悪魔に育てられた俺は、今日もダンジョンで無双する~この世界で魔術を使える人間は俺だけらしい。チートと言われても、悪魔の力だから仕方がない~

いとうヒンジ

文字の大きさ
上 下
12 / 32

単独行動 001

しおりを挟む


 夜。
 コルカでの主目的だったパーティー募集を終え、あとはメンバー候補が集まるのを待つだけになった俺たちは、とある安宿に拠点を構えることにした。
 エリザの荷物を部屋まで運び入れ(女子は荷物が大きいとアスモデウスが言っていた、箴言だ)、ようやく一息つく。

「これからしばらくは大人しく待機ですね……ジンさんはこの後どうされますか?」
「ま、適当に観光でもするさ。時間はあるしね」
「あ、あの……もしよければ魔術についていろいろ教えてもらても……」
「おやすみ」

 半ば無理矢理戸を閉め、エリザの部屋から自分の部屋へと移動する。
 薄っすらと埃が舞う室内は清潔と高級からはほど遠いが、長年暮らしていたあの山小屋に比べればいくらかマシだ(命の危険がないだけで万々歳である)。
 そも、宿泊費を出しているのはエリザなので、文句を言える立場にはいないし。

「さて……」

 昼間ギルドからくすねてきた地図を広げ、大体の地理地形を把握。
 大まかなものから詳細なものまで、手当たり次第に盗んで……いやさ借りてきた。
 そのうち返せば問題ない(ということにしておこう)。

「近場に黒魔法陣は……って、青と緑ばっかじゃねーか」

 三人目のメンバーが見つかるまで大人しくしているつもりなど毛頭ない。二週間もじっとしていたら身体がなまってしまう。
 一人でダンジョンに潜ろうとしているのがエリザにバレたら面倒くさいので(アスモデウスに申し訳ないとか何とか言うに決まっている)、できるだけこっそり動くとしよう。

「んー……ここでいいか」

 少し遠いが未攻略の赤魔法陣ダンジョンを見つけた。
 今から出発すれば明日の夕方には戻れるだろう……エリザに怪しまれないためにも、迅速にことを運ばなければ。
 正直、エリザと一緒にいた方が楽なのだが(自分の魔力を使わなくて済む)、あの真面目を絵に描いた少女のことだ、頼み込んだってついてきてくれそうにない。

「真面目人間か……生きてて損だ」

 アスモデウスは「人間らしく暮らして」という言葉を遺したが、それは善人になれという意味ではないはずだ。
 まずもって、悪魔がそんなことを願うわけがない。
 俺が規則を無視する悪人だろうと、法を犯す犯罪者だろうと、要は生きていればそれでいいのだろう。

「不正に手に入れた魔石もやりようによっちゃ換金できるらしいし、手に入れたもん勝ちだな」

 裏社会なるダークでディープなものに伝手などないが、そういう如何わしい連中は金の匂いを嗅げば嫌でも寄ってくるもんだ。
 とにもかくにも、魔石を入手しないと話は始まらない。

「人間のルール、ね」

 以前エリザと揉めたことを思い出す。
 こうして着々と違法行為に手を染めようとしている俺は、間違いなく素晴らしい人間ではないだろう。
 別に急ぐ必要はないのだ。
 新しいメンバーが見つかるまで、大人しくしていればいいじゃないか?
 そっちの方が人間らしいだろ?

「……」

 俺は数秒思案し、窓から外に飛び出した。





『お前もいつかは山を下りるのよ、ジン』

 暗闇を駆けながら、ふとアスモデウスとの会話を思い出す。
 この記憶はいつ頃のものだろうか……不確かさが証明になるくらいには遠い記憶だ。

『私も一緒に? はっ、そんなの無理に決まっているでしょ。私は悪魔なのよ、あーくーまー……全く、いつになったら理解できるのかしら』

 彼女以外の他人を知らない俺にとって、人間と悪魔の違いを認識するのは難しいことだった。
 姿形が違うのはわかっても。
 心まで違うとは――思えなかった。

『悪魔は人間の敵なのよ。今更仲良しこよし手を取り合うわけにはいかないの……お前は別よ、ジン。私の敵と呼ぶにはまだガキ過ぎるわ』

 アスモデウスはよくそう言って、幼い俺の頭を撫でていた。
 敵と呼ぶにはガキ過ぎる、と。
 なら彼女にとって。
 俺は、何だったのだろうか。

『私はお前を愛さない……お前も、万に一つだって私を好きになるんじゃないわよ? あんまり懐かれても挨拶に困るわ』

 愛さないというのなら、どうして俺を育てたんだ?
 その矛盾に疑問を抱きつつも、結局最期まで尋ねることはなかった。
 答えを聞くのが怖かった?
 俺は一体何を怖がっている?

『私はお前に生きる術を教える。この残酷で救いのない、絶望の下から悲劇がめくれて出てくるような世界を生き抜く術を……ちょっとばかしスパルタかもしれないけれど、文句も愚痴も認めないからね』

 実際、彼女は俺の弱音を聞き入れることはなかった。
 しばらくすると、俺も弱音を吐くのをやめた。
 苦しみや痛みに慣れたから?
 いや、それだけじゃない。
 そこにあったのは、苦しみだけではないと感じたから。

『ジン。お前はきっと、これから多くの苦難にぶち当たる……私を恨むことだってあるでしょう。どうして生きているのかわからず、自分の存在理由を見出せず、死んでしまいたくなることだってあると思うわ』

 果たして、アスモデウスの予言通りに悩むことは何度かあったが、それは心の中に伏せておこう。
 素直に認めて、ほら見たことかと地獄で小躍りされてもたまらない。

『お前は悪魔じゃない、人間なの。育っている環境は普通と少し違うけれど、育ての親はすこぶる異質だけれど、お前自身はごくごく平凡な人間なの。何があっても、それだけは忘れないで』

 それがお前の――希望になるのよ。

「……」

 アスモデウスの言葉の意味は。
 今もまだ、わからないまま。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...