39 / 60
楽しいお仕事 004
しおりを挟む目的の魔物――白狼を模したフェンリルと相対すること、数秒。
突如、巨体が飛び上がった。
「ガウガウガアアアアアアッ‼」
「くっ!」
間一髪で鋭利な爪を躱す。
こちとら、レベル1なりに七年間魔物と戦ってきたのだ……あんまり無様を晒すわけにはいかない。
「……ってええ‼」
とは思いつつも、やはりDランクの魔物は手強かった。
完全に躱したはずの牙が左の太腿に突き刺さり、豆腐でも崩すかのようにズルッと肉を持っていかれる。
大量出血と、骨が砕かれる悪寒。
が――再生。
ともすれば意識を無くしてしまいそうな苦痛が全身を軋ませるが、何とか踏ん張る。
「やっぱ、乱用はできないみたいだな、これ……」
【不死の王】……強力無比な再生力を持つ代わりに、代償の痛みがでか過ぎる。
これでも我慢強い方だけれど、そう何度も耐えられるわけじゃなさそうだ。
それに……いや、そっちは考えない方がいい。
とにかく、目の前の敵に集中するんだ。
「早く出てこい、残りの奴……こいつだけじゃ、僕を仕留められないぞ」
若い狼とのにらみ合いが続く。
それなりの知能を有しているだけあって、目の前の人間が普通でないと気づいたのだろう……攻撃を止め、僕を観察するように唸り声を上げている。
数秒の沈黙。
「……――っ⁉」
行われる、完全な不意打ち。
僕の背後から、一頭のフェンリルが飛びついてきたのだ。
気配も何もあったもんじゃない……恐らく、何かしらのスキルを使っていたのだろう。
僕は為す術なく押し倒され――頸動脈。
人体の急所を、噛みちぎられる。
そして。
それから。
順当に。
当然に。
頭蓋の中に――
――ゴリゴリという嫌な音が鳴り響いた。
「――――――――」
暗転。
激痛。
交錯。
歪み。
痛い、痛い、いた、い
「――はっ」
再生する。
否応なく、回復する。
「――くそっ!」
覆い被さるフェンリルから逃れるため、無理矢理身体を捻じる。
肩の肉が引き裂かれるが、何とか拘束から抜け出すことができた。
「……」
そしてその肩も、治る。
苦痛と引き換えに、全てがなかったことになる。
首を裂かれても、頭部を食われても、関係ない。
「……こりゃ、僕の方が魔物みたいだな」
シニカルな笑みが出てしまったが、そんな風に悲劇の主人公を気取っている場合ではない。
僕のやることは、変わらず囮。
ボスが出てくるまで、ひたすら耐えるんだ。
「……」
再び、にらみ合いが続く。
先兵の若狼が一頭、獲物を仕留める熟練した狼が三頭。
四頭とも、不死身の人間を前に警戒を強めているようだ。
こうして事態が硬直すれば、出てこざるを得ない。
どうした、部下はもう手一杯だぞ。
早く出てこい!
「グルルルルルルラアアアアアアアアッッッ‼」
大気を震わせる咆哮。
それがボスの雄叫びだと断定するのは、あまりに容易だった。
茂みの奥――地響きを鳴らしながら、巨大な狼が姿を現す。
他のフェンリルの三倍はあろうかという巨狼は、白銀の毛を悠々とたなびかせ、小癪な人間に睨みを利かせた。
「これぞまさに、ボスって感じだな」
そんな風に余裕ぶるのは、何も現状に絶望したからではない。
僕の役目が、終了したからだ。
「今だ、レヴィ‼」
こちらも大声を出す。
突然のことにフェンリルたちは警戒するが、もう遅い。
次の瞬間。
僕の足元の地面が、崩落する。
当然、周りにいたフェンリル諸共。
僕らは、深い大穴に落ちていく。
「これで終わりだ! 【神様のサイコロ】‼」
いくら俊敏な獣と言えど、不意を打たれた落下中にこちらの攻撃を躱すことは難しい。
僕は右手を構え、スキルを発動する。
そして、その光を合図に。
頭上から、最後の一撃が放たれる。
「【ファイアストーム】‼」
業火が狼を焼き尽くした。
もちろん、僕の身体ごと。
22
お気に入りに追加
827
あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる