3 / 47
復讐 001
しおりを挟む「お疲れ様です、マスター」
「今日もお早いですね、マスター」
受付嬢たちの腰の低い挨拶。
街の中でも選りすぐりの美女を集めた甲斐もあって、実に気分がいい。
「うむ。今日も一日、よく働いてくれ」
片手を上げて応えながら、ギルドの二階へと上がっていく。
酒場を含めたギルド全体を見渡せる位置にあるソファ。
ここが、「明星の鷹」のギルドマスターである俺こと、ガウス・レンスリーの特等席だった。
「おはようございます、マスター。こちら、本日の予定になります」
「ご苦労」
恭しく近づいてきた秘書から予定表を受け取り、もっともらしい顔で眺める。
「……ほう、エドが帰ってくるのか。良いタイミングだな」
俺の自慢の息子の一人、長男のエド・レンスリー。
あいつは「業火のエド」という二つ名を持ち、このギルドで誰よりも早くS級冒険者になった男である。
エドの力があってこそ、「明星の鷹」は今の地位につけたと言ってもいい。
もちろん、父である俺の才覚が優れているという前提条件はあるがな。
「はい。Aランククエストを見事達成されたそうです」
「そうか。まあ、あいつの実力なら当然だろう」
これでまた一つ、俺のギルドに功績が加わったことになる。
喜ばしいことだ。
「ユウリとジェラはどうしている?」
「お二人とも、それぞれAランククエストに挑戦中です。直に良いご報告ができるかと」
「ふむ。あいつらもエドを手本に育ってきたからな。当然か」
次男、ユウリ。
三男、ジェラ。
まだまだエドには劣るが、あいつらも優秀な駒であることに変わりはない……特にユウリの方は中々使えるようになってきたからな、二つ名を得るのも秒読みだろう。
今年の対抗戦で、俺のギルドはさらに上の序列を目指せる。
「……ふん」
本当なら、使える駒は四つのはずだったのだが。
あの忌々しい「無才」のせいで、俺の計画に多少の遅れが出たのは言うまでもない。
実に嘆かわしいことだ。
せめてもの情けで与えた山小屋に住み続けているらしいが……あんなところサッサと売っぱらって、どこか遠くへ消えればいいものを。
俺への当てつけなのだとしたら、ふん、成功はしているな。
こうして、思い出したくもない奴のことを考えてしまうのだから……
「エドさんが帰ってきたぞー!」
眉間にしわを寄せていると、ギルドメンバーたちの歓声が耳に届く。
どうやら、我が息子が帰還したらしい。
入り口の扉が開き、向こうから見慣れた顔がやってくる。
「ただいま戻りました、父さん」
「うむ。滞りなく終わったか?」
「ええ、ご心配なく」
爽やかな笑顔を浮かべながら、エドが答えた。
受付嬢共がキャーキャー言っているのが気に食わんが……まあ良しとしよう。
「俺はしばらく公認ギルド会議でここを空けることになる。その間、しっかりとみなをまとめておいてくれ」
「承知しました」
「それと、あまり調子に乗り過ぎるなよ。お前はまだまだ上を目指せるんだからな」
「わかっていますとも。『明星の鷹』の序列を上げるため、日々鍛錬は怠りません」
「ならいいが。最近女遊びが派手だと聞いているぞ」
「はははっ。これは耳が痛いですね……ですが、今年は気合が入っていますよ。なあみんな!」
おー! と、エドに合わせて雄叫びを上げるギルドメンバーたち。
うむ、全て順調だ。
優秀な息子たちに、頭一つ抜けた長男。
美人な受付嬢と、そこそこ優秀なメンバー。
俺の求める最高のギルドが、確実に近づいてきている。
全ては俺の計画と才能のなせる技……我ながら笑いが止まらない。
「ガーハッハッハ――」
ズズン
突然、鈍い音が響く。
ギルドの入り口――重い金属製の扉が破壊されたのだ。
その向こうに、人影。
「だ、誰がやりやがった!」
「俺たちに喧嘩を売るったあ、良い度胸じゃねえか!」
扉付近にいた者たちが、一斉に不審者へと飛び掛かる。
が。
「ぐああああああ⁉」
「ぎゃあああああ‼」
一瞬にして、十数人が吹き飛ばされた。
「ちっ、使えない奴らだ……最近流行りのギルド潰しか? ここが『明星の鷹』だと知っての狼藉だろうな」
俺の呼びかけに答えぬまま、人影はゆっくりと前進し。
その全容を明らかにした。
「久しぶり。父さん、エド兄さん」
そこにいたのは。
四年前に追放したはずの、「無才」の役立たずだった。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜
海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。
そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。
しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。
けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最古のスキル使い―500年後の世界に降り立った元勇者―
瀬口恭介
ファンタジー
魔王を倒すも石にされてしまった勇者キール。スキルが衰退し、魔法が発達した500年後の世界に復活したキールは、今まで出来ることのなかった『仲間』という存在を知る。
一見平和に思えた500年後の世界だったが、裏では『魔王候補』という魔族たちが人間界を我がものにしようと企んでいた。
それを知ったキールたちは魔族を倒すため動き始める。強くなり、己を知るために。
こうして、長いようで短い戦いが始まる。
これは、一度勇者としての役目を終えたキールとその仲間たちが自らの心象を探し求める物語。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
※元勇者のスキル無双からタイトル変更しました。
※24日に最終話更新予定です。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる