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それが僕の

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「【継ぎ接ぎフランケン】‼」
 
 大量のコアをばら撒いたテスラは、新たなスキルを発動する。
 緑色の光が彼とコアを包み込み、弾けた。

「なっ……」

 光の中から出てきたのは、異形の怪物。
 その種族を敢えて限定するなら、人間に近いと言えるだろう。
 だが、その有り様は異常だった。
 右腕はドラゴンの頭部。
 左腕はイエティの剛腕。
 上半身は鱗で覆われ。
 下半身は膨張した大腿筋に支えられている。
 背中にはワイバーンの翼を生やし。
 頭からは、二対の双角が伸びていた。

「かははははっ‼ この姿になるのは久しぶりだぜ‼」

 異形の口からテスラの声がする。
 疑いようもなく、あの怪物はテスラ自身。

「【継ぎ接ぎ】は、魔物のコアと人間の肉体を融合させるスキル……取り込んだ魔物の外見的特徴と能力を引き継ぎ、自在に扱うことができるのさ。こんな風にな!」

 ドラゴンの頭部へと変貌した右腕が赤色に輝き、

「【デストロイブレス】‼」

 直後、巨大な火球が撃ち出された。

「お二人とも下がって! 【腐った白薔薇メルヘンフラワー】!」

 いち早く反応したレヴィが前に躍り出て、スキルを使う。
 蒼い波動が火球と衝突し、互いに打ち消し合った。

「やるじゃねえか、チビ! ならこっちはどうだ!」

 テスラは空へと飛び立ち、空中で翼を振るう。

「【ブラックニードル】!」

 無数の黒い棘が射出され、雨のように地上へ降ってきた。
 レヴィの防御スキルが防げるのは変質系のスキルのみ……あの棘は操作系か?
 このままじゃ全員串刺しに――

「【墓荒らしトゥームレイダー】!」

 地面が割れる。
 レヴィが地中を掘削し、瞬間的に防空壕を作り上げてくれたのだ。
 斜めにくり抜かれた洞窟が、僕らを棘の雨から守る。

「かははっ! 器用な奴だ! お前も中々面白い!」

 滞空しながら棘を放ち続けるテスラ。
 金属のように硬質化した棘が地面にぶつかり、絶え間なく騒音を出し続けた。

「何か作戦ある人‼」
「潜るだけで精一杯です‼」
「イチカは‼ このままじゃジリ貧よ‼」
「今考えてるよ‼」

 穴の中で叫びながら、現状の打開策を練る。
 ……さっきも使った手だが、これしかない。

「レヴィ‼ 僕を掴んで移動してくれ‼ テスラの不意を突く‼」
「でもイチカさん‼ 私があなたを掴めば、その瞬間から腐敗が進行します‼ 不死身のスキルを相当使っていますし、マナ切れを起こすかも……」
「わかってる‼ けどやるんだ‼」

 今日だけでかなり【不死の王ナイトウォーカー】を使っている。
 レベル1の僕に残されたマナは、もう残り少ないだろう。

「頼む、レヴィ‼」
「……わかりました‼ 【墓荒らし】‼」

 レヴィは僕の手を取り、真横に穴を掘り進める。
 地中での高速移動と【彼岸の穢れゾンビフラワー】による腐食が僕を傷つけ、【不死の王】の代償による激痛が全身を蝕む。

「――――っ」

 こんな痛みは、最早痛みの内に入らない。
 この程度の苦痛では、僕を止めることはできない。
 ミアの負った傷に比べれば。
 彼女の涙に比べれば。

 こんなもの――痛みと呼んでいいはずがない。

 ミアはレベル1の僕と仲間になってくれた。
 友達だと言ってくれた。
 僕も、そう思いたい。

 一度目の人生で手に入れられなかった、本当の友達に。
 この世界で、出会うことができたんだ。
 その友達が傷つけられたなら。

 僕は。
 イチカ・シリルは。

 全身全霊を込めて、助けになろう。
 そういう友達想いな人間になろう。
 友情が大切だと声高に叫ぼう。
 友人を大事にすると胸に誓おう。

 恥ずかしくなんてない。
 綺麗事だとも思わない。

 だって。


 それが僕の、生き方だから。


 好き勝手に生きる、僕の人生だから。

「テスラァーーーー‼」

 レヴィの助けを借りて地上へ勢いよく飛び出した僕は、空に浮かんでいるテスラへ狙いを定める。
 不意を突いた僕の出現は、テスラの反応を一瞬遅らせた。
 そして。
 その瞬間さえあれば、充分だ。

「【神様のサイコロトリックオアトリート】‼」

 高名な物理学者曰く、神様はサイコロを振らないという。
 全ての事象には法則があり。
 偶然さえも、ある種の必然性を帯びていると。
 故に神は、サイコロを振らない。
 確率に頼らない。
 偶然を信じない。
 だから。
 僕らが勝つのも、偶然なんかじゃない。

「っ‼ クソが‼」

 【神様のサイコロ】の光を浴びたテスラは僕を睨みつけ、それから大量の棘を撃ち込んでくる。

「ぐ――」

 眼球を貫かれたり心臓を射貫かれたり、そりゃあもう見るに堪えないグロテスク加減で全身ボロボロにされたが、気にしない。
 勝負は、ついたのだから。

「ちくしょうが……【スタート】」

 僕のスキルがステータスに関係するものだと考えていたテスラは、当然自身の状態を確認する。

「……生命力が、1だと?」

 そこで初めて。
 今まで飄々としていた彼の態度が、崩れた。

「こりゃいくら何でも馬鹿げてるだろ、にーちゃん。たかが一回スキルを発動しただけで、生命力を1にするだって? この俺をしても笑えねえ冗談だ」
「そいつは傑作だな。僕の方が笑っちまいそうだよ」
「……いい気になるなよ。例え生命力が1になっても、お前らの攻撃が俺にダメージを与えることはねえ。【継ぎ接ぎ】は元になった魔物のステータスの一部も引き継げるからな、今の俺の防御力は無敵に近いぜ」
「そっか……説明ありがと」

 僕は四肢を投げ出し、だらんと空を見上げる。

 後は頼んだぜ、友達。


「【ファイアストーム】‼」


 炎が舞う。
 ミアの持つスキル【乙女の一撃】は、自分が与えるダメージを1にしてしまうマイナススキル。
 それは冒険者にとって致命的な最悪の力だ。
 だが。
 僕と一緒なら、その力は最強の矛になる。
 そういう、設定なのだ。

「がああああああああああああああああ⁉」

 炎に包まれたテスラが断末魔を上げる。
 唯一残ったなけなしの生命力が、0になる。

「この俺がああああああああ‼ お前ら如きにいいいいいいいい‼」

 悶える奴の身体から緑色の光が発された。
 数秒後。
 光の消失と共に、テスラが落下してくる。
 どうやら【継ぎ接ぎ】の融合状態が解除されたらしい……地面に伏すテスラの周りに、大量のコアが散らばった。
 辺りに、静寂が訪れる。

「……終わったんですね」

 地面からひょっこり顔を出したレヴィが、そう呟いた。

「……ああ、終わったんだ」

 街を襲った張本人を倒して。
 ミアの親父さんの仇である「グール」のメンバーを倒して。
 終わったのだ。
 でも、同時に。
 これから何かが始まるような、不思議な高揚感があった。
 その正体がわかるのは、まだ先のことかもしれないけれど。
 とりあえず今は、ビールでも飲みたい所存である。

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