったんじゃないか?」
「お主が進んで犠牲になったのなら美談じゃが、普通に醜聞じゃろ」
変わり者め、とベスは肩をすくめる。
「ま、かように面白い奴だから、こうして儂もついてきているわけじゃが。空腹の儂に魔力を与えてくれた恩もあるしの」
「あー、杖に魔力を流せってやつか……って言うか、その口ぶりだと魔力を食べてるみたいだけど、どういう意味だ?」
「? そのままの意味じゃ。儂らエルフは魔力を食べて生きる種族じゃからの……なんじゃ、そんなことも知らんのか」
「生憎、知り合いにエルフはいないんでね。それに……」
言葉を続けようとして、言い淀む。
エルフという種族が絶滅の危機に瀕していると……彼女に伝えるのは、あまりに酷だろう。
ベスの生きていた時代には、まだエルフたちは繫栄していたかもしれないし……少なくとも、僕の口から言うことじゃない。
「それに、どうした」
「……何でもないよ」
「何でもないというセリフを言った奴が、実際に何でもなかった場合の統計を出してほしいの。ゼロじゃろ」
そんな軽口を叩きながらも、彼女の顔は険しいままだ。
周囲を警戒している……だけではないような。
「……ふむ、そろそろつくぞ」
「つくって、どこに?」
「決まってるじゃろ、魔法陣じゃ。儂の探知魔法にかかれば、モンスターに見つからず陣を探すなど朝飯前よ」
ベスが言い終わるのと同時に、目の前に魔法陣が現れた……マジか。
探知魔法の精度が高過ぎる……中位役職の冒険者が数十人集まって、やっとできるくらいの芸当だろ。
それに加えて、ドラゴンやアンデッドナイトを退けた攻撃魔法もある。
彼女の実力は、一体どれ程のものなのか……僕如き弱者では、見当すらつかない。
「んー、このダンジョンの変な感じの謎は解けぬままじゃが、まあ攻略するわけでもないし気にせんでいいか。いこいこー」
「ノリ軽っ」
僕らはシリーたちを探し、三階層目へと下る。
二階層に下りてきてから、ベスはずっと腕を組んで不機嫌な顔をしている。
そしてしきりに、おかしいおかしいと呟いていた。
「……だから、一体何がおかしいんだよ」
「おかしいものはおかしいのじゃ。何かはわからん」
こんな風に要領を得ない会話を何度も繰り返す。
……ちなみに、彼女の見た目があまりに幼すぎるので(顔も身長も十歳児相応だ)、話す時はどうしてもタメ口になってしまう。千年以上生きている相手に失礼だとは思うが、しかし特段気にしている風でもないので、こちらも気にしないことにした。
「……なあ、あのダンジョンを出た後ふらふらしてたって言ってたけど、寝泊まりはどうしてたんだ? その見た目だと、気軽に宿にも泊まれないだろうし」
「普通に野宿じゃが……何じゃその質問。今訊くことか」
「いやその、何となく気になって……」
「気になっているのは他のことではないのか? 変に遠慮していると、いざ戦闘になった時もその気遣いの所為で正しい判断ができなくなるぞ」
彼女の言にも一理ある。
かと言って、正面切って質問しづらいこともあるわけで……。
「大方、どうして儂が封印されていたのかとか、そんなところじゃろ」
「……聞かせてくれるのか」
「えー、どーしよーかのー。誰にも言わないなら教えちゃおうかのー」
「好きな子を聞かれた思春期の女子か」
「儂も裏切られたのじゃ、仲間にな」
当たり前のようにさらっと、ベスは言った。
うっかり聞き逃してしまうそうな程あっさりしていたが、確かに。
裏切られたと、そう聞こえた。
「正直、二百年もの間封印されていたら、そこら辺の事情はどうでもよくなった。最初の数年は怒っていた気もするが、今となっては至極どうでもいい」
「そういうものなのか」
「そいうものじゃ……それを言ったら、絶賛裏切られたてほやほやのお主が怒っていない方が、儂からすれば不思議じゃよ」
「……まあ、全員共倒れするよりかは、僕一人を置き去りにするのはいい判断だったんじゃないか?」
「お主が進んで犠牲になったのなら美談じゃが、普通に醜聞じゃろ」
変わり者め、とベスは肩をすくめる。
「ま、かように面白い奴だから、こうして儂もついてきているわけじゃが。空腹の儂に魔力を与えてくれた恩もあるしの」
「あー、杖に魔力を流せってやつか……って言うか、その口ぶりだと魔力を食べてるみたいだけど、どういう意味だ?」
「? そのままの意味じゃ。儂らエルフは魔力を食べて生きる種族じゃからの……なんじゃ、そんなことも知らんのか」
「生憎、知り合いにエルフはいないんでね。それに……」
言葉を続けようとして、言い淀む。
エルフという種族が絶滅の危機に瀕していると……彼女に伝えるのは、あまりに酷だろう。
ベスの生きていた時代には、まだエルフたちは繫栄していたかもしれないし……少なくとも、僕の口から言うことじゃない。
「それに、どうした」
「……何でもないよ」
「何でもないというセリフを言った奴が、実際に何でもなかった場合の統計を出してほしいの。ゼロじゃろ」
そんな軽口を叩きながらも、彼女の顔は険しいままだ。
周囲を警戒している……だけではないような。
「……ふむ、そろそろつくぞ」
「つくって、どこに?」
「決まってるじゃろ、魔法陣じゃ。儂の探知魔法にかかれば、モンスターに見つからず陣を探すなど朝飯前よ」
ベスが言い終わるのと同時に、目の前に魔法陣が現れた……マジか。
探知魔法の精度が高過ぎる……中位役職の冒険者が数十人集まって、やっとできるくらいの芸当だろ。
それに加えて、ドラゴンやアンデッドナイトを退けた攻撃魔法もある。
彼女の実力は、一体どれ程のものなのか……僕如き弱者では、見当すらつかない。
「んー、このダンジョンの変な感じの謎は解けぬままじゃが、まあ攻略するわけでもないし気にせんでいいか。いこいこー」
「ノリ軽っ」
僕らはシリーたちを探し、三階層目へと下る。
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