37 / 47
余興 002
しおりを挟む「急遽決まったエキシビジョンマッチ! 前夜祭の予定を変更し、一対一の試合を執り行います! 裏で準備してたみなさんはごめ~んね!」
流れるように時は進み、ナイラとユウリの対決が始まろうとしていた。
特設ステージは解体され、コロシアムの中央に大きなスペースが出現する……安全に配慮するならパーティー会場ごと撤去するべきだが、余興の一環という性質上、この対応が限界なのだろう。
「本気で暴れるには少し手狭だね。周りにはランダル市民の方々がいるし、どうにも戦い難そうだ」
「今から負けた時の言い訳か? 課せられた状況で最善の戦いをするのが強者だろう」
「これは手痛い指摘だことで……あんまり生意気言ってると、ついうっかり殺しちゃうかもよ?」
「冗談でも笑えんな」
「冗談なんかじゃないさ。ウィグへの仕置きがお預けになってイライラしてるんだ……君で発散させてもらうから、精々壊れないでよね」
「同じセリフを返そう」
ユウリの挑発を端的に受け流したナイラは、ゴキッと首を鳴らす。
「随分と余裕そうじゃないか、『豪傑のナイラ』……俺はね、君のことも気に食わないんだよ。十五歳の時に二つ名をもらったそうだけど、本当にそんな実力があるのかな? 君のとこのマスターが裏で手を回したんじゃない?」
「好きに勘ぐっていろ。私はお前を倒す、それだけだ」
「格好いいねー。そうやってクールぶってないと、中身が伴っていないのがバレちゃうのかな? ただの小娘だって思われたら困るもんね」
「……やけに突っかかるな。初対面のはずだが?」
「気に食わねえって言ったろ、クソガキが!」
人当たりの良い笑顔を崩し、吠えるユウリ。
「若き天才だか何だか知らないが、どうして君みたいなガキが二つ名を持っていて俺が持っていない! Aランククエストをこなし、S級冒険者になった俺がどうして二つ名を得られない! どう考えても『魔女のアウレア』が何か仕組んだに決まっている! 君みたいに若くて綺麗な女の子を持ち上げれば、それだけギルドの注目度も上がるからね! そんな理不尽は許されないんだよ! 俺こそ二つ名持ちに相応しい!」
「……くだらん承認欲求に塗れた男だ。お前の弟であるウィグは心底目立つことを嫌っているというのに、バランスの悪い兄弟だな」
「ははっ。あの『無才』がどうやって目立つっていうのさ……また卑怯な手で明日の対抗戦を戦うつもりだろうけど、大観衆の前で通じるかな? それに、あんな無能を代表に据える時点で『流星団』のお株も知れるよ」
「私のことはいくら嫌ってもいいが……それ以上、仲間とギルドを馬鹿にするなよ」
言って、ナイラは右の拳を握る。
「ウィグは無能などではない。あいつは流星団の代表に相応しい男だ……お前のような性根の腐った輩と違ってな」
「あの『無才』に何を期待してるのか知らないけど、あんまり調子に乗らない方がいい。所詮君たちは非公認のギルド、俺たち公認ギルドに歯向かおうってのがそもそもおかしいのさ」
「さっきからよく吠える……王国に尻尾を振る信念なき犬が。『流星団』は自由を掲げるギルドだ、何物にも屈しない」
静かに左の拳を握るナイラ。
両方の手に、力がこもる。
「両者やる気満々のようです! それではエキシビジョンマッチ、スタートー!」
レジーナさんの合図を皮切りに。
ユウリが、飛んだ。
「【竜巻】!」
風を自在に操るスキル、【竜巻】。
風で全身を包んで宙を舞うことも、突風を起こして岩を砕くこともできるスキル……四年前に見た時よりも、数段洗練されている。
「消し飛べ! 《竜の羽ばたき》!」
コロシアム上空へと飛び去ったユウリが、地上に向け風を放つ。
撃ち出された暴風は鋭く渦を巻き、ピンポイントにナイラ目掛けて落ちてきた。
「【怪力無双】――《玄武甲殻》」
対するナイラは銀のオーラを纏って防御姿勢を取り、竜巻を受け止める。
ナイラ自身にダメージはなさそうだが、上からの圧力で地面が罅割れ、足場が崩れていく。
「へー、正面から受け切るんだ……じゃあこれはどうかな? 《渦巻く波動》!」
両腕を真っすぐ上に掲げるユウリ。
その動きに呼応して、ナイラの周囲に風の渦が発生する。
数秒後、渦は崩れた地面ごとナイラを空中に巻き上げた。
「くっ……⁉」
「いくらオーラで守っていても衝撃がゼロになるわけじゃないんだろ? さあ、どれくらいの高さから落としたら死ぬのかな?」
みるみるうちに上空へと連れ去れていくナイラ。
あっという間に米粒ほどの大きさになってしまう。
「ちょ、ちょっとウィグさん⁉ あれまずくないですか⁉ いくらナイラさんでも、あんなに高いところから落ちたらただではすまないんじゃ……」
怯えるように見上げながら、エルネは口元に手を当てる。
あれがユウリの真骨頂……敵を空へ巻き上げ、ただ落下させるというシンプルな技。
が、シンプル故に対策が難しい。
「落ちろ‼」
ユウリが風を止める。
同時に、ナイラの身体が自由落下を始めた。
「ウィグさん、ウィグさんってば!」
「ナイラを信じるんだろ? なら、黙って見てよう」
エルネが焦るのも無理はない……普通の人間なら、スキルを使おうとも即死することは想像に難くない。
だが、ナイラは普通の人間ではないのだ。
国家戦力に数えられる二つ名を与えられた、「流星団」のエースである。
「すまんなウィグ! 《銀獅子齧咬》!」
高速で落ちてくるナイラが、僕に一言謝りながらスキルを発動した。
両腕のオーラが伸び、破壊音を響かせ地面を砕く。
「うわああああああ⁉」
「きゃああああああ‼」
あまりの衝撃と粉塵に、観客たちが悲鳴を上げた。
地が割れ、コロシアムが揺れる。
「……残念だったな。この程度では私は死なんぞ」
土煙の晴れた先に、すり鉢状に穿たれた大穴が出現し。
その中心で、銀髪の少女が微笑んでいた。
「改めてすまんな、ウィグ。ここまで地形を破壊してしまっては、明日の対抗戦までに修復するのは無理かもしれん」
「……別にいいよ」
コロシアムの中央が甚大な被害を受けているが、まあ、なんとかなるだろう。
「落下の衝撃をスキルで相殺したのか……一歩間違えればオーラを放っている両腕が負荷に負けて消し飛ぶだろうに。器用にスキルを使えるらしいね」
ユウリが上空からナイラを見下ろす。
「けど、そんなに器用なスキル操作が何度もできるかな? スキルの発動タイミングや力加減を少しでも間違えれば、君の身体だけでなく観客のみなさんまで危険に晒すことになる……対して俺は、何の苦労もなく君を空へ運べる。降参するなら今のうちだよ」
ユウリの言う通り、先ほどのナイラの対処法は危険極まりない。
上手くいってこれだけの大穴を生むのだ、二度目はないだろう。
自身の安全と周囲への影響を鑑みれば、降参という選択をするのが妥当だ。
「どんなに強力なスキルを持ってようが、空中に放り出せば関係ない。浮遊系のスキルを持たない君は、どう足掻いたって俺には勝てないんだよ。わかったらさっさと降参することだね。『小娘が生意気言ってすみません、二つ名は荷が重すぎました。非公認ギルドの分際で調子に乗ってごめんなさい』って謝ったら、許してあげてもいいよ」
遥か高みから嘲笑うユウリ。
昔からああして人を見下すのが好きな兄だった……相手が弱者だと見るや、嘲り誹る人だった。
だが。
「ふむ……嫌だな、断る」
ナイラは、強い。
二つ名を持っているとか、スキルが強力とか、そういう次元の話ではなく……仲間を想う彼女の心が、強いのだ。
僕にも、ようやくそれがわかってきた。
「この勝負には必ず勝つ……『流星団』を馬鹿にし、ウィグを無能となじるお前の鼻を明かさねば、私の気が済まない」
銀色のオーラがナイラを包む。
その瞳は真っすぐユウリを捉えていた。
「戦闘続行ってことかな……俺はちゃんと警告したからね? 死んでも化けて出ないでくれよ」
「安心しろ。負けるのはお前だ」
「……あー、あったまきた。もう絶対殺す。殺さないと気が済まない。だって俺、君の死に顔を見ないと眠れそうにないよ」
「……簡単に殺すなどと口にしない方がいい」
「今更ビビっても遅いんだよ! 《渦巻く波動》!」
ナイラの周囲に再び風が吹き始める。
あの渦に捕まれば、為す術なく上空へと飛ばされて……
「《銀狼獣脚》」
突然、ナイラの姿が消える。
オーラが両脚に集約し、駆け出す瞬間だけは辛うじて視認できた……つまり、消えたのではなく移動した?
僕の予想を確かなものにするかのように、激しい土煙が舞う。
その粉塵は一直線に大穴を登っていき――跳躍。
数回の瞬きのうちに、ナイラは遥か上空へと跳んで見せたのだった。
「なっ⁉」
「私はな、軽々に人を殺そうとする人間が大嫌いなんだ」
ユウリの背後を取ったナイラは、右の拳を固く握り込み。
力一杯、殴りつける。
「性根を叩き直せ、ユウリ・レンスリー‼」
「ぐあああああああああああああああああああああああ⁉」
ナイラの想いを乗せた拳が、対抗戦の狼煙を上げた。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜
海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。
そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。
しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。
けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる