上 下
24 / 60

優しい嘘 003

しおりを挟む


 現在、レヴィはミアの用意した服を着ているため、極端なオーバーサイズ好き女子になってしまっている。
 本人は満足そうだが、一緒に歩く僕が変な目で見られるので(自意識過剰かもしれないが)、ひとまず服屋に寄ることにした。
 女の子は服に拘りがあると思い、好みを訊くと、

「特にないです。動きやすければ何でも」

 なんて、実に素気ない返答をされた。
 実際、レヴィは光の速さで服を見繕い、拘りなど微塵もなさそうである。
 女子との買い物は時間が掛かるというステレオタイプを壊された気分だ……まあ、僕もショッピングは手早く済ませたい系男子なので、これは素直にありがたい。
 僕はお会計を済ませ、店の外で彼女の着替えを待つ。

「お待たせしました、イチカさん」

 しばらくして、心なしかテンションの上がったレヴィが店から出てきた。
 いくら好みがないとはいえ、服を新調すれば機嫌もよくなるのだろう……青色を基調にしたコーディネートが、髪の色とマッチしている。

「うん、似合ってるんじゃないか? さっきも言ったけど、その服は僕からのプレゼントだから、遠慮なく着まくってくれ」
「着まくるという表現はよくわかりませんけど……ありがとうございます。まさかイチカさんからこうして施しを受けるとは思ってもいませんでした」
「こう見えても面倒見はいい方なんだぜ」
「いえ、そうではなくて。見るからに貧乏そうですし」
「喧嘩なら買うぞ!」
「冗談ですよ」

 レヴィはニシシと笑ってから、僕に向けて頭を下げる。

「ありがとうございます。見ず知らずの私のためにここまでしてくれて、感謝しかありません」
「……ここまでって程のことはしてないよ。それに、子どもがそんなにかしこまるもんじゃないぜ」

 意外と礼儀正しいところもある奴だと感心するが、しかし子どもに頭を下げられるというのもむず痒いものがある。
 十歳なんて、生意気なくらいが丁度いいのだ。

「この私がへりくだってお礼をしているんですから、もっとありがたがったらどうですか?」
「クソ生意気なガキだな!」

 どうやら期待を裏切らない奴でもあるらしい。
 レヴィはコホンと咳払いをし、改めて僕に向き直る。

「この後はどう動く予定で?」
「ん? 一応目的地は役所ってことにしてるよ。そこでレヴィの家族……コラリス家を探してみよう」

 もちろん、その行為に一切の生産性がないことは明らかだった。
 でも、レヴィのために何かをしてあげたいのだ。
 彼女を魔物から人間に戻してしまった僕には、その責任がある。

「……はい、お願しますね」

 言って、レヴィは優しく微笑んだ。
 僕はその笑顔に、応えなければならない。





「子どもの捜索願? そんなの出てないよ」

 サリバの役所に到着した僕は、受付にいた男性職員に素気ない対応をされてしまった。
 もう少し愛想よく振舞えないものかと思ったが、他人に文句を言える程できた人間でもないし、ここは我慢しよう。

「そしたら、コラリスという名字の家族はこの街にいますか?」
「コラリス?」

 職員は明らかにめんどくさそうに溜息をつきながら、手元の端末を操作する。
 マナを用いて市民情報を管理しているのだろう……相変わらず、ローテクなのかハイテクなのかわからない世界だ。
 ちなみに、エーラ王国の地方行政は各地の領主によって執り行われている。
 あまりにも国土が広いため、全国で統一された仕組みやシステムは導入されていないのだ……こうして役所がある街もあれば、自警団のみの街もあるらしい。
 さすが、地域が変われば国が変わると言われているだけのことはある。

「……その名字の人はサリバに住んでないね。かなり昔に遡ればヒットするけど、関係ないでしょ?」
「……そうですか。ありがとうございました」

 僕は適当に一礼し、すごすごと役所を去る。
 その後ろに、ちょこんとレヴィがついてきていた。

「えっと……どうやら、レヴィはそもそもサリバの住人じゃないみたいだな」

 僕はとりあえず、受付で得た情報を整理したかのように振舞う。
 もしコラリスという方がこの街にいれば、レヴィと一緒にそこを訪ね、人違いでしたというイベントまでこなしたかったのだが……そう甘くはなかったか。
 これで、僕が彼女にしてあげられることはなくなった。

「……」

 レヴィは黙ったまま、僕の半歩後ろを歩いている。
 この街に自分を知る手掛かりがなかったことにショックを受けているのだろう……ううむ、どうしたものか。
 ここにきて、ミアの言っていた「期待させるだけ可哀想」という言葉が身に染みてくる。

「……なあ、お腹空かないか? 何かおいしいものでも食べに行こうぜ。もちろん、僕の奢りで」
「アイスがいいです」

 即答だった。
 元気があるのかないのか、どっちなんだ。

「それもイチゴが大量に練り込まれたもの以外、私は受け付けません」
「わかったわかった、何とか探し出すよ」

 服に拘りがないくせに食べ物の好みは激しい奴である……僕としては少し早い夕ご飯のつもりで提案したのだが、アイスはさすがに主食にカウントできない。
 であれば、ここは一旦小腹を満たしてもらって、夜にミアと合流してから改めて食事をすることにしよう。

「アイス一個じゃ私の胃袋は満足しませんからね。最低でも二個、努力義務で四個です」
「おっけーおっけー、十個でも二十個でも、好きなだけ食べさせてやる」
「二十個も⁉ そんなことをしたら、イチカさんが破産してしまいますよ!」
「お前、僕をどのレベルの貧乏だと思ってるんだ」

 さっき服買ってやったばかりだろうが。

「私の胃袋が鉄でできているのは周知の事実ですが、さすがに二十個は食べきれませんね」
「生憎初耳なんだが……大食いキャラなのか?」
「十九個が限界です」
「あと一個くらい気合で食べろよ」

 どこが鉄なんだ。
 精々アルミである。

「残すのはもったいないので、いざという時の非常食として保存しておきますね」
「アイスが何か知ってるか?」

 いざという時、ドロドロになっちゃってるよ。

「さ、行きましょうか、イチカさん」

 レヴィが前に躍り出て、僕を先導するように早足になる。
 そんなにアイスを楽しみにしてくれるというなら、是非もない。
 陽は段々と落ち、街は薄暗くなっていく。
 優しい嘘をつく時間も、終わりを迎えようとしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

転生 上杉謙信の弟 兄に殺されたくないので全力を尽くします!

克全
ファンタジー
上杉謙信の弟に転生したウェブ仮想戦記作家は、四兄の上杉謙信や長兄の長尾晴景に殺されないように動く。特に黒滝城主の黒田秀忠の叛乱によって次兄や三兄と一緒に殺されないように知恵を絞る。一切の自重をせすに前世の知識を使って農業改革に産業改革、軍事改革を行って日本を統一にまい進する。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

無人島ほのぼのサバイバル ~最強の高校生、S級美少女達と無人島に遭難したので本気出す~

絢乃
ファンタジー
【ストレスフリーの無人島生活】 修学旅行中の事故により、無人島での生活を余儀なくされる俺。 仲間はスクールカースト最上位の美少女3人組。 俺たちの漂着した無人島は決してイージーモードではない。 巨大なイノシシやワニなど、獰猛な動物がたくさん棲息している。 普通の人間なら勝つのはまず不可能だろう。 だが、俺は普通の人間とはほんの少しだけ違っていて――。 キノコを焼き、皮をなめし、魚を捌いて、土器を作る。 過酷なはずの大自然を満喫しながら、日本へ戻る方法を模索する。 美少女たちと楽しく生き抜く無人島サバイバル物語。

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...