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仲間と呼ばせて
しおりを挟む「翡翠の涙」の面々を軍に引き渡すため街へ向かった僕とナイラは、諸々の手続きを終えてテライア市街を歩いていた。
「……」
「……」
……無言。
空気が重い。
僕自身、あんまり気を遣うタイプではないと自覚しているが……それにだって限度はある。
気まずいものは気まずい。
相手が同世代の女の子となればなおさらだ。
「……」
「……」
「……えっと、ナイラさん? この後はどう動く予定で?」
成り行きでここまでついてはきたが、僕にできることはもうないだろう。
ナイラにしてみても、僕なんかと長い間一緒にいたいはずもないし。
「……これから病院に行く。怪我をした者の容態を確かめたい」
「あ、そうですか……」
僕も怪我人に付き添っているであろうエルネと合流したかったので、行先は同じようだった。
「お前も予定がないなら一緒に来てくれないか、ウィグ」
「……おっけー。エルネもそこにいるだろうしね」
なぜ僕についてきてほしいのかはわからないが、目的地が同じなら断る理由もない。
……この気まずさを理由に断っても良さそうだが。
「ギルド、あんな感じになっちゃったけど、復旧の目処は立ちそうなの?」
「……目処などなくともやるしかない。襲撃を免れたメンバーで力を合わせて、どうにか復興させるしかないよ」
「ほんと、いい迷惑だったよね。君たちが喧嘩を売られる筋合いはないっていうのに」
「ギルド潰しなどという卑劣なことをする輩に理屈は通じない。あんなのは天災や事故の類だ……という風に割り切れるのも、死者が出なかったからだろうがな」
「不幸中の幸いってやつか」
適当に相槌を打つ僕。
それを見透かされたのか、急にナイラが立ち止まり、こちらへ振り返った。
「えっと……?」
「お前のお陰だ、ウィグ。お前が来てくれなかったら、『流星団』は大打撃を受けていただろう……本当に感謝しているんだ。我ながら伝わっていないと思うがな」
「……そんなにお礼を言われるほどのことはしてないよ。僕がいなくても、君たちなら何とかできたさ」
「いや……あのままいけば、私はクライアに殺されていた。そうなれば、マスターとゲインが不在の『流星団』は瞬く間に蹂躙されていただろう。奴らもそのタイミングを狙っていたはずだからな」
ナイラはふっと目を閉じ、それから強く見開く。
「私はお前に謝らなければならない。人殺しは許さないと突き放したにもかかわらず、お前は『流星団』のことを救ってくれた。私の家族を守ってくれた。そんな恩人に対し無礼をはたらいたことを、ここで正式に詫びさせてくれ」
すまなかったと、ナイラは頭を下げた。
「人殺しを許せない気持ちは変わらない……でも、お前が楽な道を選ばないよう努力しているのなら、私もまた、変わるべきなのだろう」
「変わる、べき……」
「お前のことを、仲間と呼ばせてくれないか」
言って。
ナイラは、右手を差し出してくる。
「身勝手な要求なのはわかっている。一度突き放した相手にこちらから歩み寄ろうなど、虫が良過ぎるにもほどがある……でも、決めたんだ。私はウィグのことを仲間と呼びたい。そう思いたい」
「……確かに僕は君たちを助けたけど、過去に人を殺してきた事実は変わらないよ。それでも、その右手を引っ込めるつもりはないってこと?」
「ああ。私は、未来を見ることにした」
随分とまあ、勝手な言い分である。
が、しかし。
この手を取らない理由も、見当たらない。
自分の信念に例外を作るというのは、彼女のように芯が太い人間にしてみれば相当勇気ある決断のはずだ。
ならば僕も、それなりに応えよう。
「仲間と呼びたいなら、お好きにどうぞ」
「ありがとう。お前にもいつか、私を仲間と思ってもらえるように努力する」
力なく握り返した僕の右手を、ナイラは一層強く掴む。
なんだろう、滅茶苦茶恥ずかしい。
「ついでと言ってはなんなんだが、ウィグ」
「なんでしょうか、ナイラさん」
「もしよければ、『流星団』に入ってくれないか? どの口が言うと思うだろうが、是非考えてみてくれ」
「……」
思いもよらない提案だが……どうだろう。
エルネと一緒に街を出ようと思っていたが、こうして歓迎してくれるというのなら、ここに残るのも悪くないだろうか。
「……とりあえず、エルネに相談してみるよ。話はそれからってことで」
「うむ、わかった。ではまず病院に行こう……みなにウィグの活躍を話さなければならないしな。今夜は宴だ!」
言うが早いか、ナイラは早足で先を急ぐ。
その軽やかな動きに合わせて、銀色の髪がキラキラと輝いていた。
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