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星降る夜に
しおりを挟む「【星夜の導き】」
エイムは魔法を発動する。
彼の身体が光に包まれ、拡散する。
縦横無尽に周囲を飛び回る光を目で追うことはできない……エイムの高速移動を捉えるのは、レグの身体能力をもってしても不可能だった。
「ふー」
だが、彼は落ち着いて息を整え――目を閉じた。
見えないなら、いっそ見ない。
「【緋炎の剛腕】‼」
先刻、マックスの【日輪空破】を取り込むことで習得した魔法。絶対の死地に追いやられレグは、その魔法を自分の物にしていた。
彼の拳が地面を穿ち、そこを中心として緋色の炎が弾け飛ぶ。
炎は、空中を飛び回るエイムの光を飲み込んだ。
「面白い!」
敵が速過ぎて見えないのであれば、見えなくても当てられる攻撃をすればいい……単純ながら明快な答えを受け、エイムはニヤッと笑う。
「【星夜の輝き】」
彼は自分の眼前に波のように迫った炎を、黄金の光で貫いた。
開けた空間をつっきり、レグに向けて同じ魔法を放つ。
「はあっ!」
その攻撃に対し、レグは炎の壁を作って対抗する。
光と炎がぶつかり合い、互いを消し去った。
「やるね! 俺の【星夜の輝き】を打ち消すとは」
エイムは再び光を纏い、上空に拡散していく。
「ぴゅんぴゅんぴゅんぴゅん飛んでないで、正々堂々殴りにこいよ」
レグは拳を構え、頭上に突き出した。
網のように広がる炎が空中に放たれ、エイムの軌道を補足する。
「炎の形も自由自在か。君程の実力者が落第組にいるとは、面白い!」
周りを業火に囲まれたエイムは、左手に魔力を込め――一気に爆発させた。
それは、シルバを瀕死の状態に追い込んだ魔法……光速で撃ち出された魔素が空間を歪める、破壊の光。
「【星夜の七天】」
目を焼くような輝き――直後、地上にいるレグに向かって光が降り注ぐ。
「【緋炎の剛腕】‼」
その魔力に臆することなく、レグは拳を振り抜いた。
爆散する緋色の炎が、破壊の光を相殺する。
「……あれは、一体どういう魔具なんですか……」
二人の戦闘に巻き込まれないように離れた位置に移動していたリツカは、レグの繰り出す魔法に驚きを隠せないでいた。
――マックスさんの上位合体魔法を吹き飛ばし、エイム様の攻撃と互角の炎を出し続けるなんて……通常の魔具なら、とっくに魔素切れを起こしているはず……。
リツカの疑問は当然だった。たかが手首に嵌めた腕輪一つで、エイム・フィールと対等な勝負をするなど不可能だ……誰もがそう思うはずである。
だが、レグの右手首に刻まれた紋章が、不可能を可能にしていた。
無尽蔵に生み出される呪いの魔素……レグの命を蝕む元凶が、今は最強の力となっている。
「……どうやら、君の強さを認めなければならないようだ」
言いながら、エイムは地上に降り立つ。
そして――全身に魔力を集める。
「君の力に敬意を表し、俺も久々に本気を出させてもらうよ」
「御託はいいから、何かするならさっさと始めてくれ」
「それもそうだな。さっさと終わらせよう」
ビキッと。
二人の立つ地面に、亀裂が入る。
「今から発動するのは、俺の中で最大威力の魔法だ。これを受け切ることができれば……」
「悪いけど、そんな強い魔法を受けるつもりなんてない」
エイムの言葉が終わるのを待たず、レグは懐に突っ込み――炎を纏った拳を叩きつける。
が、その拳は鳩尾を貫通し、エイムの体は光となって霧散した。
「っ!」
「駄目だね、君には俺の魔法を受けてもらう。そして見せてくれ、どこまで俺についてこられるのかを!」
いつの間にか分身と入れ替わっていたエイムは――遥か上空から。
魔法を、発動する。
「【星降る夜に】!」
新たな恒星が生まれたかのような輝きの後。
レグに向かって、黄金の光が放たれる。
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