2 / 32
ダンジョン
しおりを挟む『ダンジョンというのは元々、悪魔を封印するための施設なのよ、ジン』
アスモデウスがダンジョンについて語ることは少なかった。
故に、俺もその全容を知っているわけではない。
『今から約二千年前……天使の連中が、私たち悪魔を根絶やしにしようと戦争を仕掛けてきた。結果から言えば、悪魔側は大敗北……そのほとんどが世界各地のダンジョンに封印されたわ』
だが、当然天使側も無傷では済まなかった。
相当の痛手を負った天使は、ある決断を下したそうだ。
『天使は悪魔を封印するだけで手一杯で、完全に排除することはできなかった。そこである妙案を思いついたわけ……そうだ、人間に力を与えて悪魔を殺させようってね』
そして人類は魔法を手にした。
悪魔を殺すために。
『私たち悪魔も黙ってやられるわけにはいかなかった。魔法を手にした人間に対抗するため、自分の身を守るため、ある種の防衛措置を取ることになる……それが魔物の正体なの。自分たちの魔力を削り、ダンジョン内に免疫を作ったのね』
魔物は死後、魔石という魔力の塊を残す。
その魔力の大本は悪魔の力ということだ。
『ま、そんな経緯や事実も今や形骸化しているのだけれど……当然よね。ダンジョンに封印された悪魔たちは、とっくの昔に死に絶えたんだから。残されたのは防衛機能である魔物だけ』
現代におけるダンジョンの存在意義は、魔物を狩って魔石を集める場所……それ以上でもそれ以下でもない。
人類は魔法を駆使し、文明発達のためにダンジョンを攻略する。
『え? どうして私は封印されずに生きているのか、ですって? そんなの、私が超超超高位の悪魔、最強最悪のアスモデウス様だからに決まってるでしょーが。舐めんじゃないわよ』
ここらで一発、頭を叩かれたような気がする。
あの悪魔は俺を痛めつけるのが大好きだった。
本当に、悪魔らしい人だった。
◇
「ここら辺のはずなんだけど……」
俺は記憶の中の地図を頼りに、街外れの森の中をうろついていた。
ギルドの壁面に描かれていたのは大雑把すぎる概略的な地図だったので、ほとんど勘を頼りにダンジョンを探しているのだけれど、全く魔法陣が見当たらない。
「俺も魔力の流れがわかればな……」
ダンジョンは、その昔に天使が作り上げた魔法空間である。
内部に入るためには、まず入り口となる魔法陣を見つけなければならない。
アスモデウスのように魔力探知ができれば一発で陣の場所がわかるのだが、目視では厳しいものがある。
「……」
魔法陣には各々「色」が存在し、封印された悪魔の強さに応じて変化する。
黒・赤・青・緑・白の順に等級が決まっていて、最上位の黒魔法陣ダンジョンに出現する魔物が一番強いとされている……が、アスモデウスといる時は黒色しか潜らなかったので、他がどの程度のレベルなのかは正直わからない。
ちなみに、今回探しているのは赤魔法陣である。
等級的には黒の一つ下……まあ、ある程度の魔石は手に入るだろう。
「……お、みっけ」
藪を掻き分け右往左往していると、お目当ての魔法陣を発見できた。
街を出てからかなり時間が経ってしまったが(陽が傾いている)、地図なしなら上々だろう。
「んじゃまあ、お邪魔しますか」
陣の中心に立ち、魔力を流していく。
魔法陣の起動自体はそれほど難しくない……問題なのは帰りだが、まあなるようになるだろう。
「……――――――」
身体が宙に浮くような錯覚……すぐさま意識がブラックアウトする。
数秒、あるいは数分後。
「――……ふう」
目を開ける。
一呼吸入れる前に周囲の安全を確認……敵影、なし。
「森林エリアか」
先ほどまで魔法陣を探していた森と似ているが、確実に別の場所。
無事にダンジョンへ侵入できたようだ。
「さてと……」
首を鳴らして肩を回し、ようやく一度深呼吸をする。
こうしてダンジョンに潜ったのは、言うまでもなくここを攻略するため。
冒険者としての第一歩ってところか……さっさと魔石を集め、金を稼ぐとしよう。
「……」
周囲を窺いながら適当に散策を始める。
第一階層の魔物から獲れる魔石は質も量も高が知れているので、早いところ深層まで下りていきたいのだが――ゴンッ。
「……」
後頭部に衝撃を受けたので振り返る。
そこには棍棒を持ったゴブリンが立っていた。
十歳児程度の体格をした人型の魔物……知能が高く、魔力の扱いもそこそこ。
上手く気配を消し、いつの間にか背後に忍び寄っていたようだ。
「ケケケッ……ケ?」
が、不意打ちを食らっても微動だにしない俺を見て、ゴブリンは一歩後ずさる。
「アスモデウスがいたら怒られちまうな……もっと周りを警戒しろって」
如何せん身体が丈夫なので、どうしてもそこら辺が疎かになってしまう。
普通の人間なら今の一撃で死んでいただろう……相手がゴブリンと言えど、赤魔法陣ダンジョンに出現する個体は侮れないらしいし。
まあ、どっちにしろ俺には関係ないが。
「景気づけに一発、いっとくか」
敵への間合いを詰め。
拳を握り――打ち込む。
「ケケ――」
ゴブリンは俺の動きに反応しようとしたが、その前に頭部を吹き飛ばした。
正義のグーパンである。
「……いや、正義じゃないか。悪魔なんだし」
独り言も増えるってもんだ、実際一人だから。
ほどなくして絶命したゴブリンの身体は消滅し、小さな魔石が転がった。
「ちっさ。純度低っ」
元々期待していなかったが、指で摘まめるサイズでは話にならない。
黒魔法陣で出てくるゴブリンはもう少しマシな魔石を落とすのだが……そこが難易度の違いなのだろうか。
「……ま、塵も積もればか」
ゴブリンは通常、群れで活動する魔物。
必然、一匹だけで行動することはない。
藪の奥が、怪しくうごめき出す。
「……久しぶりのダンジョンなんだ。準備運動くらいにはなってくれよ」
10
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる