悪魔に育てられた俺は、今日もダンジョンで無双する~この世界で魔術を使える人間は俺だけらしい。チートと言われても、悪魔の力だから仕方がない~

いとうヒンジ

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お礼 001

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「おっはよぉー‼」

 諸々の騒動が収まって三日が過ぎた朝……三人目の仲間が見つかるまで特にやることのない俺は、日課にし始めていた散歩のために宿を出た。
 目的もなく街中をプラプラするだけだが、これが中々どうして飽きないものである。まあ、年中雪に囲まれた山で育ったので、見るもの全てが目新しいのは当然か。
 今日も今日とて、市民の皆々様が営むハートフルな日常を観察してやろうかと意気込んでいたところ(嘘だ、そこまで興味はない。とにかく暇なのだ)……冒頭のやかましい挨拶が飛び込んできたのである。

「よぉーー……ござい……ます……」

 が、勢いづいていたのは最初だけで、挨拶の主は元気に上げていた右手をおずおずと下げ(こちらの無視っぷりに気圧されたのだろうか)、気まずそうに目線を外した。

「……」
「……」
「……」
「……あの、無反応は辛い、かも?」

 金髪赤眼の少女は上目遣いで俺を見やり、続くセリフを待っている。

「……」
「……」
「……」
「……え、嘘、まだ無視するの? それはさすがにさすがじゃない?」

 自分の話しかけた相手が、コミュニケーションの手段としては凡そ悪手としか思えない反応を維持していることに焦り、少女は狼狽した。
 いやまあ俺だって、朝っぱらから他人様に不快な思いをさせたくはないけれど(起き抜けにエリザにイタズラはしたが)、しかし見知らぬ他人のハンズアップにすぐさま対応できるほど明るくはない。
 根は暗いのだ、ほどほどに。

「……一応訊くけど、ジンさん。私のこと覚えてるよね?」

 なるほど、どうやらこの少女は俺の名前を知っているようだ……おかしいな、誰かの記憶に残るような偉業や功績なんて遺した覚えはないのだけれど。それとも君は俺の熱烈なファンか何かかい?
 ……などと呆けたふりをするまでもなく、思い出した。

「……もちろん。ライズだろ、覚えてるさ。俺がたった数日程度で人の顔と名前を忘れるような薄情な男に見える?」
「見えるか見えないかで言ったら、余裕で見えるけど」

 迷いなく答えるライズ。
 全く、失礼な奴だ……まあ、失礼の度合いで言ったらどっこいどっこいだろうか。
 俺の方が負けている気もしなくもないが。

「……で、そのライズちゃんが俺に何か用? って言うか、身体はもう大丈夫なの?」
「あー……うん。私は、もう大丈夫」
「ふうん。そりゃ重畳」

 三日そこそこで動けるなら、大したダメージではなかったらしい……重傷だったのは、やはり彼女の仲間の方か。

「……」
「……」
「……」
「……」

 再びの沈黙。
 いや、これに関しちゃ俺は悪くなくないか?
 どんな用件で訪ねてきたのかという疑問はすでにぶつけたし、さっさと答えてほしいのだが……それともなんだ、俺の愛想が悪いから話しづらいとでもいうのだろうか?
 悲しいことに、自覚はあるのだった。

「……もっかい訊くけど、何か用があるの?」
「あっ……そう、そうだよね……ええ、はい。用事があります」

 態度を改め、背筋を伸ばすライズ。

「まず一つ目……ジンさんにお礼を言いにきました。あの時、闇ギルドから助けてくれてありがとう。あなたのお陰で、私たち『紅の月』は死なずに済んだ……本当に、感謝してもしきれない」
「はあ……」

 まさか面と向かって真っすぐ礼を言われるとは思っていなかったので、間の抜けた返事をしてしまう。

「ライズ・メノアの名に懸けて、この恩は一生かけて返すと誓います」
「生憎、一生分の恩返しは先約があるんだ。だから気にしないでいいよ」
「気にしないなんて無理だよ。私、絶対あなたに恩返しをする……大冒険者デリオラの弟子として、受けた恩を返さないわけにはいかないもの」
「……さいですか」

 こういう手合いがテコでも主張を曲げないということは、エリザのお陰で痛いほどわかっている。
 ただまあ俺だけ困るのも癪なので、少し意地悪することにした。

「ちなみにだけど、具体的にはどうやって恩を返してくれるの?」
「それは……えっと、どうしよう……」
「具体案もなく、気持ちだけ伝えにきたってこと? それじゃあ本気で恩返しをしたいようには思えないな」
「うぅ……」
「今すぐこの場で恩を返せって言われたら、君は何ができるの?」

 我ながら、人の善意につけこんで嫌なことを言う奴である。
 俺ならこんな奴に恩なんて返さない。

「今すぐ……うーんと……」

 だが、真面目なライズはしっかりと頭を悩ませる。
 少しイジメ過ぎただろうか。

「とりあえず……身体を差し出すとか?」
「とんでもないこと言うな」

 前言撤回、全く真面目じゃなかった。
 ド直球下ネタである。

「こう見えても私、脱ぐとすごいんだっ。必ず満足させる自信があるよっ」
「そんな自信捨てちまえ」

 性に明け透けか、この女子。
 それともパニクっているだけだろうか。

「わかった……なら処女捨てる!」
「朝っぱらから何つーこと叫んでんだ」
「私の覚悟は本物だよ!」
「君が本物の変人ってことはわかったよ」

 いいから落ち着いてほしい、切実に。

「ジンさんが望むというのなら、私はどこでも全裸になる!」
「ジンさんはそんなこと望まないから。頼むから上着に手を掛けるのをやめてくれ」
「上は着ていて下だけ脱げってことだね! どんな要求にも応えるよ!」
「勝手に曲解しないで」

 俺の真意を歪めないで。
 上も下も脱ぐなって言ってんだ、こっちは。

「……わかったわかった。ライズの覚悟は伝わったから、今度別の形で恩を返してくれ」
「委細承知っ」

 ライズはドンッと胸を叩き、満足そうに頷く。
 同時に、彼女の胸部がふわりと揺れた。
 ……まあ、さっきの自信も、あながち嘘ではないらしい。

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