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お返し 002
しおりを挟む「……魔術だって? はっ、戯言もそこまでいくと笑えないね」
オズワルドは呆れたように肩をすくめる。
「ダンジョンに封印された悪魔どもはとっくの昔に滅んだんだよ。それなのに、一体全体どうやって悪魔の力である魔術を覚えたっていうんだい?」
「俺は悪魔に育てられたからな。あんたらが魔法を習うように、俺は魔術を教えられた。教えられたっつーか叩き込まれたって感じだけど」
「……はあ。もういいよ。どうやら君は可哀想な精神異常者らしい」
やれやれと首を振り、オズワルドはエリザの方へ向き直る。
「エリザ、君もそんな男とはつるまない方がいい……どうしてもというなら、またパーティーに戻してあげてもいいんだよ? 君がしっかり反省し、僕らに口答えしないと誓えるならね」
「……あなたの元に戻るつもりはありません。ダンジョンで仲間を捨てる人を信用できると思いますか?」
「さっきはついカッとなっただけさ。つまらないことは水に流そうじゃないか……それに君は見た目が良い。無駄な正義感を出さずに黙ってさえいれば、目の保養にピッタリだ」
「……最低ですね。何でも自分の思い通りにならないと気が済まないのですか?」
「もちろん。僕にはそれだけの力がある。力がある者は、横柄に我儘に、自己中に生きていいんだよ」
オズワルドは舐めるような目でエリザを見つめる。
対するエリザは嫌悪感を露にし、わなわなと震え出した。
「……なあ、エリザ」
「なんですか、ジンさん」
「あいつをぶっ飛ばしたいか?」
一応パーティーを組んでいる以上、仲間の意向は聞いておかなければならない。
この場を穏便に済ませるか。
一悶着起こすか。
「……はい。私は彼にムカついています」
「おっけー。ってことで、今からぶっ飛ばすんでよろしく」
戦う理由もできたところで、肩を回しやる気を入れ直す。
仲間のために戦うっていうのは、なんかこう、とても人間っぽいはずだ。
アスモデウスのためにも、ここは一つ人間らしくやってみよう。
「……全く、君たち二人して面倒くさい輩だ。片方は精神異常者、もう片方はクソ真面目ときた……わかったわかった。僕がしっかり性根を叩き直してあげよう」
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ」
「ほざけ! 【サンダーボルト】!」
開戦の合図はないようで……オズワルドの右手から一直線に雷光が伸びてきた。
雷属性の魔法は速さと貫通力に長けており、生身の人間が食らったら目も当てられない事態になる。
ただまあ、こと俺に関しては、その心配もいらないのだけれど。
「なっ……」
オズワルドが絶句するのも無理はない。
奴の放った雷は、見事俺の腹部に直撃し。
そして――何も起きなかった。
血飛沫も悲鳴もない。
強いて言えば服は焼け焦げたけれど……あらわになった俺の肉体には、傷一つ付いていない。
「ちっ、防御魔法を展開していたのか……だがいつの間に」
「だから魔法じゃないんだって。魔術ね、魔術」
【悪魔の加護】。
全身を魔力で包み込む魔術で、大抵の攻撃を無傷に抑えることができる。
もちろん、こちらが殴る蹴るの暴行を加える際にもその強度は有効で、アイアンキャタピラーくらいなら一撃で潰せるのだ。
「古来、悪魔はこの魔術で身を守ってたらしいぜ……しかも、俺の場合は超超超高位悪魔直伝だからな、あんたレベルの魔法じゃ歯が立たないよ」
「ふざけるな、何が魔術だ! すぐに化けの皮を剥がしてやる! 【サンダーアロー】!」
オズワルドの両手から無数の雷の矢が放たれる。
だが、飛んでくる矢を避けるまでもない……軽く右腕を払い、全ての矢を弾き飛ばす。
「ば、馬鹿な……今のは黒魔法陣ダンジョンの魔物でも殺せる魔法だぞ? 並の防御魔法なら一瞬で破壊できるはずなのに……本当に、魔術だとでもいうのか?」
「だからそう言ってるだろ。あんたの言う精神異常者は、ただの異常者だったってことだ……喧嘩を買う相手を間違えたな」
「う、嘘だ嘘だ嘘だ! 魔術など、悪魔など、そんなものが現代に存在していいはずがない! 僕の魔法が通用しない人間なんているはずがない! 今からそれを証明してやる!」
大きく狼狽しながらも、オズワルドは頭上に両手を掲げた。
それを見た取り巻きのダレンとミナが、得意そうに笑い出す。
「そうだ、やっちまえオズワルド! その生意気なガキを消し炭にしちまうんだ!」
「私たちがSランクと呼ばれる所以、見せてあげましょう!」
「ああ、任せておけ! これでお終いだ、【サンダーレイ】!」
一際大きな光が弾け、空中に魔法陣が出現する。
直後、自然界では発生しえない巨大な雷が降り注いだ。
なるほど、彼らが騒ぐだけあってかなりの魔力だが……悲しいかな。
この程度の力じゃ、悪魔には歯が立たない。
俺は拳を突き上げ、迫りくる雷撃を跳ね返した。
「な……そんな……僕の最高威力魔法が……どうして……」
「じゃまあ、そろそろ反撃していいよな?」
途方に暮れているオズワルドを尻目に、俺はエリザの元へ近づく。
エリザは魚みたいに口をパクパクさせていた……雷の猛攻を無傷で耐えているのを見て、若干引いているらしい。
「ジ、ジンさん……本当に大丈夫なのですか? お怪我は?」
「全然モーマンタイ……それより質問。このまま俺が殴ってもいいんだけど、どうせならエリザの力でぶっ飛ばしたくないか?」
「私の……? そうしたいですけれど、でもどうやって……」
「こうやってさ」
俺は狼狽えるエリザの左手を掴み。
一気に――魔力を流し込む。
「【血の契約】」
アスモデウス直伝魔術の一つ、【血の契約】。
だいぶ前に習得したものの、使うのはこれが初めてだった。
なぜなら。
この魔術は、人間がいなければ使えないから。
「ジ、ジンさ――――」
エリザの身体が蒼色の光に包まれる。
眩い閃光が天へと昇り、弾けた。
「……ふう」
光の向こうにエリザの姿はなく。
俺の左手には、一振りの両刃剣が握られていた。
「……氷剣エリザってとこかな」
人間を魔武器に変える魔術……初めて使ってみたが、これが案外しっくりくる。
エリザの持つ氷の魔力が冷気となり、鈍色の刀身から溢れた。
「お、おい! エリザはどこにいった! その剣は! お前は、お前は一体何者なんだ!」
目の前で起きた現象を理解できずに叫ぶオズワルド。
そんな彼とお仲間たちを見据えながら、俺は剣を掲げる。
「この剣はエリザを元に生み出した魔剣。で、俺の名前はジン・デウス。悪魔に育てられた、人間モドキさ」
振り下ろした氷剣は空を裂き。
エリザの魔力を解き放つ。
「【魔氷灰】」
「くそぉぉぉぉぉぉ‼ エリザァァァァァァァ‼」
実に清々しい断末魔を上げながら、オズワルドたちは氷に飲まれていった。
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