僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ

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再会と邂逅 002

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 突如として現れたカミサマは、相も変わらず笑顔を浮かべている。
 底が見えないという意味では無表情と大差ない。

「おや、あんまり元気がないのかな? 私の登場に際して、もっとリアクションを取ってもいいだろうに」
「……あの、あんまりこういうことを言いたくはないんですけど、いいですか?」
「改まってどうしたんだい? もちろん聞こうじゃないか。カミサマは悩める人民の味方だよ」
「あなた、もしかして暇人なんですか?」

 ぴきっと、カミサマの眉間にしわが入った気がする。
 気のせいだと信じたい。

「……これは心外だね、イチカくん。この私が暇人だって? どういう思考回路を辿ったら、そんな結論に至るんだい。甚だ理解に苦しむよ」
「いやだって、僕の前に現れ過ぎですよ。この一、二週間に何回会う気ですか」

 神様はもっと神聖でありがたいものじゃないのかと、こっちが文句を言いたくなるレベルだ。
 こんな頻繁に人間と顔を合わせるなんて、俗っぽいにも程がある。

「私はこう見えて世話好きでお節介焼きなのさ。自分の立場や地位にあぐらをかいて、世俗を蔑ろにする為政者とは違う……その辺はもうわかっているはずだろう?」
「それはまあ、そうなんでしょうけど……またぞろ、お願いとは言わないお願いでもしにきたんですか?」
「いーや。今回は単に、そこにいるアンデッドの少女の様子を見にきただけさ」

 言いながら、レヴィへと視線を移すカミサマ。

「っ……」

 レヴィはすっかり警戒して、僕の背中に隠れてしまった。
 目の前の白い少女が敵か味方か判断できていないのだろう。

「おやおや、随分警戒されているようだね……イチカくん、私についての話はしていないのかい?」
「ざっとはしましたけど、僕の主観が多分に含まれているので、良い印象は持ってないかもしれません」
「ははっ、それはまた悲しいことだ。こんなに君たちのことを心配している奴も、この世界じゃ私くらいのものだろうに」

 嘘をつけと言いたい気持ちを堪え、僕はレヴィの頭に手を置く。

「安心しろ、レヴィ。この人は危険人物だけど、今のところ敵じゃない」
「主観が多分に混じっているから訂正したまえ、イチカくん。私はいつでも君たちの味方さ……改めまして、レヴィくん。私はカミサマだよ」

 言って、カミサマは真っ白な右手をレヴィに差し出した。
 もちろん、握手を求めているのだろう。

「あ、あの……私はレヴィ・コラリスと言います」
「知っているよ。君を人間に戻したのは私だからね」
「えっと……その節はどうもです……」
「礼なんかいいさ。それより、行き場を失っているこの右手を取ってくれると嬉しいんだけどね」

 まさかこの人がレヴィのスキルを把握していないはずがない。
 僕はレヴィに「大丈夫だから」と耳打ちし、握手をするよう促す。

「……」

 レヴィは意を決して右手を伸ばし、カミサマの手を恐る恐る握り返した。
 同時に【彼岸の穢れゾンビフラワー】が発動し、触れた部分が腐っていく……はずだったが。

「ほう……これは中々珍妙なスキルだ。さすがは変異種、実に興味深い」

 予想通りと言うか何と言うか、カミサマは傷一つ負わずにレヴィの手を観察し始める。

「……なるほど、わかった」
「……あの、何がわかったんですか?」
「何もわからないということがわかったのさ、レヴィくん」

 カミサマは唐突に握っていた手を離し、可笑しそうに笑い出した。

「いやはや、この世界は依然謎だらけだ。と言った方が正確だが、そこら辺のニュアンスは省いても問題ないだろう……今のところはね」
「相変わらず意味深なことを言いたい放題言いますね、あなたは」
「そういう設定だからさ……イチカくんはもう当然了承していると思っていたが、まだ慣れないのかい?」
「その設定とやらに付き合わされるこっちの身にもなってほしいってだけです」

 散々意味深なことを言われて、一々気疲れするのはこっちなのだ。
 ……まあ僕もいい加減、この人の言葉を話半分に受け流す術を覚えるべきなのだろう。

「さて……レヴィくんの様子もわかったことだし、私はこれで失礼するよ。考えていた最悪のパターンの内、どれにも当てはまっていないことが確認できたしね」
「……なんですか、その最悪なパターンって」
「いくつかあるけど、一番わかりやすいのはイチカくんが死ぬとかかな……あとは、レヴィくんの中に残ったゾンビの変異種のマナが暴走するとか、そんな感じだよ」
「それは……最悪ですね」
「だろう? ただ君たちの頑張りのお陰で、事態は概ね平穏に収まったようだ。めでたしめでたし」

 カミサマはそう言って、用は済んだとばかりに踵を返す。
 本当にレヴィの様子を確認しにきただけらしい……てっきり、また何か厄介事でも押し付けられるのかと身構えていたのだけれど。
 と言うか、マジでこんな風に気軽に会いに来られると、こちらとしても拍子抜けしてしまうのだが。
 随分とありがたみのない神様である。

「……あ、あの、カミサマさん」

 カミサマが僕らに背を向けて離れていく最中、レヴィが声を掛けた。

「さんはいらないよ、レヴィくん。で、颯爽と帰ろうとしている私に何の用かな?」
「……私を人間に戻してくれて、ありがとうございました。この御恩は、一生忘れません」
「礼はいいから、今度会う時のために甘味をこしらえておいてくれたまえ。そこのイチカくんはまた用意し忘れたようだからね」

 僕が甘味を用意できなかったのは、あなたが昨日の今日という短過ぎるスパンで会いにきたからだろという文句は言わない。

「は、はあ……甘味ですね、わかりました」

 一方のレヴィは、不可解な要求に戸惑いつつ、首を縦に振る。

「あの、それと……」
「まだ何かあるのかな?」
「さっきおっしゃっていた、最悪のパターン……逆に、最高のパターンは何だったんでしょうか」

 レヴィは質問する。
 一度は自死を考えた彼女だからこそ、訊かずにはいられなかったのだろう。
 もし。
 今回における最高のパターンが、自分が死ぬことだったら。
 そう考えずには、いられないのだろう。

「ああ、そんなことか」

 レヴィの問い掛けを受けたカミサマは、振り返ることなく続ける。

「それはね、レヴィくん。君が自殺をしようなんて微塵も考えず、幸せに暮らすことさ。私はハッピーエンド至上主義なんだよ」

 そう言い残し、彼女は姿を消した。
 人混みの中に、忽然と。

「……」

 あの人も、あれで案外、良い奴なのかもしれなかった。

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