1 / 108
第一部
旅立ち 001
しおりを挟む
幼馴染が勇者になって帰ってきた。
そんな抜かす腰が行方不明になるくらいのビッグニュースが僕の耳に届いたのは、今から一時間前のことである。
シリー・ハート。
僕ことクロス・レーバンの唯一の幼馴染であり。
寂れた故郷の村を飛び出して、王都ランダルを目指して旅に出た少女。
冒険心と野心に溢れた僕の幼馴染が、六年越しに帰郷してきたらしい。
勇者になって。
「久しぶり、クロス」
ぼろ屋の戸を勢いよく開け放ったシリーは、仰々しい白銀の鎧を身に纏い、昔と変わらない意地の悪い緋色の目を輝かせて言った。
「私のパーティーに入りなさい。あんたみたいな陰気な奴でも、少しは役に立つでしょ」
そう――昔から。
シリーは僕のことが嫌いで。
僕も彼女のことを、そんなに好きじゃなかった。
◇
勇者パーティーの一員になって三カ月が経った。
これまでにC級ダンジョンを三つ攻略してきたけれど、恥ずかしい話、僕はほとんど毎回死にかけている。
戦ったモンスターはD級やC級ばかりなのに、こうも遅れを取るなんて……自分事ながら情けない。
パーティーに前衛職が僕一人しかいないというのも関係しているのだろうが、そんな言い訳を聞き入れてくれる程、仲間たちは甘くなかった。
幼馴染の勇者――シリー・ハート。
白魔術師――メリル・ウィッド。
黒魔術師――レイナ・ショーン。
爆撃師――アンガス・ルデラ。
戦闘で目立った活躍をしない僕を、彼女たちは笑い者にする。
……愚痴っぽくなってしまったけれど、それを誰かに漏らしてはいない。
最低限生きるのに困らないだけの給金は貰っているし、変に波風を立てるよりも、大人しくこの環境に身を置こうと決めたのだ。
そんな事なかれ主義な僕を見て――シリーは言う。
「昔からそうよね、クロスって。まあ、いいけど」
その言葉が胸をチクリと刺す。
やっぱり、彼女は僕のことが嫌いで。
僕も彼女が嫌いなのだろう。
そんな抜かす腰が行方不明になるくらいのビッグニュースが僕の耳に届いたのは、今から一時間前のことである。
シリー・ハート。
僕ことクロス・レーバンの唯一の幼馴染であり。
寂れた故郷の村を飛び出して、王都ランダルを目指して旅に出た少女。
冒険心と野心に溢れた僕の幼馴染が、六年越しに帰郷してきたらしい。
勇者になって。
「久しぶり、クロス」
ぼろ屋の戸を勢いよく開け放ったシリーは、仰々しい白銀の鎧を身に纏い、昔と変わらない意地の悪い緋色の目を輝かせて言った。
「私のパーティーに入りなさい。あんたみたいな陰気な奴でも、少しは役に立つでしょ」
そう――昔から。
シリーは僕のことが嫌いで。
僕も彼女のことを、そんなに好きじゃなかった。
◇
勇者パーティーの一員になって三カ月が経った。
これまでにC級ダンジョンを三つ攻略してきたけれど、恥ずかしい話、僕はほとんど毎回死にかけている。
戦ったモンスターはD級やC級ばかりなのに、こうも遅れを取るなんて……自分事ながら情けない。
パーティーに前衛職が僕一人しかいないというのも関係しているのだろうが、そんな言い訳を聞き入れてくれる程、仲間たちは甘くなかった。
幼馴染の勇者――シリー・ハート。
白魔術師――メリル・ウィッド。
黒魔術師――レイナ・ショーン。
爆撃師――アンガス・ルデラ。
戦闘で目立った活躍をしない僕を、彼女たちは笑い者にする。
……愚痴っぽくなってしまったけれど、それを誰かに漏らしてはいない。
最低限生きるのに困らないだけの給金は貰っているし、変に波風を立てるよりも、大人しくこの環境に身を置こうと決めたのだ。
そんな事なかれ主義な僕を見て――シリーは言う。
「昔からそうよね、クロスって。まあ、いいけど」
その言葉が胸をチクリと刺す。
やっぱり、彼女は僕のことが嫌いで。
僕も彼女が嫌いなのだろう。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる