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無才、剣を振る

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 この世界にはモンスターと呼ばれる人外生物が存在する。
 奴らは人間に害なす生き物であるため、山小屋にほっぽり出された僕は自衛の手段を講じなくてはならない。
 そのための剣である。

「おも……」

 両腕にずっしりとくる重量感に、さっそく心が折れかけた。
 が、文句を言っていても始まらないので、とにかく鞘を腰に差してみる。

「……」

 恐ろしく不格好だが、気にすることもないか。
 どうせ誰も見ていないのだし。
 僕は山小屋から外に出て、陽の光に目を細めながら適当な場所を探す。

「さて……」

 ここから先は未知の領域だ。
 何となく剣を引き抜き、それっぽく構えてみる。

「……」

 正解がわからない。
 それもそのはずで、剣に触ったのはこれが初めてのことなのだ。
 人口の約五割がスキルを持つこの国において、剣をはじめとした武器の類は酷くマイナーな存在なのである。

「……」

 とは言っても、ただじっとしていても意味がない。
 構えた剣を両手で握り込み。
 振り上げ、下す。

「うーん……」

 まあ、一応形にはなっている……のかな?
 もしかしたら盛大に間違えているかもしれないが、生憎指摘してくれる人もいない。

「ふっ……ふっ……」

 黙々と素振りを続ける。
 こうして剣を振るうのは初めてなのに、なぜか飽きることはない。
 それどころか――むしろ。
 どんどんと手に馴染んでくるような。
 旧友と語らっているような。
 そんな奇妙な感覚に襲われる。

「……」

 さすがの僕も、違和感を覚え始めた。
 あまりにもしっくりくる。
 欠けていたピースが埋まり。
 喪失感が消えていく。
 全ての神経が剣に集中し。
 心地の良い充足感が溢れてくる。
 気づけば。
 僕は、すっかり日が暮れるまで素振りを続けていた。
 一時も休むことなく、ひたすらに。

「さすがに疲れた……」

 四肢を投げ出し、その場に仰向けに倒れこむ。
 全身が疲労で悲鳴を上げ、意識は朦朧と混濁する。
 それでも、後悔はなかった。
 血塗れになった両手は、勲章のように光り輝いている。

「……」

 スキルを発現できず「無才」となった今。
 僕にできることは、これしかないのかもしれない。
 剣。
 時代遅れも甚だしい、スキルに比べたらゴミみたいな存在。
 それを極めたいと、本気で考え始めている。

「……今さら何やったって同じだよな」

 ギルドを追放され、家を勘当された僕には、残されたものなんて何もない。
 裏を返せば、何をしても失うものはないということ。
 なら、自分の気持ちに正直になろう。
 僕は今、剣を振りたい。
 一秒でも長く。
 一瞬でも早く。

「……はは」

 思わず、自虐的な笑いがこぼれた。
 父さんに見捨てられた僕と、役立たずの烙印を押された剣という武器……これ以上似合いの組み合わせもないだろう。
 けれど。
 皮肉でも自虐でも、不格好でも不器用でも。
 それを咎めたり笑ったりする人は、ここにはいない。
 いるのは、ウィグ・レンスリーただ一人。

「……」

 僕は無言で立ち上がり、素振りを再開する。
 黙々と。
 全ての想いを、剣に込めて。





 一年目は、ただひたすらに剣を振り。
 二年目は、家族への憤りが太刀筋を強め。
 三年目に、山にいるモンスターを狩りつくした。

 そして――四年目。

 十九歳の誕生日を迎えた僕は、山を下りる。
 目指す場所は一つ。
 国家公認ギルド、「明星の鷹」の本部だ。





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