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クイーンズ 001
しおりを挟むエール王国は五つの地方に分かれ、その地方がさらに数百の地域に分かれている。
五つの地方を治めるのは、「五王」と呼ばれる王族たち。
地域を治めるのは、いわゆる「領主」である。
例えば、僕らがいるフェスタ地方のトップに君臨しているのは王族のオルドア・エーラ、カザス地域の領主はクライリー家、といった感じだ。
もっとも、実際に各地の行政を担っているのは市長などの役人なので、僕ら下々の民が五王や領主と関わる機会は早々ないのだが……。
そんなこんなで。
僕とミアとレヴィの三人は、一カ月の旅を終えて目的地――クイーンズへと辿り着いたのだった。
「はー、ここがクイーンズですか。サリバよりも大きいですねぇ」
開口一番、レヴィがそんな感想を漏らす。
見た目はアルカやサリバのような煉瓦造りの街並みだが、一つ一つの建物や道幅がやたらとでかい……さすがは領主様の住まう街、といったところだろうか。
「それで、ブラックマーケットの開催日には間に合ってるんだよな?」
「もちのろん……って言うか、そんなことよりまずは宿を取りましょ。一にお風呂二にお風呂三にお風呂よ!」
約一カ月に及ぶ野宿旅を終えたことで、ミアは勝利のガッツポーズをする。
道中、宿場町に寄ることはあれど、決して清潔で素晴らしい宿とは言えなかったので、クイーンズでの滞在に胸が膨らんでいるのだろう。
「サリバで得た情報が正しければ、開催は三日後ね。ブラックマーケット自体は二週間執り行われるから、そのうちいずれかの日に潜り込めればモーマンタイよ」
「二週間か……そんなに長いこと同じ街で行われてて、軍にバレないもんなのかね」
「まあ、ほとんど黙認されてるようなもんだし。例えバレたとしても、あそこはやり方がやり方だから」
「ふうん?」
何か知っている口振りのミアだったが、詳しいことはまだ教えてくれないみたいだ。
まあ、直前になれば説明してくれるだろう。
「じゃ、とりあえず宿を取って身体を休めようか。レヴィも初めての旅で疲れただろうしな」
「いえいえ、私はまだまだ元気ですよ。それを言うなら、イチカさんも初めての長旅で疲れたのではないですか?」
「情けないけど、ぶっちゃけそうかな。大分疲労は溜まってるよ」
旅のノウハウがあるミアのお陰で、特にトラブルこそなかったものの……やはり慣れないことをすれば疲れるものだ。
今はとにかく、ふかふかのベッドが恋しい。
「私やミアさんのような魅力的な女性に囲まれながら理性を保つのは、さぞお辛かったと思います。心中お察ししますよ」
「一丁前に察するな。ちんちくりんが」
そりゃあ僕も男の子だし、溜まるモノは溜まるけれど。
仲間に欲情する程、落ちぶれてはいないのだ。
「ですが、あなたは童貞だとミアさんから伺いました。童貞の方は女体に飢えていると相場は決まっていますよ」
「随分赤裸々な女子トークをしてくれてるな、おい」
「私とミアさんが二人でいる時の話題は、基本的にイチカさんの悪口か性事情についてですから」
「性格悪過ぎるだろ。ほんとに仲間か、お前ら」
「常にイチカさんのことを考えていると言い換えれば可愛く聞こえるでしょう?」
「その言い換えには些かどころじゃない無理があるけどな」
というか、童貞とか普通に知ってるのね。
十歳か……子どものように見えて、案外大人と変わらない部分も多いのかもしれない。
「クイーンズでは存分に夜をお楽しみください。これだけ大きな街ですから、娼婦を見つけるのには困らないでしょうし。きっと童貞にも優しい方がいるはずです」
「頼むからもっと子どもらしい話をしてくれ……」
性にたくまし過ぎる。
将来が心配だ、切実に。
「ゆっくり休むのも大切だけど、重要なことが一つあるわ」
僕とレヴィの馬鹿話に、ミアが割って入ってきた。
その目は真剣そのものといった面持ちだ。
重要なこと……一体何だろう、見当もつかない。
旅の疲れを癒す以外に、今の僕たちがすべきことなんてないはずだが……。
「お金が全然ないの。みんな、仕事をしましょ」
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