悪魔に育てられた俺は、今日もダンジョンで無双する~この世界で魔術を使える人間は俺だけらしい。チートと言われても、悪魔の力だから仕方がない~

いとうヒンジ

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単独行動 002

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「グルゥゥゥゥゥ――ァアアアアアアア⁉」

 レッドウルフの断末魔を右踵の下に感じながら、周囲の藪に目を配る。
 ……敵影なし。多分、恐らく。

「……しょっぱ」

 未攻略の赤魔法ダンジョンに潜り始めて二時間……俺は順調に階層を下り、折り返しである十五階層目まで辿り着いていた。
 だが案の定、得られる魔石は酷く小さなもので、黒魔法陣との違いを感じずにはいられない。

「……まあ、こんなもんなだよな、普通」

 普通と言うなら、普通一人でダンジョンに潜ってはいけない規則になっているのだが。
 もしバレたらエリザにぐちぐち言われるのは目に見えているので、露見しないように努めよう。
 裏でこそこそと悪いことをするというのも、中々どうして人間っぽいんじゃないだろうか?

「……なんて、言い訳探してる時点で毒されてるよなぁ」

 こんな風にうじうじ悩むなんて、エリザから影響を受けていることは明らかだった。
 それが悪影響なのかどうかは、今のところ判断が待たれるけれど。

「悪、か……」

 悪とはつまり、悪いというこで。
 悪魔ということだ。

「エリザは……良い人間だ、多分」

 俺なんかとは違って。
 悪魔に育てられた人間なんかとは違って。
 エリザの考えや態度に煩わされることは多いけれど、事実は認めなければならない……あいつは良い奴だ。
 じゃあ、アスモデウスは?
 彼女はあくまで悪魔だったが(洒落が言いたいだけではない、決して)、悪い奴だと言い切れるだろうか。
 もちろん、教育という名のイジメと修行という名の暴力が日常茶飯事だった時点で、善良な存在だとは言えないけれど。
 でも。
 悪い奴じゃあ――なかったのかもしれない。
 少なくとも、俺の作ったシチューを美味しいと食べてくれるくらいには。

「悪魔の癖に変わった人だよ、ほんと……」

 と、無意識に発した言葉に気づいて唇を閉じる。
 俺はまた、アスモデウスを人間扱いしていた……本人にバレたら、げんこつ三つじゃ済まないだろう。
 悪魔は人類の敵で、絶対悪。
 アスモデウスは自ら、そんな使い古された決まり文句を口にしていたっけ。

「その割に、人間に関する書物を集めまくってたんだから、わけわかんねえよ」

 極めつけには、俺みたいなクソガキまで育てた始末だ。
 まあ、人間同士だって何を考えているのかわからないものだし、いわんや悪魔を、か。
 大方、隠居した大悪魔様の道楽ってとこだろう。
 気まぐれと思い付きを足して偶然を掛けたような、そんな合理も正解もない行動……いかにもあの人らしい。
 だから俺がこうして生きているのは、単に運が良かっただけ。
 不運が悪かっただけ。

「……言葉遊びじゃ飯は食えぬ」

 ともすれば一人考え事をしてしまいがちなのは、生まれ育った環境故の悲しい性である……生まれてこの方、俺の専らの話し相手は自分自身なのだから。
 山育ちの辛いところだ。
 悪魔に拾われた必然とも言える。

「考えるより手を動かせってのは箴言だよな……頭だけ働いていたって、現実は変わらないんだから」

 「人間は考える葦である」というのはどこかの誰かが産み出した含蓄ある言葉だが、しかし考えるより行動した方が上手くいく場面も多いのではないだろうか?
 仮に人間が葦のように弱々しい存在だとしても、行動を起こさないことには現状を打破できない……考えるより感じろ、である。
 つまり何が言いたいかと言えば、さっさとダンジョンを攻略して魔石を手に入れろということだ。
 動け、ジン・デウス。
 自分に喝。

「……」

 こうしていろいろと考えを巡らせてしまうのは、恐らくエリザと出会ってしまったからだろう……より正確を期せば、彼女と行動を共にするようになったからだろう。
 俺とエリザとの関係を客観的事実に即して表すと、「仲間」と呼ぶことになる。
 仲間。
 その熟語はもちろん知識として頭に存在していたけれど、いざ手の届くところに実在として現れると、何だか妙な感覚に陥るのだ。
 心臓を鳥の羽で撫でられるような、微妙なこそばゆさ。
 不快……とまではいかないが。
 とにかく、今までの人生で味わったことのない感情を体験し、戸惑っているのである。

 ああ、そうだ。
 俺は今、困惑し恐れている。
 自分の中で何かがのか、それとも何かがのか。
 悪魔に育てられたという、曰くに曰くを重ねた存在である俺みたいな奴が。
 もしかして――、と。

「……やめやめ」

 気づけば始まってしまう一人会議を中断し、死角から飛び出してきていたレッドウルフの頭蓋を砕く(フェア精神に則って報告すると、しっかり一撃食らっている)。
 ここはダンジョンで、今は探索中であることを忘れるな……滅多なことじゃ死なない身体ではあるが、万に一つって線もある。
 もしこんなところで死んでしまったら……。

「……俺が死んだって、悲しむ奴なんかいなかったな」

 自分的には全く悲壮感なく、むしろ淡々と事実を述べただけのつもりだったのだけれど……仮に見物人がいたとしたら、なんと滑稽に映ったことだろうか。
 俺は自嘲の笑みを浮かべながら、ダンジョンを進む。

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