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第一部

異変

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 ダンジョン内に生成される空間は、基本的に森林や草原である。
 砂漠だったり山岳だったりすることもあるが……やはりオーソドックスなのは森だ。

 このダンジョンの一層目から二十九層目も、例に漏れず緑豊かな土地だった。

 ちなみに、階層の移動はあらかじめ設置してある魔法陣によって行われる。前の階層へ戻るためのものと、次の階層に下りるためのもの……計二つの魔法陣が、各エリアのどこかに用意されているのだ。

 そして、最下層へと通じる魔法陣は特別な魔力を持っている。
 先刻僕たちはその陣を踏み――ダンジョン最深部へと辿り着いた。


「……つきましたね」


 黒魔術師のレイナが、満足げに辺りを見回す。

 今までの階層とは違い、ここ三十階は薄暗い洞窟のようだ……周囲には怪しく光る魔石がちらほら落ちているだけで、他には何もない。

 ポカンと大きく開いた空洞が、僕たちを飲み込んだ。


「予定通りですわね、シリー様」


 白魔術師のメリルが、にこやかな笑顔で勇者に話しかける。


「ええ、あなたたちのお陰よ。それじゃあ最後に、一仕事しましょうか」


 そう答えるシリーの表情も涼しげだ。

 この場で満身創痍なのは、一週間モンスターの攻撃を受け続けていた僕だけだった。


「何寝ぼけた顔してるんですか、このグズ! さっさと前衛にいきなさい!」


「私たちを守るのが役目でしょうに、ボーっとしてるんじゃありませんわ!」


「……はい、了解」


 メリルとレイナの冷罵を受け、僕は剣を構えた。

 恐らく、洞窟の奥から最後のモンスターが出てくるはずだ。そいつを討伐すれば、見事ダンジョンクリア……コアが現れ、後はそれを封印する魔法をかけるだけで済む。

 B級ダンジョンの最終戦だ、相手はB級のゴブリン種か、それともスライム種か……。



 バキッ



 不意に――天井から音がした。


「――! みんな退け!」


 シリーの号令に合わせ、全員が四方に散開する。

 直後。

 洞窟の天井を突き破り――一匹のモンスターが現れた。


「……馬鹿な……こいつは……」


 B級ダンジョンの最深部にいたのは。

 その存在を災害と恐れられる――S

 ドラゴンだった。


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