19 / 60
ナイトウォーカー
しおりを挟む僕とミアを取り囲む、無数のゾンビたち。
まるで僕らを追い詰めるかの如く、奴らは徐々に包囲網を縮めてきている。
この窮地を脱するには、戦う以外の選択肢はなかった。
「【神様のサイコロ】!」
僕は右手を前方に掲げ、スキルを発動する。
どれだけの範囲に効果が及ぶのかは、正直わかっていない……だが、かなりの数のゾンビを巻き込めたはずだ。
次は、ミアの出番である。
「【ファイアストーム】!」
彼女のスキルの中でも攻撃範囲の広さに定評があるスキル、【ファイアストーム】。
ミアの両手から放たれた炎の渦が、緩慢な動きのゾンビたちを飲み込んでいく。
炎が通った後には、大量のコアが残されていた。
僕のスキルで敵の生命力を1にし、ミアのスキルで確実に1のダメージを与えるコンビ技……どうやら、ゾンビ相手にも問題なく通用するようだ。
「よし、これなら……」
目の前の光景を見て、ミアは小さくガッツポーズをした。
本来、レベル30とレベル1の人間二人では到底太刀打ちできない物量の相手ではあるが、お互いの長所と短所を補い合い、ゾンビたちを圧倒できている。
残る問題は、僕らの集中力がどこまで持つかという点だろうか。
ゾンビの数がわからない以上、終わりの見えない戦いをしいられるわけで……死と隣り合わせの極限状態を長時間保つのは、人間にとって厳しいものがある。
なにせ、僕はあいつらに触れられるだけで身体が腐ってしまうのだ。
既に腐り落ちてしまった右足首の痛みが、自然と緊張感を高めてくる。
「【神様のサイコロ】!」
「【ファイアストーム】!」
僕とミアは付かず離れずの距離を置きつつ、目配せをして攻撃する場所を決めていく。
ゾンビたちを近づけ過ぎないよう、また数が多いところを目掛けて、スキルを発動する。
真っ暗闇の中に、閃光と炎が舞った。
「はあ……くっ……」
どれだけの時間戦闘を行っていたかわからない……体感としては数時間、しかし実際には数十分程度しか経っていないだろう。
だが、押し寄せるゾンビの群れは途切れることなく。
突如――ミアの身体が、ガクッと崩れる。
「ミアっ!」
ゾンビに触れられた?
いや、僕レベルのスキル防御ならともかく、ミアなら触れられただけで卒倒する程のダメージは受けないだろう。
なら――マナ切れ状態か。
スキルの発動には体内のマナを消費するので、無暗に連発すればエネルギー切れ……マナ切れを引き起こす。
その状態になると一定時間スキルが使用できず、また意識を飛ばすこともあるのだ。
「くそっ!」
僕は残っている左脚に力を込め、ミアの元へ向かう。
今にも倒れそうな彼女の細い身体を受け止め、迫りくるゾンビにスキルを放った。
しかし、僕の【神様のサイコロは】だけでは奴らを倒すことはできない……生命力が1になったゾンビに、とどめの一撃を食らわせねばならないのだ。
「……」
迷ってなどいられない。
躊躇をする暇などない。
僕は腰からナイフを引き抜き、ゾンビの群れを迎え撃つ。
「はあああああああああ‼」
レベル1の僕ではあるが、防御力の低いゾンビ相手なら1ダメージを与えることはできるだろう。
しかしそのためには、リーチの短いナイフで攻撃をするしかなく。
奴らのスキル、【腐食】をもろに食らうことになる。
「――――――っ」
激痛。
ナイフを持つ右手が少しでもゾンビに触れると、触れた部分が紫色になり、肉が剥げていく。
少量ではあるが、確実に。
僕の右腕は、腐り落ちていくだろう。
「くそが‼」
右が駄目になったら、左手を使え。
腕がなくなったら、口で咥えろ。
何が何でも諦めるわけにはいかない。
僕が倒れたら、ミアまで殺されてしまう。
そんな事態だけは、絶対に避けなければ――
ブスリ
「かっ――――――はっ――――――」
ゾンビの腕が腹部を貫通したと気づいた瞬間。
僕の身体は、力なく地面に倒れる。
「……」
痛みは感じなかった。
ただ、赤々と流れる血液だけが、真っ暗な闇に溶けだしていく。
カミサマから最強のスキルをもらったにもかかわらず、Eランクの魔物に殺されるなんて……まあ、僕らしいと言えばらしいか。
結局、イチカ・シリルは第二の人生においても何も為すことができず、死んでいくのだ。
仲間一人守れず、朽ちていくのだ。
レベル1の僕が生き残れる程、この世界は甘くなかったということだろう。
僕は静かに目を閉じる。
◆
「こうも高頻度で会うことになると、まるで友達みたいでよろしくないんだけれど……まあ、珍しいものを見れたから良しとしよう。やはり転生者というのは面白い」
そんな白々しい声に揺さぶられ、意識が覚醒する。
目覚めた僕は冷たい地面に伏しており、周りには墓石が乱立していた。
ここを天国と呼ぶには無理がある……ということはつまり、地獄に落ちたのだろうか。
そこまで悪行の限りを尽くした覚えはないのだけれど、神様という奴は非情である。
「勝手に人を非情扱いしないでほしいね、イチカくん。むしろ情けに厚過ぎて困っているくらいさ……ほら、いつまでもそんなところで寝ていないで、シャキッと起きなさい」
僕は言われた通り上半身を起こし、それからすくっと両足で起立した。
我ながら素直な人間だが……違和感。
腹部に受けた致命傷と、腐り落ちた右足首が復活していることに気づく。
「えっと……」
僕は目の前で不敵に笑う人物――カミサマに視線を移した。
本人も言っていたが、随分と間を置かない再登場である。
ありがたみもクソもない。
「話を始める前にまず甘味をもらおうか。用意してくれたかい?」
「いや、まさかこんなに早く会うとは思ってなかったので、持ち合わせはないです」
「それは良くない、非常に良くないよ……あーあ、白けちゃったなぁ」
露骨にテンションを下げながら、カミサマは近くの墓石に腰かけた。
そんなところに座るな、罰当たりめ……と思ったけれど、罰を与える側がやる分には構わないのだろうか。
横暴なカミサマである。
「……もしかして、あなたが僕のことを助けてくれた、とか?」
「その表現は正しくもあり間違ってもいる。半分正解で半分無回答、と言ったところだ」
相変わらず意味がわからないが、こうしてこの人にムカついている自分は、確かに生きている。
しかもただ生きているだけではなく、致命傷や重症まできれいさっぱり回復している。
「まあ、とりあえずステータス画面でも開いてみなさい。話はそれからにしよう」
どうしてあなたがここにいるのかとか、大量のゾンビはどこにいったのかとか、ミアは無事なのかとか、そういった疑問を解決する前に、ステータスを確認しろと促された。
「……【スタート】」
僕は指示通りステータス画面を開き、
「……」
わかりやすく、絶句する。
その反応を見たカミサマは、いつも通りの無邪気な笑みを浮かべた。
「そこに記されている通り、君は新たなスキルを習得した。【不死の王】……不死身の身体を手に入れたってわけさ」
32
お気に入りに追加
827
あなたにおすすめの小説

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる