41 / 60
作戦終了 002
しおりを挟む僕らは一日中ドット山に籠り、請けていた依頼全てを達成した。
報酬金の総額は七0万E程……予定していた百万には届かなかったけれど、一日で稼ぐにしてはまずまずな額である。
ただ、ブラックマーケットでいくら必要になるかわからない以上、無駄金を使うわけにはいかない……というわけで、僕らは宿を取らずに野宿をすることにした。
麓近くまで下山し、安全な場所でのキャンプである。
「あとは無事にクイーンズまで帰るだけですね」
焚火の灯りに照らされながら呟くレヴィ。
時刻は0時を越した辺りで、そろそろ眠りにつくべき頃合いである。
「結構疲れたわね~。ゆっくりお風呂に浸かりたいけど、明日まで我慢かぁ」
ミアは両足をだらんと投げ出し、横たわる丸太の上にだらしなく座っている。
「ブラックマーケットで買い物が終われば、あとは自由にお金を使っていいんでしょ? 安く済めばその分手持ちも増えるし、ウハウハね」
「まあ、残った金額でどれだけ豪遊できるかわからないけどな」
「足りない分は稼げばいいのよ。酒池肉林のためには苦労を惜しまないわ」
「……あんまりその四字熟語使わない方がいいよ」
ミアの見た目とのギャップが激しい。
金持ちのおっさんにこそ似合う言葉である。
「イチカだって夜の街で遊びたいでしょ? それなりにお金がかかるわよ~」
「僕は健全な男子だから興味ないな」
「やけに早口で否定するじゃない。素直じゃない男はモテないわよ」
「訂正します。少しは興味がある」
「アドバイスを即実行し過ぎでしょ」
「いやほら、冒険には息抜きも必要だし、そういう意味で夜の遊びに興味があるだけであって、平常時のパフォーマンス向上のためというか、ほんとそれ以外の邪な考えなんて微塵もないんだけどな」
「言うに事欠き墓穴を掘るって感じね」
呆れ顔で肩をすくめるミア。
「イチカさんのことを責めないであげてください、ミアさん。彼は末期なんです、人生の」
「誰が末期だ。僕の人生はこれからだぞ」
「もう頑張らなくていいんですよ」
「無条件の優しさを発揮するな。僕は今日死ぬのか?」
「そう、あなたは今から……ふぁ~」
「眠気に負けてんじゃねえ。自分から始めたんだから一くだり終わらせろ」
僕の文句に聞く耳も持たず、レヴィはむにゃむにゃと船を漕ぎ出した。
「……なんだかんだ言って、まだ子どもよね」
ミアが優しい声色で呟く。
「レヴィを見てると、昔の自分を思い出すの」
「そうなのか? どこか似てる部分があるとか?」
「顔が可愛いところ」
「謙遜って言葉の意味を辞書で引いてこい」
自信満々ギャルが。
まあ実際、可愛くはあるけども。
「人に触れないって、寂しいわよね」
「……そうだな。だから、僕らが何とかしてやらないと」
当座の目標は、レヴィの常時発動型スキルを封じるアイテムを購入すること。
これから一緒に旅をしていくうえで必要不可欠な品である。
「明日になれば何とかできてるはず……まあその前に、解決しなきゃいけない問題もあるけど、些細なことよ」
「ちょっと待って。え、まだ何か問題があるの? 初耳だぞ」
ミアがサラッと口にした言葉を、しかしサラッと受け流せなかった。
「問題って言うか、懸念点? みたいな?」
「みたいでも何でもいいから、とにかく説明してくれ」
「えっとね……ブラックマーケットは誰でも入れるわけじゃないのよ。やってることがやってることだし、当然よね」
合法から違法まで、ありとあらゆる品々が出回る市場である以上、入場制限があるのは確かに当然か。
……ん?
「なあ、ミア」
「何、イチカ」
「僕らは入れるってことでいいんだよな?」
「それがちょーっと微妙なのよねー」
あっけらかんとした顔で、とんでもねえことを言いやがった。
「ブラックマーケットへの入場には、会員証が必要なのよ。どこで発行されているのかもどう入手するのかも不明な、それ自体がレアアイテムみたなやつがね」
「不明って……じゃあどうするんだよ。きちんと大きな問題点じゃないか。それとも、会員証を手に入れる当てでもあるのか?」
「そんな当てはない……けど、多分、何とかなるわ」
「その謎の自信はどこから沸いてくるんだ」
自信満々でポジティヴ思考というのは大切だが、問題から目を逸らす言い訳に使い始めたらお終いである。
だが、僕の心配を余所に、ミアはあくまで余裕の表情を崩さない。
「大丈夫大丈夫! 八割五分くらいの確率で上手くいくから……もしダメだったら、その時考えましょ! ってことで、私は寝る! おやすみ!」
言って、ミアは会話をシャットアウトするが如く寝袋に入っていった。
「……」
本当に大丈夫なんですかね、ミアさん。
23
お気に入りに追加
827
あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる